モーニング朝 7:30
カタカタという音やトントンという音が聞こえてくる。段々と音がはっきり聞こえてきた頃にはどこからかいい匂いがしてくる。
(そろそろか…)
そう思いながら身体を起こし、横を見ると、自分を挟んで左右に膨らみ2つがある。1つは頭までブランケットを被りそこから金色のサラサラした髪が見えた。ルカだ。いつもの可愛い寝顔が見られず少し残念に思いながらもう片方に目を向ける。
こちらも頭まですっぽりとブランケットを被っているため、誰かが分からない。だが昨日ミスタの隣で寝たのは確かシュウだ。朝があまり強くないシュウはこの家で1番起きるのが遅い。低血圧なのだろう。起こして不機嫌になることは無いが、なかなかベッドから離れることが出来ず、1番準備に時間がかかる。幸い今日は何も予定がなく久しぶりにオフが揃ったため、5人でゆっくりしようと先週から決めていた。
(てことは1階でご飯を作っているのはヴォックスとアイクか)
いつも通りの朝。少し違うと言えば朝はランニングに出かけているルカがまだ寝ていることだろうか。
ヴォックスとアイクが起こしに来る前には、寝坊助2人を起こして降りたい。なら今すぐ起こした方がいい。
「シュウ〜、ルカ〜、起きろ〜そろそろ朝飯できるぞ」
そう声をかけても2人は特に反応しない。
「シュウ〜ルカ〜」
と二人を揺さぶりながら起こしてみる。すると
「…」
とシュウが普段配信では絶対聴けないような低音で返事をする。隣のルカは相変わらず反応がない。
「シュウおはよう、起きれそうか?」
なるべく大きな声は出さない様に、シュウに声をかける。まあ起きたばっかりで大きな声なんてでないけど。
「ヴォックスとアイクが朝飯作ってくれているぞ。多分そろそろできるから、起きような」
そう言うとシュウは甘えたようにミスタの膝に頭を乗せてくる。普段のシュウからは想像ができない甘え方。
(これを知っているのは僕たちだけか)
そう思うと自然に口角が上がり手がシュウの頭にいく。そのまま髪の流れに沿って頭を撫でると気持ち良いのか膝に頭をグリグリしてくる。
「ハハ、擽ったい」
そう言いながらもやめろとは言わない自分はなんだかんだシュウが好きなんだと思う。
3分くらいそうしていると、反対側から
「朝からなんで2人でイチャイチャしてるの?俺も入れて!」
と元気なそれでもシュウのために小さめな声が聞こえてくる。
「おはようルカ」
「おはう…るか…」
「おはよう、ミスタ、シュウ。シュウ大丈夫?」
「……う゛ん」
「ハハ、今日はだいぶマシな方だな。」
「POG よかった。今日は一日休みだからみんなでゆっくりしよう!俺みたい映画あるんだ!!」
そう話していると急に扉をノックされた。
「起きてる?」
この声はアイクだ。
「起きてるよ」
そう返事するとゆっくりと扉が開けられる。
「おはよう。ご飯が出来たよ。顔洗ってリビングにおいで。」
「おはようアイク!今日の朝ごはん何!?」
「サンドウィッチとクラムチャウダーだよ。今日はちょっと冷えるからね」
「POGすぐ行く!!」
とバタバタしながら洗面所に向かっていくルカを見ながらアイクはベッドに腰をかけ、2人でシュウを起こす。
「シュウ、おはよう。起きれそう?無理そうだったらまだ寝てていいよ。サンドウィッチだからいつでも食べられるし」
「そうだな、もし起きれなかったら後で僕と食べよう」
「……起きる……おはようアイク…」
「うんおはよう。下で2人が待ってるよ。顔洗っておいで」
シュウが起きるのを確認し、アイクは下に降りていった。
「…ごめんミスタ、重かったよね」
「全然!僕は鍛えてるし!ムチムチの俺の足は気持ちよかったろ?」
「んふふ、うん。寝心地良かったよ。またお願いしようかな」
「!!!うん!!いつでも任せろ!!早く行こう。みんなが待ってる」
「うん。行こうか」
普段甘えることが少ないシュウが分かりやすく甘えてくれたことに嬉しく、朝から可愛いところが見れてまた口角が上がりにこにこしながら2人で洗面所に向かう。
顔を洗い下に行くと3人が朝ごはんの準備をしている。
ヴォックスはスープを、アイクはお皿やランチョンマット。ルカは飲み物や植物に水をあげている。
「おはようヴォックス」
「おはよう、遅くなってごめんね」
「おはよう2人とも。今日は予定がない。みんなでゆっくりしようじゃないか」
「シュウとミスタは飲み物何がいい??」
「オレンジジュース」
「僕はコーヒーがいいな」
「OK〜!」
そう話しながら各々が席につき
「「「「いただきます!」」」」
としっかり挨拶をし、
「召し上がれ」
を合図に食事を始める。
基本的にこの家の料理担当はヴォックスだ。ヴォックスが居ない時はほかの四人が分担して作ったりするが、ヴォックスがいる時はほぼヴォックスが作ってくれる。元々料理をしていたが俺たちに食べさせるため、さらに人によって食べられるのが違うということもあり、本を買ったりネットを見たりしながら料理を極めようとしているらしい。前に近々料理教室に行こうと思っていると聞いた時は驚いて逆にリアクションが取れなかった。
野菜が嫌いなアイクとルカはハムとチーズとたまごのスタンダードのサンドウィッチ。
特に野菜に抵抗が無いあとの3人はたまごの代わりにレタスが挟まれている。
またクラムチャウダーはかなり細かく微塵切りをしたり、できる限り野菜の味が出ないようにし他に鶏肉を入れたりする。
そうやって食べられない人には極力入れないようにしたりなど、色々な工夫をしてくれている。前に手伝いをしたときに、これはアイク、これはルカ、これはミスタ、などタッパーに分けられているのを見て「僕はいいよ!!」と言ったこともある。それくらいヴォックスは僕たちの食事に力を入れてくれている。それを知っているからこそ、残したり食べ忘れたりせず同棲を始めてから食生活はかなり改善されたと思う。
「POG今日も美味しいね!ありがとうヴォックス!アイク!」
「喜んでくれて嬉しいよ」
「僕はほとんどやってないけどね」
「野菜が入らないか見張ってたの?」
「そうだよ!!大事なことだからね!!」
「ふふ、アイクとルカには大事なことだもんね」
「少し離れたところから猫のようにこちらをじっと見ていたよ、とても可愛らしかった」
「お昼の仕込みの(野菜)チェックも完了済みだよ」
「ありがとうアイク!!!ちなみにお昼は何?」
「簡単にパスタにしようと思っている。おやつも用意するからな軽めがいいだろう」
「え!おやつ!?なに!?」
「ハニートーストだ」
「ハニートースト!!僕好き!!!僕も手伝う!!!」
「ああ、ありがとうミスタ。ただ大きな食パンがないからな。あとで買い出しに行かなければ」
「じゃあみんなで行こう!みんなで行ったらいっぱい買っても問題ないし!」
「そうだね、ちょうど昨日僕のキャビアソースも無くなったからね。あれも買わなきゃ」
「僕のオレンジジュースも。ちょっと変わったやつ買おうかな」
「では、朝食を食べ終わったらみんなで買い物に行こう。」
これもいつも通りの朝。よく見る光景。
毎日朝から賑やかで同棲初日からずっと変わらない光景だ。
特に話したことはないがみんなこの時間が好きなのだとミスタは思う。
「ミスタ、早く食べないとおいて行くよ」
「……え!?まって!!すぐ食べる!!」
「ハハ、慌てないでいいよ。まだ寝ぼけているのだろう。ゆっくりでいい」
「まって!!すぐ終わるから!!」
「今日は快晴!お出かけ日和だ!」
「スーパーに行くだけだけどな」
「でも最近暑いからプールにも行きたくなってくるね」
「プライベートプールでも作ろうか」
「POGいいね俺知り合いに設計詳しい人いるよ!」
「んはは、楽しそうだね」
「ちょっと、止めてシュウ!!ヴォックスとルカが言うと冗談に聞こえない!!」
会話には参加せず一人もぐもぐと朝食を食べているミスタを囲んでみんなが騒ぎ出す。他の人なら朝からこんなに煩いのは嫌がるだろう。僕達だから許される。いいだろ?羨ましいだろ?ってどこかの誰か…例えばリスナーとかに自慢したくなるけど、たまにの供給でいいんだよ、と前にアイクに言われた言いつけを守り誰かに自慢することはないし、リスナーにこういう事を言うつもりもない。けど前にファンアートで俺らの食事風景をイメージで描いているものがあった。そのファンアートもこんな感じでみんながわちゃわちゃしている、言ってしまえば品のない食事風景で英国紳士が…!と思われそうなもので、他の人から見ても俺らのイメージってこうなってんだ!とルカとわらいあったのが懐かしい。
「…ん!終わった!」
「OK、じゃあみんなで」
「「「「「ご馳走様でした」」」」」
「お粗末さまでした」
「俺準備してくる!」
そう言って一番に動いたのはルカ。きちんと食器をキッチンに持ってき、軽く水で洗い流すとそのまま食洗機に入れる。料理担当のヴォックスも流石に食器洗いは好きではないらしく、この食洗機がどうしてもほしい!と引っ越し時に唯一強請ってきたものだ。我が家は、自分の使った食器は必ず自分で食洗機に、これはルールというよりマナーのようなものだが、これをやるかやらないかであとの人への負担がだいぶ変わる。そして食洗機が終わるとそれをもとの位置に片付けるのはミスタの仕事。
「そういえばワックス切れそうなんだった。足りるかな」
「じゃあ僕の使う?シュウと俺は髪質似てるしいけそうじゃない?」
「匂いは?」
「ない!おれ香水つけるし」
「じゃあそれ借りようかな」
「おっけー、じゃあ後で僕の部屋に来いよ〜」
そう言ってミスタもようやく椅子から立ち上がり、食洗機に置いてから部屋に戻った。
今日は買い物だけだけど新しい香水にしようかな〜。さっぱりして夏っぽいし。服は………どうしよう。でもどうせ家でダラダラするならスウェットでいいか
コンコン。
ドアをノックする音が聞こえ、ドアの方に目をやるとすぐに声が聴こえてくる。
「ミスタ、入ってもいい?」
「シュウ!いいよー!」
「ワックス借りに来た」
「机の上!何個かあるから好きなの使いな」
「何が違うの?」
「硬さと持続時間。匂いは全部無臭だよ」
「すぐ家に帰るし緩くていいかな〜」
「じゃあ右から二番目の黒だな。一番やわらかいし持続時間も短い。」
「じゃあこれにするよ、ここでやっていってもいい?」
「どうぞー」
そういうと二人で今日買わなくてはいけないもの、どういうものがほしいなどを話し合う。まあスーパーに行ってこれを思い出すことは殆どないのだが。
今日のミスタはスウェットにゴールドのネックレス、ゴールドの指輪、髪はセットをしない。どうせグチャグチャになるし。そう思いながらシュウを見るとちょうど終わったらしく、シュウもこちらを見てきた。そして二人で「っふ…ハハッ」と笑う。同じタイミングでお互いを見て目が合うことは今までも何度もあったが、やはりおもしろい。
二人でしばらくじわじわと笑っていると下から「二人ともー!!置いていくよー!!!」とルカの大きな声が聴こえてくる。その声でまたお互い顔を見合わせて、ふふっ、と笑う。そして「すぐいくー!」と返事をし二人で階段を降りていく。