センバツ⚾️「第六回! センバツ〇×?※▽★&◇%大会~!」
「なんて?」
とても楽しそうなおそ松兄さんに、チョロ松がツッコミを入れる。
カジノアカツカ恒例、従業員とオーナーによる真剣勝負が幕を開けた。
といっても、半分はお遊びだ。
各セクションから推薦あるいは指名された従業員が、自分の得意分野でそれぞれ競い合い、最後はオーナーと対決。
勝てば何でも欲しいものが与えられる。これまでの優勝者は、ある者は賞金を、ある者はバカンスを、ある者は自セクションの環境改善を求め、叶えられてきた。
法に触れず、かつカジノの予算が許す範囲であれば基本的に何でも良いらしい。
日々、技術を磨き向上させるのは、このセンバツ大会の為という人も少なくない。
結果的に従業員全体のレベルが上がるので、会社としても悪くない、Win-Winだろう?というのが、発案したオーナーの弁だ。
おれは今回、初めてセンバツに参加することが認められた。「二十一世紀枠」だそうだ。
オーナーの指名なので、選ばれたことに最初は反感を買ったけど、何を言われようが気にしないことにした。
ずっとずっと欲しかったものに、手が届くかもしれない。こんなチャンスをみすみす逃すわけがない。
路地裏で野良猫に育てられたおれを、引き取ったのがオーナーだった。
父というには若く、兄というには少し年が離れている。
社会生活に少し……だいぶ難があったおれを、オーナーは根気強く教育し、育ててくれた。
感謝しているし、あまり表に出さないけど尊敬もしている。
それでも、いつまでもオーナーの庇護下でぬくぬくしているわけにはいかない。
おれが欲しいものははっきりしている。
予選を勝ち抜き、決勝でオーナーとまみえる。
勝負はルーレット、バカラ、何でもいいが、おれはポーカーにした。
「よくここまで勝ち進んできたな、一松」
目の前のオーナーはとても機嫌が良いようで、鼻歌でも歌いそうなくらい笑顔だ。
「ゲームに入る前に、聞いておこう。お前の欲しいものは何だ?」
きた。ドクドクうるさい心臓に落ち着けと言い聞かせて唇を開いた。
「――オーナーが欲しい」
「んん!?」
じっと見つめると、カラ松は慌てたようにちょっと待て、と声を上げた。
「オーナーの座が欲しいってことか!? いずれお前に譲るつもりではあったが、まだちょっと早いんじゃ……」
「ちげーよポンコツ」
勝負の審判を務めるチョロ松が呆れた顔になった。
「もう一度分かるように言ってやれ、一松」
まさか通じないと思っていなかったおれは少し焦り始めた。
「えっと……カラ松はおれの唯一で……カラ松にもおれ一人にして欲しいっていうか……」
「この世の人間一人ひとり代わりなんていない。もちろん一松もたった一人しかいないかけがえのない存在さ!」
「いやいや、何こんなとこですれ違ってんの!? 一松兄さん、この人天然なとこあるんだからバシッと言ってやって!」
見守っていたトド松が叫ぶ。
「あー……カラ松と、家族になりたい」
「えっ……オレは、一松と家族になれてなかったのか……?」
いつもはきりりとした眉が悲しそうにゆがむ。
「オーナーはときどきぼくよりバカだよね……」
同じく見守っていた十四松がぽつりとつぶやいた。
こうなったら直球で行くしかないと腹を決める。
「か、カラ松が欲しいです!」
「オレ? オレをどうするんだ?」
きょとんとしたカラ松に、猫背がさらに丸まってしまう。どうしよう、どうしたら分かるんだ?
「いちまつぅ、お前の気持ちをちゃんと言えよ。じゃなきゃこのバカ分かんないよ?」
おそ松兄さんにパシッと背中をたたかれて、猫背が伸びた。
「おれはっ、カラ松が好きです! だから、おれと、け、けっこんして、ください!」
「一松……!」
カラ松が目を見開く。どうだ、これで伝わるか!?
「同性婚はまだ法整備されていないから、難しいんじゃないか?」
真顔でマジレスされた。何で打ちやすいストレート投げてるのに空振りすんの……?
呆然としていると、カラ松はスウっと冷たく目を細めた。
「それに、そういうことは優勝賞品として望むことじゃないんじゃないか」
オレの意思を無視されるのは気に入らない、という言葉にうなだれる。
そりゃそうだよね。優勝したから付き合ってくださいなんて、ただの押し付けだ。
「一松」
有無を言わさない声に渋々顔を上げると、厳しい顔つきのままカラ松は言った。
「誠意をもって相手に接するよう、教えてきたつもりだったが、伝わってなかったようだな」
「ごめんなさい……」
「相手にも選ぶ権利がある。相手を尊重しないやり方はやめなさい」
「はい……」
よろしい、と頷き、カラ松は仕切りなおすようにこほんと息をついた。
「そのうえで、もう一度」
「え?」
「誠意をもって、ワンモアだ」
バチンとウインクをされ、おれは深呼吸をした後、腰を九十度に折り右手を差し出した。
「ずっと前から好きでした! おれと付き合っていただけますか!?」
「オフコース!」
ぎゅっと右手を握られ、嬉しさでじわりと涙が浮かんだ。
「何だこの茶番」
チョロ松が真顔で呟いた。