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    toraji_0w0

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    前回の拙作には感想など頂き誠にありがとうございました。
    続きました、楽しんでいただけますと幸いです。

    現パロ美大生のNoctyxの話
    🔮🐑
    ⚠️美大に関することは全てフィクション
    ⚠️芸術関係素人が書いています

    #PsyBorg

    No title #2――6月

    世間一般では「梅雨」といわれるこの季節。
    長く続く雨とは関係なしに浮奇の心は沈んでいた。




    「ふーふーちゃんが構ってくれない…」
    触覚を縮めたかたつむりのごとく、頭を抱え込んだ浮奇の前に置かれているのは学食の人気サイドメニュー「季節の野菜スープ」、今の時期は春キャベツのポタージュである。
    5月初頭、浮奇が初対面にも関わらず熱烈な告白をした相手。ふーふーちゃんことファルガーはこのところフィールドワークに夢中で昼食時、五人の恒例となった集まりにも顔を見せないことが多くなっていた。
    写真科のファルガーは基本的に学内での講義がメインの音楽学部や芸術学科とは違い、講義中でも被写体を求めて校外に出ていることがあり、座学が無ければそのまま直帰することも珍しくなかった。
    浮奇も初めは「ふーふーちゃんに会えなくて寂しい…」などとしおらしく過ごしていたがここ数日は、ファルガーって意外と真面目だし、熱中しだすと止まらない質だから仕方ないんじゃない?と、浮奇を慰めるためフォローを入れたアルバーンに対しても
    「ふーふーちゃんのこと知ったような口利かないで?」
    と噛みつく始末である。
    少なくとも、アルバーンの方が浮奇よりファルガーとの付き合いは長い、所詮一ヶ月程度の誤差ではあるが。
    ――恋は盲目。愛は人を愚かにする。
    浮奇なんか雰囲気変わったね。とはサニーの言であるが、アルバーンからするとあれは…
    (なんか頭のネジとんじゃってない?)
    そう思わずにはいられないのである。





    昼過ぎからぱらぱらと降り出した雨粒はその勢いを随分と強めていた。
    (…今日は5限が休みだしバイトも無いから早く帰ろう)
    学部棟から足早に校門を目指す浮奇の視界、雨簾の重なる向こうにうっすらと見える人影。
    (――あ、)
    この雨の中、傘も差さずにカメラを構える姿を見つけて。
    居ても立っても居られず足早にそちらへ向かった。
    「…ふーふーちゃん!」
    雨音にかき消されないようにできるだけ大きな声で呼びかける。
    カメラを構えた身体が僅かに身じろぎ、前髪をかき上げながらこちらを振り返った。
    「浮奇」
    久しぶりに聞く彼のハスキーボイスが身体に響きわたる。
    「何してるの、傘も差さないで」
    ぐいっ、と少し強引に彼の身体を引き寄せ傘の下に入れる。
    濃いグレーのシャツはすっかり濡れてしまっており、美しい髪からもぽたぽたと水滴が零れ落ちている。
    ファルガーはそれには答えず、曇天の雲よりも深い鈍色の瞳でじっと浮奇を見つめた。
    久しぶりに会えただけでも嬉しいのにそんなに見つめられたら…と、浮奇は耳が熱くなるのを感じて微笑んだ。
    「ふーふーちゃん…そんなに見つめられたら、俺…」
    頬に伸ばした指先が触れる前に浮奇の耳に「…やっぱり似てるな」という呟きが届く。
    (誰に…?)
    火照っていた頭がす、と冷えた浮奇に対して
    あぁ、と動いたファルガーの視線の先。
    濃い緑の大きな葉が茂った一角。
    ピンクがかった紫の鞠花。
    今がまさに花盛りの、

    ――紫陽花

    「雨に濡れた様が綺麗だと思って眺めていたんだけど…」
    それが段々、浮奇に見えてきて…気が付いたら夢中になってた。
    と、事も無げに告げられる。
    (…なんていうか、世の中にはこれが許される男と許されない男がいるわけで)
    浮奇に視線を合わせてにこりと微笑むファルガーは間違いなく前者にあたるのだろう。
    そうしている間にファルガーはカメラおざなりにタオルで拭くと背負った鞄にしまい。近くのベンチに立て掛けてあった傘を差した。
    ――折角会えたのにもうお別れなんだ。
    ――仕方ないよ、ちょっと会えただけでも最高だったじゃん。
    ――せめて校門までは一緒に帰りたいんだけどな。
    (最寄り駅とか近かったらどうしよう)
    ふーふーちゃん何線使ってる?そう聞こうとした瞬間。
    「…うち歩いてすぐだけど、寄っていくか?」
    「…え?」
    思いもよらない言葉に思わず声が出る。
    …ふーふーちゃんやっぱり俺のこと好きだよね?
    これで勘違いしない男がいるならそいつは男じゃない。
    そう思わずにはいられなかった。




    ――部屋汚いし、出せるのも紅茶くらいしかないけど。
    (たしかにそう言われたけど、これは…)
    さすがに予想外である。

    玄関からすぐのダイニングキッチンは汚いと言っていた割には物も少なく、しっかりと片付いている印象だった。
    着替えてくるから奥で適当にくつろいでてくれ。浮奇にもバスタオルを手渡し、着替えとタオルを持って脱衣所に引っ込んでしまったファルガーを尻目に浮奇は高鳴る胸を抑え込んだ。
    ――ふーふーちゃんの部屋。
    (一体どんな感じなんだろう…)
    見ちゃいけない物とか部屋に置いてあったらどうしよう…少しだけどきどきしながらドアを開けた浮奇の目に飛び込んできたのは

    ――紙。

    まず、そこら中に書き散らかしてある原稿用紙やメモ、ルーズリーフ。印刷した写真、スケッチであろう画用紙。ゴミ箱から飛び出して溢れている紙の束。
    そして本棚には入り切らなくなったのであろう、参考書や雑誌。画集や論集。芸術関係以外にもハードカバー本や文庫本、果てはライトノベルなどが至る所に積み重ねられている。
    一つきりの窓のすぐ横には、キャンバスが立てられており、描きかけなのだろう…出窓にはパレットや絵具がそのままになっていて、観葉植物の鉢植えや何故かマヨネーズのチューブも置かれている。
    タオルケットだけが乗ったベッドのサイドテーブルにも数冊の本が積んであるが一番上の物は読みかけなのだろう、開いたまま伏せてあった。

    ――汚い、というより
    (物が多くて、雑多で普段のふーふーちゃんとはだいぶ…)
    呆然と入り口に立っていると髪をがしがしと拭きながらふーふーちゃんが横を通り抜ける。
    「汚い自覚はあったが、いざ客観視すると酷いな…」
    ぽいぽいとサイドテーブルに置かれていた本を床に積み、ベッドを叩いて座るよう浮奇に促す。
    誰も来ないと思ってたから椅子すら無いんだ、ごめんな。
    促されるままそっとベッドに腰を下ろしてもう一度部屋を見回す。
    確かに乱雑に散らかっているようにも思うけれど、でも
    (ふーふーちゃんが必要だと思ったものを集めたふーふーちゃんの部屋に今俺は居るんだ…)
    それってとっても…
    口角が上がるのを感じて浮奇は口元を両手で覆った。
    ことり、と。サイドテーブルに湯気をたてたマグカップが置かれる。
    「ミルク必要だったか?」
    「あ、いや大丈夫」
    息を吹きかけ一口啜る。ほう、と息を吐いた浮奇の横にファルガーが腰掛けた。
    ふと視線を下げた先、ファルガーが先程床に置いた本が目に入る。
    「この本…」
    俺も昔読んだよ。そう言って足元から一冊の本を取り上げる。
    それな!俺もずっと好きな本なんだ!
    初めて読んだのは小学生の頃で…とファルガーが思い出を語るのを聞きながら本の表紙をそっと撫でる。
    ぱらぱらと聞こえる雨音はまだ当分止みそうもない。
    心地よい音に耳を傾けながら、紫陽花はふわりと笑いマグカップに口をつけた。







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