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    くるしま

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    くるしま

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    雑土の続きが進まないので、何か別のを書きたいなと思ったら前日譚的なものになりました。
    雑←土の自覚編的な感じ。

    あんまり内容がないので、支部に上げるか悩み中。

    #雑土
    miscellaneousSoil
    #雑土井
    miscellaneousWells

    土井半助自覚編(雑←土)「あ、雑渡さん。お久しぶりです」
    「やあ」
    「こんにちはー」
    「はい、こんにちは」
    「昆奈門さん、どうされたんですかぁ~」
    「こちらに寄ったついでにね」
     活動中だった保険委員と、雑渡昆奈門が、忍術学園の片隅で和やかに会話をしている。
     通りかかった土井半助は、あれはいいのかと若干思いつつも、楽しげな空気を見守っていた。
     雑渡昆奈門という男は、忍びとしては恐るべき相手だ。
     ただ、生徒には割と甘い。生徒によって彼から助けられたと報告が入るたびに、教師たちに情報は共有される。そのたびに教師たちは、頭を悩ませる羽目になる。
     部外者から生徒への接触は、基本的に、学園長を含めた教師たちに知らされる。
     忍術学園に悪意を持つ者の中には、生徒から籠絡しようという考えを持つ者がそれなりにいる。
     部外者の情報を総合して、関係を断たせるか、逆に利用するか、とりあえず静観するか、判断をする必要がある。
     雑渡については、今の所、静観の判断が下されている。少しだけ不安を感じつつも、学園長や年嵩の教師たちが手を出さないなら、まだ若輩の土井もそれに習う。
     実際、彼は子供たちの前では(戦場でなければの話だが)、基本的に温厚だった。笑いさえする。教師たちを前にした時の、一切隙を感じさせない佇まいとは別人のようだ。
     子供が好きなのだろうか。そう単純でもない気はするが。
     そう思いながら、土井は一年生とじゃれる雑渡を見ていた。
     ふっと、雑渡がこちらを見る。
     彼はこちらを見て軽く一礼し、土井も同じように返す。
    「あっ、土井先生ー」
    「土井先生。何か御用でしたか?」
    「いや、そういう訳じゃないよ。委員会活動の後は、ちゃんと予習復習もやるようになー」
     生徒に注意を促して、土井は彼らに背を向けた。
     土井を見た雑渡は、ほんの束の間、忍びの顔に戻ってこちらを伺った。それが和やかな空気を少しだけ切断して、生徒たちは土井に気付いた。
     意図せず邪魔者になってしまったような気がして、少しだけ申し訳ない気持ちになった。
    (もう少し、穏やかなあの人を見ていたかったな)
     浮かんだ気持ちに、「ん?」と足を止める。
     見ていたかった。
     生徒たちを、ではない。
     雑渡を、だ。
     確かに土井は今、そう思った。
    「え?」
     背筋に冷たいものが走る。
     雑渡は今すぐどうこうするべき敵ではないが、忍術学園にとって油断は見せられない相手だ。
     観察したい、見張っていたい、ではない。決して教師たちには見せない雑渡の顔を、ただ普通に、見たいと思った。
     足が動かない。
     目を引く男だとは思っていた。監視するように見ていた事はあった。
     だが、感情を伴った目で見た事はない。今までは。
     何らかの感情を抱いていい相手ではない。特に好意は駄目だ。悪意の方が、まだマシだ。
    「えぇ……?」
     嘘だろう、と思ったが、他の誰でもない己の心に浮かんだ感情だ。誤魔化しは効かない。
    「土井先生。どうされたのですか?」
     廊下で立ち止まったままの土井に、通りすがりの生徒が声をかけてきた。はっとして目をやると、食満、しんべヱ、喜三太が土井を見ている。用具委員の作業中なのだろう。それぞれに修繕道具を持っていた。
    「土井先生、お腹空いたんですか?」
    「しんべヱじゃあるまいし」
     いつも通りの声に、土井は無意識に固くなっていた表情を和らげた。
    「お加減が悪いのですか?」
     食満が尋ねる。素直な彼は、心配そうな顔をしていた。一年生たちが、土井を見る。
    「えっ、また胃ですか?」
    「先生、気を付けないと!」
     よく土井の胃を痛めさせる二人が言うから、苦笑する。
    「そういう訳ではないよ。少し、考え事をしていてね。足を留めさせてすまなかった」
    「大丈夫ですか?」
     なおも心配そうな食満に、いつもの顔で土井は笑う。
    「ああ、大丈夫だよ。ありがとう、留三郎」
     それでようやく食満は納得したようだ。
    「わかりました。よし行くぞ、二人とも」
    「はーい」
     元気な返事が重なって、用具委員が揃って歩く後姿を見送る。
     土井が守りたい、大切な生徒たちだ。彼らを見た事で、思考は少し遠のいた。
    「よし」
     気を取り直し、前を見る。
     そして、決めた。
     忘れよう。
     任務に無用な感情を抱いた事はある。消した事もある。消す方法も知っている。
     今度だって、同じように消せるはずだ。
     土井の見る限り、雑渡は土井にさしたる興味はない。用がなければ、絡んでくることもないだろう。
     これまで通りの距離で接していれば、この胸にともりかけた火は、容易に消せるはずだ。
     再び歩き出した土井の足取りは、普段通りのものだった。


     実際、何事もなければ、その通りになったはずだ。
     後からこの日を思い出した土井は、そう思う。
     雑渡が唐突に土井の元を訪れたのは、ここからひと月ほど後の事だった。
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