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    紫蘭(シラン)

    @shiran_wx48

    短編の格納スペースです。

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    紫蘭(シラン)

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    グルアオです。
    不穏注意です。

    傷ついた白うさぎの結末は/グルアオ十四歳の誕生日、私は勇気を出して雪山にいる彼に告白をした。

    「グルーシャさん!すすすす好きです。私と付き合ってください!!」

    それはもう、パルデア最高峰から身一つで飛び降りるくらいの覚悟だった。
    四天王の皆さんや トップチャンピオンのオモダカさんに挑んだ時、いやもしかしたらそれ以上に緊張していたし、立ってられないほど不安で足が震えていた。
    だって初めて好きになった人に、自分の想いを伝えるんだから。
    これくらい緊張したっておかしくなんかない。

    だけど、告白を受けた側からの回答は、一言だけだった。

    「そう」

    たった二文字。そこから何か言葉が続くのかと思って目を閉じながらじっと待ったけれど、聞こえるのは近くに雪で遊ぶアルクジラの足音だけ。
    恐る恐る目を開けてグルーシャさんの顔を見てみれば、普段通りの無表情。
    顔の半分がマフラーで隠れてしまっているから、私の告白が嬉しいのか嫌なのかどうかさえわからない。

    あまりにもリアクションがなかったから、私の声聞こえてるのかどうか怪しく思ってしまった。

    「あ、あの…私、グルーシャさんのことが、男性として好きなんですけれど…」
    「うん、さっき聞いたよ」

    ちゃんと聞こえていたみたいだった。
    だけど、YesかNoかの答えは聞けていない。

    「お、お返事は…?」
    「さっき答えたよね?」

    さらりと返事されてしまったけれど、どこで告白の答えを言ってくれたのか全くわからない。
    え、もしかして そう がグルーシャさんの答え!?
    それってどっちの意味なんですか!?

    はっきりとした回答がほしいと食い下がろうとしたところ、ナッペ山ジムの方から若いスタッフが 雪に足を取られながら一人走ってきた。

    「グルーシャさん、ポケモンリーグからお電話です」
    「悪いけど、仕事があるから。じゃあね」

    軽い別れの挨拶を告げると、グルーシャさんはアルクジラを連れて施設内に入っていってしまった。
    取り残されたのは、一世一代の告白をした私 ただ一人。

    今の状況が理解できず、呆然と立ち尽くすしかなかった。



    この日の夜、私は寮の食堂で生まれて初めてやけ食いをした。
    お腹が破裂しちゃうんじゃないかってほど飲み食いを繰り返して、最終的には友達から羽交い締めされてしまったけれど、溢れる涙とそれでもご飯を掻き込もうとする手を止めることはできなかった。

    え、好きだと言われてこの対応なんて、あり得る?
    まさかYesともNoとも言ってもらえず、そう と軽く流されてしまうなんて…。

    嫌だったら、迷惑だったら こんな中途半端じゃなくて そうだとちゃんと言って欲しかった。
    でも愚かな私はここまで酷い対応を取られたのに、グルーシャさんのことが好きだという気持ちに変化はなかった。

    告白をした次の週、もう一度グルーシャさんに会いに行ったけれど、これまでと変わらず至って普通だった。
    好きと言った私を意識するわけでもなく、面倒だと思っているわけでもない。
    普通にポケモンバトルをして、普通に世間話をした後解散した。

    帰り道、心の中で決心した。
    これから私のことを意識してもらえるようアプローチをかけて、好きだという告白に絶対にYesと言わせてみせようと。

    ただしうるさいと思われたくなかったから、告白をするのは年に一回 私の誕生日の時だけにする。
    それ以外は、好きと思ってもらえるよう積極的に努力するだけ。

    諦めなければ、きっといつか私のことを好きになってもらえるはずだ。

    根拠のない自信を胸に、この日から私は無謀なチャレンジに挑んだ。



    十五歳の誕生日、大人っぽく見えるよう 少し髪の毛を伸ばした状態で彼に会う。

    「グルーシャさん、好きです。私と付き合ってください!」
    「そう」


    十六歳の誕生日、ニキビが増えてきたからリップさんから教わったスキンケア方法で自分磨きをした状態で彼に会う。

    「グルーシャさん、大好きです。私の恋人になってください!」
    「そう」


    十七歳の誕生日、学校が休みの日だったから 精一杯大人っぽく見える服装とメイクをして彼に会う。

    「グルーシャさん、本当に好きなんです。私の気持ちは変わりません。
    憧れを勘違いしているわけじゃない。…だから、応えてください」
    「ぼくはちゃんと知っているけど」


    毎年毎年挑んでみても、結果はあやふや。
    私のことをどう思ってくれているのかどうかさえ、わからない。

    でも、縋りついて無理矢理でも聞き出そうとしたら、本当に嫌われてしまうんじゃないかって考えると、だんだんそれ以上は何も言えなくなった。
    もしかして、私の恋心は年上に対する憧れと勘違いしていると思われているんじゃないかと思って、今回それは違うとはっきり伝えたけれど それに対しても 溶けた氷がこぼれ落ちるようにさらりと流されてしまう。

    グルーシャさんの本心が全くわからない。

    どうしてちゃんと向き合ってもらえないのか、ベッドで泣きながら考えても私はグルーシャさんじゃないから検討もつかない。
    好きだと伝えても、出会った当初から全く変わらない態度・声・表情。

    せめて何らかのリアクションは取って欲しかった。
    それなら、もう諦めた方がいいのか それとももう一踏ん張りした方がいいのか判断がつくのに。
    解答のない難問に挑戦し続けているようで、辛い。

    もうそろそろ十八歳になろうとする頃には、諦めなければいつかきっと振り向いてもらえるという前向きな気持ちは すっかり萎んでしまっていた。

    それでも、私の心の中にはグルーシャさんが好きだという気持ちが残っていた。
    酷い人だと分かっていても、長年蓄積された頑固な恋心はピクリとも動いてくれない。

    だけどもう、次で最後にしよう。

    来週の誕生日に告白をして、またはぐらかされてしまったら 来年からはもうしない。
    でも、この気持ちを捨て去ってしまうこともすぐにはできない。
    だから、告白をしてそのまま卒業となれば パルデアを離れよう。

    彼の噂や近状だとかが耳に入らないほど遠い地方に行って、今度はグルーシャさんのことを忘れられるように。

    そうじゃないと私は前に進めない。
    ずっと辛いのに、無視し続けているといつかきっと壊れてしまう。

    そんなことになって、グルーシャさんの迷惑になんて絶対なりたくなかったから、だから諦められるよう努力しよう。


    四年かかってようやくその決心がついた私は、スマホロトムで来週会いに行くことをグルーシャさんに伝えた。
    いつもなら分かったとしか返事はこないのに、返ってきたのはどこかの住所。

    地図アプリで検索してみても、ナッペ山ジム付近としか表示されない。

    彼の意図は何なんだろうと一瞬思ったけれど、どの道来週になればわかることだとして考えることを放棄した。




    約束の日の当日 指定された場所に行くと、グルーシャさんは外で待っていた。

    「グルーシャさん、あの…」
    「サムいから中に入って」
    「いや、でもここはどこですか?カフェでもなさそうですし、勝手に入るとまずいんじゃ…」

    もの静かな家の前。
    ここがどこで誰の所有するものかがわからないのに、中には入れない。
    説明を求めたら、あっさりとぼくの家だと白状した。

    「え、グルーシャさんの家 ですか?なんでここに…」

    いつもとは違う流れに困惑が隠せない。
    だって、毎年ナッペ山ジムのバトルコート付近で話をしていたから。

    私の質問に対して、グルーシャさんはこてんと首を傾げる。

    「ぼくのことが好きなんでしょ?四年分の答えを全て伝えるから中に入って」

    青い手袋をつけた手によって、腕を掴まれる。

    「え、今教えてもらえたらそれでいいんですけれど…」

    何だか様子がおかしい。
    私の告白の返事をしてくれるなら、今ここで言ってもらえたら済む話だ。
    どうして家の中に入れようとするんですか。

    本能的な恐怖を感じて、一歩後ずさる。
    そんな様子を見て、グルーシャさんは目を細めた。

    「そんなに怖がらなくてもいいから。ほら、おいで」
    「せめて、家の中に入れようとする理由を、教えてください」
    「外じゃできないことをするから」

    なお食い下がって問いかける私に対して、彼は簡潔に言う。
    話が読めない。
    本当にこのまま行ってしまってもいいの?

    「何を言ってるんです?」

    恐る恐るもう一度聞き返せば、腕を引っ張られて彼との距離がぐっと近づいた。
    そして、耳元で囁かれた言葉を聞いて 瞬時に顔に熱が集中する。

    目線をグルーシャさんの顔に向けると、彼はマフラーを下ろして心底嬉しそうな顔で妖しく笑っていた。

    「四年…ううん、六年間もぼくはずっと我慢し続けていたんだ。
    その分、たくさんぼくの気持ちを受け止めてね、アオイ」

    これまでと今とでは全く異なる反応に頭が混乱している間、気がつけば私は家の中に引き摺り込まれていた。


    終わり
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