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「ブラックで良かったですよね」
「平気だ。ありがとう」
助手席に乗り込んできた尾形から、既に汗をかき始めているプラスチックのカップを受け取る。掌から伝う冷たさが気持ちよくて、ストローで一気に半分程吸い上げた。やけくそに冷やされた苦みがするりと喉を伝い落ちる感覚。一口で半分を飲み干した月島に、尾形はやや眉を顰めて「肺活量」とぼやいた。
暦上は一月だというのに、今日は随分と陽が照っていた。昼過ぎの太陽はじりじりと社用車ごと二人を焼く。ヒートのαを抑え込むという重労働をした上にこの天気もあってか、いつも涼しい顔で澄ましているの尾形の首筋にも、うっすらと汗が滲んでいた。
作り物めいた男の確かな生物としての証が物珍しくて、思わず横眼でじっと見つめる。尾形はその視線に気づいて器用に片眉だけを上げて笑って言った。
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