「愛してる」のきっかけ「ふぅふぅちゃんってさ、俺の<愛してる>信じてないよね」
「え」
隣でコーヒー飲む浮奇が呟いた
「そ、そんなことないぞ。だとしたら今、我たちは何をしてるっていうんだ」
「デート。そうじゃなくてさ」
ぺたり。我と彼の間に、まさしく壁があるように手を動かす。
所謂パントマイムというやつ。
「ここはモニターの外だよ」
「?」
「ふふちゃんやっぱわかってないかあ」
壁の中央に、ドアがあって。ノックする仕草。
まるで本当にそこに扉があるかのように。
「May I come in」
「welcome」
ガチャ。開けたドアから少し顔を出して。
「would you step into me」
「……」
ん、と動きが止まってしまった。ああ。そうだ。
踏み込めて、いない。
浮奇に嫌われたくないし、いつか消えてしまうなら私のものにならなくていい。
喧嘩別れだとかするくらいなら。
我の蜜を君が全部吸い取って、無くしてくれればいいんだ。
与えられなくなるのが怖い。
自分に、君にとっての価値がなくなることが。
いつかいなくなった時に、『ああ、あの人は?』なんて聞かれて後悔したくなかった。
「ふふちゃん、おいでよ」
ぽす、と我の肩に頭が乗って手を絡められる。
真夏のカフェのテラス。朝早いせいか人は全然いなかった。
「いい?俺はね、どんな世界でも、どんな君でも。サイボーグでも、ベッドに繋がれてても。或いは…エルフと人魚だったとしても……ソーセージとパンだったとしても。君を愛してるの。」
絡められた指に愛おしそうに口付けて。
「ふふちゃんだけは俺が怒ることしてもいいよ。あ、浮気はダメだけど。俺が1番魅力的だから」
なんて眩しいんだろうか。
麦わらから透けた光が紫の糸を透過して。
眩しくて、木漏れ日に溶けてしまいそうだ
「俺、さみしいよ。隣にいるのに」
睫毛に光が乗って、頬に影が落ちる。
少し尖らせた唇はプランパーの効果でいつもよりぷっくりしている。
「…すまない、そんな顔させて。」
「悲しませるのもダメだから」
「ああ、My queen 」
クイーンの仰せのままに。
いや、違う。
『私が』
世界に見せつけたいんだ
手を引いて立たせる。
麦わらを外して、
「ふふちゃん…っ!?んぅっ」
カフェに人は居ないけど、
反対の通りは人が沢山歩いている。
突然のラブロマンス、失礼します。
なんて可愛くて、なんて小さいんだろう。
引っ張られて背伸びが崩れて。
我に抱き込まれる。
「ばっっっっっっっっっっっっっかじゃないの!?」
真っ赤な顔で逆毛を立てた仔猫みたいに驚いた顔と目が合った。
「…ふはっ」
「信じられない!!!ご近所さんもいるかもしれないのに!?」
「んふふ…」
「もう!!!立たなくてもよかったじゃん!!!」
「かわいいなうききは」
「んむぅ」
頬を挟むと見たことないむくれ顔。
「んーまっ」
「またキスした…っ!」
「hehe〜」
みるみる真っ赤になって、麦わらを取り返されると深く被ってしまった。
そういえばイライラしてる顔や、フリーズしたみたいに考え込んでる顔
美しい泣き顔は見ることがあっても
戸惑ってる顔や呆れてる顔、むくれ顔はあまりみたことない。
モニターの向こうじゃなくて彼はここにいる
今、私のためだけに。
「うきき、愛してるよ」
「…ん、」
「思ったらすぐ伝える」
「…ん?」
「配信中でも、買い物中でも。勿論ベッドの中でもな」
「…〜〜方向転換、激しくない…?」
「ドアを開けただけだ」
イギリスは晴れの日が少なくて、日を浴びるのに苦労した。
今はどうだ。横に真夏の太陽がいる。
正面じゃなくて、隣合わせで向き合った。
「夏の香りがするな」
「うん、夏の香水に変えたの。」
「舐めまわしたい」
「………ごめん、手加減して…?」
今度はじっと見つめあって、もう一度唇を重ねた。
覚悟しろよ、我は愛情深いんだからな。