『零余子はある日、酒の席で黒死牟様から「無惨様に似た鬼に… どうもー!
れいよし、こと零余子です!
最近、仕事が忙しくて全然新刊が出せてないんですけど、ネタだけは豊富なんですよね。
それは忘年会の時だったんですけどね、無惨様も黒死牟様も物凄く飲んでて、そんなに飲んじゃったら今夜、お楽しめないじゃないか! と心配になりながら見守ってたんですけどね……なら、突然、誰かが「無惨様と黒死牟様って喧嘩したら、どっちが強いんですか?」なんて聞き始めたんですよ。
「私の方が強いに決まっているだろう」
ふふんっとドヤ顔で言う。雇用主というバフを解除したら? と質問すると、それでも自分だと無惨は主張する。
確かに無惨もあらゆる武道の有段者であり、なかなか良い体をしていことを皆が知っている。勿論、素手で人を殺せるタイプである。
そんな無惨を見ながら黒死牟は余裕綽々と言った様子で笑う。
「まぁ、無惨様もお強いですからね」
「なんだ、その言い方は」
無惨も強いが、黒死牟と戦うとなると体格差の時点で明らかな不利が発生する。いくら無惨が強いと言っても特殊部隊出身の黒死牟とは勝負にならないのだ。
「やってみないと解らないだろう」
無惨はワイシャツの袖を捲り、黒死牟にウザ絡みしている。
「戦わなくても解っています。無惨様では私に勝てません」
そんな強いのに、自分より弱い無惨にベッドではあれやこれやされて泣かされるって超エロくね? と零余子は酔いが覚め、猛スピードでタブレットにネタを打ち込んでいる。
「ですが、無惨様にそっくりな、あの鬼には手も足も出なかったですね……」
「黒死牟」
ピリッとした空気が二人の間に流れる。
無惨様にそっくりな鬼? 黒死牟は一体何の話をしているのだろうか。
皆が首を傾げていると「酔っ払いの戯言だ」と無惨は手を叩いて話を切り上げた。
「ほら、酔いが覚めたから飲み直すぞ。シャンパンを開けるぞ」
そう言って無惨は高級なシャンパンをポンポン開けて、皆、水のように飲んでいる。
その後はどうやって皆帰ったか解らない。
酒を一滴も飲んでいない未成年の獪岳がそれぞれをタクシーに押し込んで片付けてくれたみたいだ。勿論、無惨と黒死牟は同じタクシーに押し込み、黒死牟のマンションに帰るように伝えた。
その後、二人がどうなったか知らないが、二人もその時のことをよく覚えていないのではないかと思う。
「酒如きで潰れるなど、情けないぞ、私の月」
青い爪先で火照った黒死牟の頬をいとおしそうに撫でる。目の前で堂々と浮気する主を見て、六つ目の鬼は露骨な咳払いをした。
「そう妬くな、私の月」
「月はふたつもいらんでしょう」
体から産み出した無数の目を持つ刀を握り、その切っ先を黒死牟に突き立てようとした瞬間、意識を失っていた筈の無惨が起き上がって六つ目の鬼の手を掴んだ。
「私の黒死牟に何をする」
「揃いも揃って『私の』『私の』と……」
「よせ人間。お前はそこに転がっている私の月より弱いであろう」
無惨によく似た鬼が笑うと無惨は不愉快そうに舌打ちする。
「私が黒死牟より弱いと? 寝言は寝て言え。あと、黒死牟は私のものだ。お前ごときが『私の月』などと呼ぶな」
「随分と威勢が良いことだ」
「それに無惨様より、よほど私のことを大事にしてくださっていますね」
「お前たちも私たちと同じ名なのか……?」
黒死牟を庇いながらも無惨が不思議そうに二人を見つめるので、鬼の無惨は爪先で無惨の額を弾くと無惨は一瞬で意識を失った。
「これは夢だ、綺麗に忘れろ」
そう言い残して、鬼と無惨と六つ目の鬼は姿を消した。
翌朝。黒死牟は無惨の悲鳴で目を覚ました。
洗面所の鏡を見た時に額に小さな痣が出来ており、美しい顔に傷がいったと気が狂ったかのように大騒ぎしていた。
「酔っ払って、どこかにぶつけたのでしょう」
「私としたことが……」
大急ぎで保冷剤で額を冷やすが無意味だと解っている。その上、何と無く不愉快な夢を見たようで機嫌が頗る悪いのだ。
「あんな男が私の黒死牟を『私の月』と呼ぶなんて……」
覚えていたのか。黒死牟はてっきり自分だけが見た夢なのかと思っていたが、やはり時々あの鬼二人にエンカウントしているのは幻ではないのだな、と再確認した。
そんな夜の幻を知らない零余子は新刊で「鬼の無惨×秘書」の話を書いて、いつも以上に黒死牟にこっぴどく怒られた。