ハート・ココロ・チョコレイト "それ"が聞こえてきたのは本当に偶然だった。昼休み、お弁当を買いに廊下を歩いていた道中、視界の端に映る沢山の人だかりの中に、見慣れた浅緑色の髪色が見えたから。反射的に近くの壁に隠れて、聞き耳を立ててしまった。何をしているかなんて見なくても分かる。何故なら、今日はバレンタインデーだから。ライブラリで見たアニメと同じように、この学園にも気になる異性や同性、友人にチョコレートを渡す文化は根付いているみたいで、ここに来るまでの間にもそれらしい光景は沢山見てきた。だから、彼が同じようにチョコレートを貰う光景も、当然見るものだと思っていた。それでも、反射的に隠れて聞き耳を立てるような真似をしているのは好奇心からなのか。それとも、───胸の中で渦巻いている、どうしようもないほどの不安のせいなのか。
11009