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    進明歩

    あんスタ、特にEdenが好き。基本はジュンひよ・凪茨。
    ときどきpixivに投稿しています。
    https://www.pixiv.net/users/92061459
    X→@ayumu_shin
    ポイピクはどう活用していこうか考え中。

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    進明歩

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    ジュンひよ、凪茨の人外パロ。
    ハロウィンっぽいものと思って書いていたのですが、しっくりこず。供養。

    ポイピク初なので、使い方などお試しを兼ねて投稿してみました。

    #あんさん腐るスターズ!
    ansanRottenStars!
    #ジュンひよ
    juneSun
    #凪茨
    Nagibara
    #パロ
    parody
    #Eden

    星奏館には魔物が棲んでいる「 星奏館には魔物が棲んでいるんだって」

     一番初めに茨にその噂を聞かせたのは誰だっただろう。賑やかな双子だっただろうか。五奇人の末っ子の魔法使いだっただろうか。もう忘れてしまった。今ではこの噂はいたるところでまことしやか囁かれ、耳にしない日は無いくらいなのだから。

     当然のようにEdenの四人でのレッスン時にもそのことは話題に上がった。
     日和はプリティ5の集まりで、凪砂は同室の者から、ジュンはあそび部から、それぞれの持ち寄った噂はどれも少しずつ違っていた。

    《星奏館には魔物が棲んでいる》

     ここは皆一致していた。
    「魔物って、こんな新しい建物に棲みつくわけないですよねぇ」
     ジュンは同調を求めるように言った。
     レッスンの小休憩、それぞれに水分補給をし汗を拭う。
    「……どうだろう、建物じゃなくて元々土地に憑いていた、神や霊のことを言っているのかも知れないよ」
    「そういうのって建てるときにちゃんと調査しなかったのかね」
     ミネラルウォーターを飲みながら凪砂と日和が答えたところに、タブレットでメールチェックをしつつ茨が言った。
    「したと思いますがね。まあ住人たちの単なる暇つぶしですよ。まともに取り合う必要もないでしょう」
     茨は話を切り上げようとしたが、ジュンは尚も続ける。
    「でも活躍中のアイドルの誰かに取り憑いて乗っ取るらしいですよ」
     
    《魔物はアイドルに取り憑いて、人格人生を乗っ取る》
     
    「ぼくも聞いたね。取り憑かれたほうは分からないのかね」
    「……分かっていても魔物の力が強くて抑え込まれちゃうらしいよ」
    「あれ? 自分が聞いたのは少し違いますね」
     日和と凪砂はジュンの噂話に同調したが、茨は首を傾げた。
    「自分が聞いた噂では、知らない間にユニットメンバーが一人増えているってことでしたよ」

    《魔物はもう一人のユニットメンバーになっている。それが誰だか分からない》

     茨のもたらした噂に、日和と凪砂は顔を見合わせて苦笑した。
    「メンバーが増えてるって流石にそれは分かるよね」
    「誰か分からないらしいです。違和感はあるのにそれが誰か分からない」
     四人は一瞬沈黙して、お互いの顔を見合った。
    「……他の人の記憶や過去、今までの映像やグッズだっておかしな事になるんじゃないの?」
     凪砂は当然の矛盾を口にする。
    「それがなんだか上手いことみんな騙されちゃうらしいです」
    「なーんかご都合主義もいいとこだね」
     日和が呆れたように言った。
    「だから眉唾ものだって言うんですよ。少なくとも我々Edenにおいては何も疑うところなどありはしま……せ」
     そう言った茨は、どこか焦点の合わない視線を宙に投げて動きを止めた。
    「茨?」
     凪砂が声をかけるが、いつも憎たらしいくらいにシャキシャキした返事はない。
    「いばらっ!」
     茨の肩を揺らして凪砂が大きな声で呼びかけた。
    「……え、は、失礼。少々やっかいなメールが届いたもので!」
     そう言った茨の手元のタブレットは随分前からブラックアウトしている。
    「 ……さぁさぁ、そろそろレッスンを再開いたしましょう」
     茨が話を断ち切り、パンパンと手を叩く。新曲MVの撮影に向けて、四人揃って合わせることができるのはこの後の一時間と明日午後の二時間しかない。日和も凪砂もさっさと立ち上がり、軽く身体を伸ばしウォームアップを始めた。

    「……あれ? ジュンどうしました? 顔色悪くないですか?」
     ぼうっと立ち尽くしたままのジュンに茨が声を掛けた。
    「いえ……」
    「ふふっ、ジュンくん怖くなっちゃったのー?」
    「……違いますよぉ」
    「今夜一緒に寝てあげようか?」
     日和は揶揄うように言って、ジュンの顔を覗き込む。
    「違うって言ってんでしょぉ!」
     声を荒げたジュンに驚き、三人が沈黙した。
    「あ、すみません、大声出して。ちょっと体調悪いんで、先に上がらせてください」
    「大丈夫?」
     ジュンは頷くが、青い顔をして胸元を押さえていた。


     翌日午後からのEden四人でのレッスンも、ジュンから休みたいと連絡があった。
     日和はレッスン前にジュンの様子を見に寮の部屋へ立ち寄る。ちょうど外出するところだったこはくに部屋へ入れてもらった。ベッドの上には布団の殻を被ったジュンの塊がいる。起きてはいるようだが、その宿主はなかなか顔を見せない。
    「おーい、ジュンくん。心配だからお顔見せて欲しいね」
    「…………」
    「ジュンくん! このぼくが来てるのにあんまりな態度だね!」
    「…………」
     宥めたり怒ったりしても埒が明かない。日和は結局、えいやっと無理矢理布団を剥がした。身体を丸め、泣き腫らした様子のジュンの顔が覗いた。
    「どうしたのジュンくん!?」
     日和の顔を見るとまたジュンから涙が溢れ出した。
    「……魔物はオレかもしれないです」
    「何を言ってるの? あんなのただの噂だよね」
    「でも、オレ……EveやEdenになったときのこと、全然思い出せなくて……」
     
    《魔物は記憶に目隠しする》
     
    「もし、魔物がいるとして、魔物は本来のメンバーの記憶に目隠しして不安にさせたりするって聞いたね」
    「でも……」
    「きみはぼくの相棒、漣ジュン。ぼくが保証する」
    「おひいさん……」
    「きみはぼくのことを信じられないの?」
    「違います!」
     ジュンはふるふると首を振る。
    「信じられないのは自分のことで……!」
    「おんなじだね。きみはジュンくんを信じてるぼくのことまで疑ってるってことだね」
    「ううっ……」
    「ジュンくんはぼくが拾ったの。育てたの。思い出して?」
    「オレ……? おひいさんに……」
     ジュンは何か思い出したのか、ふっと力が抜けてきた。日和は優しくジュンの髪を撫でてやって額にキスをした。昨晩は殆ど眠れなかったのだろう。ジュンはやがてすうすうと寝息を立て始めた。日和はジュンを起こさないように、そっと部屋をあとにした。

     
     日和は勢いよくレッスンルームのドアを開ける。そこではAdamの二人で振り付けの確認をしているところだった。
    「お疲れ様であります!」
    「やあ、ジュンは大丈夫?」
    「…………」
     日和の機嫌がすこぶる悪いことに気づいて、凪砂と茨は目を合わせた。
    「大丈夫じゃないね」
    「そんなに体調悪いんですか? 病院に連れていきましょう」
    「そうじゃないね!」
     日和はイライラと腕を組む。
    「ジュンくんは自分が魔物なんじゃないかって、自分を信じられなくて怖くなっちゃったんだね!」
    「えぇっ? あんな噂を間に受けて?」
     茨はやや呆れ顔だ。
    「EveやEdenとしての記憶が曖昧になっていたみたいだね」
    「まさかぁ……」
    「もし仮に魔物なんてものが居たとして。あんな純真なジュンくんが魔物なワケないよね!?」
     日和は茨、次いで凪砂を見る。
    「きみたちの方がよっぽど魔物らしいね」
    「殿下!? 自分はともかく閣下にまでそのような物言いはどうなんですか?」
    「見てごらんよ。こんな人を惑わすほどの美貌と声を持ってるんだよ。おんなじ人間かなって思ったことあるでしょ? ぼくだって負けてないけどね」
    「まぁ……?」
    「茨だって、ぼくと凪砂くんには及ばないけど綺麗な顔してるし。何より性格が魔物!」
    「お褒めいただき、光栄であります!」
     日和はキッと茨を睨んだ。
    「……日和くん、落ち着いて」
     ふぅーと日和は大きく息を吐いた。
    「とにかく! 魔物がいるなら、これ以上ジュンくんを苛めることはこのぼくが許さない!」
     じゃあね! と言って日和は足音も荒く部屋を出て行く。残された二人はやれやれと目を合わせた。
    「殿下だって相当魔物っぽいですけどね」
     
    《魔物はメンバー同士を仲違いさせる》
     
    「……ごめんね、茨。日和くんはジュンが不安定になっているのが悔しくて、機嫌が悪いだけだと思うよ」
    「分かっておりますよ。殿下はジュンを溺愛していますからね」
    「……ふふっそうだね」
     凪砂は可笑しそうに笑った。それからすっと真顔になる。
    「……茨も、私のこと魔物なんじゃないかって思ったことある?」
    「……えぇ、正直ありますね。殿下じゃないですけど、閣下の美しさと危うさからは、この世のものではないようなゾッとしたものを感じるときがありますから」
    「……私が魔物だって言ったら茨はどうする?」
     凪砂はわざとらしく妖艶な笑みを浮かべて、間近から茨を覗き込んだ。
    「どうもしませんが? 魔物だろうが神様だろうが人間だろうが、自分の最終兵器として使わせていただいている間は何者でも大差ありません」
    「……それでこそ、賢い、私の茨」
     凪砂は茨の顎を持ち上げて唇を食んだ。
    「閣下こそ、自分が魔物だと言ったらどうします?」
    「……茨の好きなところがまたひとつ増えるね」
     優しく微笑んだ凪砂に、今度は茨が背伸びをして口づけた。
    「……ねぇ茨、私たちもサボってしまおうか?」
    「ダメですよ、時間がないんですからAdamだけでもきちんと合わせておかないと」
    「……茨のケチ」
     言いながら凪砂は茨の髪に頬にキスをして、トレーニングウェアの裾から手を忍ばせる。
    「閣下、だめですってば!」
     凪砂の胸板を押して睨み上げた。
    「真っ昼間から快楽に溺れさせようなんて、本当に魔物のようですよ」
    「……ふふっ、真っ昼間から私を魅了する茨のほうが魔物みたいだよ」
    「仕方のない人ですね。二人で合わせるのも限界がありますから、レッスンは早目に終わらせましょうか」
    「……うん、いい子」
     茨の旋毛にひとつキスをして凪砂はパッと身体を離した。鏡へ向きストレッチを始める。
    「あれ……閣下背中に何か付いて」
    「……本当? 何かな?」
     凪砂は長い銀髪を手で片側へ寄せた。
    「……いえ、ただの埃でした。自分が取りますから! ……閣下はそのままで。どうか全て、自分にお任せください」
    「……ありがとう。……茨?」
     茨は綺麗な筋肉のついた凪砂の背中を、ウェア越しにゆっくりと撫でた。
    「……どうしたの?」
    「……いえ、ただこうしたくなっただけです」
     茨は凪砂の背中に頬を預け、ぎゅっと抱きしめた。


     日和はジュンの部屋へ戻り、先程持ち出した鍵を使ってそっと中に入る。まだジュンは眠っていた。顔も腫れぼったく、目の周りが真っ赤になっている。可哀想に……と呟いて、日和は慈しむように頬を撫でた。
     ジュンが目を開けた。まだ夢現でとろとろとした金色の目が、日和を見つけると安心したように細められた。
    「おひいさん……」
     何が可笑しいのかジュンはへへっと笑う。
    「オレとおひいさんは一心同体。思い出しました」
    「……そうだね。きみはぼくが見つけた宝物。魔物なんかに惑わされないで、ぼくのことだけ信じていればいいね」
    「おひいさんこそ、魔物に連れて行かれそうで心配です。あんたみたいな綺麗な人、見つけたら離したくないだろうから」
    「わぁ、熱烈だね」
     ジュンは顔を赤くしてベッドから起き上がった。
    「ちが、違います!一般論です」
    「ジュンくんは……ぼくが魔物じゃないかって、思ったりはしなかったの?」
    「思いましたよ。いつも涼しい顔して色んなことこなして、人間じゃねぇって思ってましたし」
    「うんうん、ぼくは何でもできるからね! それで怖いって思わなかった?」
    「不思議と平気でした。一緒にいられるなら魔物でもなんでもいいかなって」
     ジュンは日和の顔から手へ視線を移し、その手を握った。
    「でももし……、仮にオレが魔物だったとしても、あんたのこと手放せませんけど、いいですか?」
     日和は泣き出しそうに微笑んだ。
    「……ぼくもだよ。ジュンくん。きみが何者でも大好きだよ」
     両手でジュンの頬を包んで優しく口づけた。
    「きみはぼくのもの。もう魔物にだって惑わされたりしたら許さないね。……さぁもう少し眠るといいね」
    「その前にもう少しだけ。あんたもオレのものだって信じさせて」
     ジュンは日和の手を引いてベッドへ引き上げると、横になって抱きしめた。日和の髪にこめかみにキスを落とす。擽ったそうに笑って、日和はジュンを見上げた。ジュンは日和に口づける。そのキスが段々と深くなり、吐息に熱がこもりだした。
    「ふ……だめ、今はちゃんと休んで、ね?」
    「はぁ、くそっ……寝られませんよぉ」
     日和の肩にスリスリと頭をすりつける。
    「ぼくがついていてあげるからね」
     日和に優しく頭を撫でられると、不思議と眠たくなってきた。そのままジュンはまたとろとろと眠りに落ちていく。
     
     ──非特待生のオレが歌ってて、おひいさんが、きみいい声してるねって話しかけてきたんだ……
    『やあやあ! あなたいい声していますね。自分とユニットを組みませんか?』
     あれは? 本当におひいさんだったっけ?
     とろりとろり、記憶も夢に溶かされていった。


     深夜、シンと静まり返ったレッスンルームに凪砂はひとり佇んでいた。鏡に向かっているので部屋全体は見渡せるのだが、凪砂を呼び出した相手は未だ現れない。凪砂はほんの一瞬瞼を閉じた。ヒタリ、首筋に冷たい指先が這わされ、トクトクと脈打つ頸動脈を撫でられる。
     凪砂はゆっくりと目を開け、後ろに立つ男を鏡越しに見つめた。
    「……どうしたの?怖い顔して。私のことどうにかするつもり?」
     自分を睨み付ける相手にも、凪砂は悠然と微笑んでいる。


     
     

    「…………日和くん?」
     
     眉を下げ、降参というように日和は両手を上げた。
    「ぼくが大事な凪砂くんをどうにかするなんてある訳ないよね!? ただちょっとまだ怒ってるだけだね」
    「ごめん、悪戯が過ぎたね」
     凪砂はペロリと舌を出した。
    「ジュンくん可哀想で見ていられなかったね!」
    「でも最初に茨に仕掛けたのは日和くんの方」
     凪砂が咎めるように言うと、日和は少し肩を落とした。
    「……あの子が何か気づいてしまうんじゃないかって、怖くなって咄嗟に記憶に目隠ししてしまったんだね。でもぜんっぜん効き目が無くてつまらなかったね!」
    「茨みたいに、死の淵を辿ってきたような子には効かないのかもね。でもジュンは効き過ぎ」
    「ジュンくんは素直ないい子なの」
    「茨もいい子」
     凪砂くんの趣味は全く分からないね、と日和はため息をついた。
    「……長らく傍観者として何にも心を動かされなかった私たちが、同時に同じユニットの子たちに惹かれてしまった」
    「うん、そうだね」
    「元々二人組のところに二人も入り込むなんて、綻びが生じ安そうで嫌だったんだけど」
    「仕方ないね、ぼくも凪砂くんも引かなかったんだから」
     
    《魔物は一人とは限らない》
     
     ──これは噂には無かったことだ。
     
    「世間に対しても過去や記憶を弄ったり、ぼくらは相当力を使って、もう寿命も人間と同じくらいになったね」
    「少しずつ生じた綻びを、敏い者たちが感じとり噂が流れたってところかな。……まぁ、噂は正しいものも間違っているものも様々だけど」
    「《魔物》なんて呼ばれ方は心外だけどね!」 
    「得てして人は正体の分からない胡乱なものに呼び名を付けたがる。そうすることで畏怖するものでない身近なものとして扱おうとする傾向があるようだよ」

     日和は目を閉じて前屈みになり、息を止めて背中に力を込めた。
     ふわっと、小さな旋風を起こして背中に真っ白く輝く翼が広がった。目の前の大きな鏡を見る。
    「あーあ、みすぼらしいったら無いね。こんな姿じゃ、魔物と呼ばれても仕方ないかもね」
     翼は右の片翼しか無かった。その右翼も羽根がホロホロと抜けている。
    「これじゃあもう飛べやしない」
     凪砂も背中に力を込める。同じように背中から真っ白い翼が広がった。こちらは左翼しかない。
    「私と手を繋いで飛べば、天へは還れる。残った翼もいつまで使えるか分からない。決断するなら今だよ。どうする日和くん?」
    「凪砂くんが還りたいなら、ぼくはきみを送って一緒に飛ぶね。でもそのあとぼくはまた地上に戻る」
    「……片翼では飛べない。ジュンのところへ戻る前に落ちてしまうよ」
    「やるだけやってみるね。ジュンくんといられないなら、死んでいるのと同じこと」
     日和は翼を緩く羽ばたかせた。またひらり羽根が抜け、宙を舞う。
    「ぼくのことは気にしないで、凪砂くんの希望を言って欲しいね。ぼくはきみを地上に連れてきた責任があるね」
    「ふふ……、日和くんがジュンの歌声に惹かれて、」
    「凪砂くんが、茨のニヤニヤ笑顔に惹かれた」
     二人は顔を見合わせてクスクスと笑った。
    「……日和くんの本音が聞きたかっただけ、私もずっと茨と、ジュンと、日和くんといたい」
    「うん……」
     
     羽根をおさめた日和がソファに腰を下ろすと、隣に凪砂も座る。
    「……彼らに気づかれたら私たちは消滅するしかない」
    「でも、賭けてもいいと思ったね。緩慢に退屈に殺されていくよりも、激しく恋をして消えていきたいってね」
    「日和くんの気持ち、よく分かる」
    「ぼくたちが作った記憶も確かにあるけれど、Adam、Eve、Edenとして積み重ねたこの絆は本当のものだね」
    「私は茨に、日和くんはジュンに、殺されても構わないほど恋をしてしまったね」
    「でも凪砂くんが殺されるところは見たくないね」
     日和は眉をひそめて、凪砂の肩に頭を預けた。
    「私もだよ。いつまで四人で居られるか分からないけれど、私たちは家族……これからもずっと」
     凪砂も日和の髪に頭を寄せる。
    「凪砂くん、きみが居てくれて良かった」
     二人は隣り合った手の指を絡めて、ぎゅっと握った。

     
     翌朝、茨はジュンの部屋を訪ねた。
    「ジューン、どうですか?」
     揶揄うような笑みを浮かべる茨から視線を逸らす。茨がジュンのベッドへ腰掛けたので、ジュンもベッドへ上がって身を縮ませた。
    「すみません、今日は仕事できますから!」
    「全く、魔物の噂に惑わされて情けないですよ」
    「本当ですよね」
     ジュンは項垂れた。そこからチラリと茨を見る。
    「なんですか?」
    「茨は……オレの歌声を気に入って声を掛けてくれたんでしたよね」
     茨は驚いたように目を瞬いた。
    「ジュン……? 思い出して……」
    「何でもないです、忘れてください」
     ジュンは慌てて顔を逸らした。
    「……ジュン、魔物を祓う方法を知っていますか?」
    「──えっ?」
     
    「《魔物は本来のユニットメンバー全員から、正体を指摘されると消える》」

    「……い、ばらあっ!!」
     ジュンは茨に掴みかかると強く揺さぶる。
    「だめだ! 許さねえ……! あの人を消すなんて、絶対許さねえ!」
    「落ち着いてください、ジュン」
    「だって、茨!」
    「大事な人を失いたくないのはあなただけじゃない!」
     ジュンはハッとして茨を見た。苦しげに顔を歪めている。ジュンは茨から手を離した。
    「そうか……、ナギ先輩もなんすね……。オレに教えて良かったんすか?」
    「遅かれ早かれ気づいていたでしょう。でも我々が黙っていればあの方たちはずっと一緒に居られる。ずっとEdenは四人で居られるってことです」
     しぃーっと人差し指を唇の前に立て、茨は意味ありげに笑った。ジュンはゆっくりと頷いた。
     茨は拳をジュンの胸に当てた。
    「これで俺たちは互いの心臓を握り合っているようなものです」
     ジュンは茨の拳を掴んで静かに下ろした。
    「オレはそんな風におひいさんの命を人質にされなくてもナギ先輩を売ったりしません。オレにだってナギ先輩は大切な人です。茨にとってのおひいさんは違うんですか?」
    「すみません……。これじゃジュンのことを信用していないって言っているのも同じですよね。殿下のことは……勿論……大切なメンバーだと……思ってます、よ?」
     言いながら茨の顔が徐々に赤く染まっていく。
    「へへっ」
     嬉しそうに笑ってジュンは茨の頭をポンと叩いた。ジュンの手を鬱陶しげに払い除けると、茨はポケットからハンカチを取り出した。そのハンカチをそっと開く。
    「見てください」
    「何です? 羽根?」
     ハンカチに包まれていたのは、細長く白い羽根だった。艶やかな光を放つそれは、角度を変えるごとに薄い橙にも緑にも青にも臙脂色にも見える。ただの一枚であるというのに平伏したくなるような神々しい存在感がある。
    「閣下の背に付いていたものです」
     こくり、ジュンが唾を飲み込む音がする。
    「《魔物》なんて禍々しいものにはとても見えません。ジュン、我々はとんでもない神域を踏み荒らそうとしているのかもしれませんよ。……どうしますか?」
    「何の……話です? オレには難しいことはよく分かんねぇ」
     ジュンの瞳には強い決意が宿っている。
    「オレに分かるのは……非特待生だったオレはおひいさんに拾われた。育ててもらってEveとしてデビューできた。そのことだけです」
    「ええ、自分は閣下と殿下をお誘いして、閣下とAdamを。閣下と殿下とジュンとEdenを築いた」
     そうですよね? 言外に茨がジュンに問いかける。
    「そうですよ。オレたちは四人でEdenです。魔物なんていない」
    「魔物なんて存在しない」
     
    「「星奏館には魔物は棲んでいませんでした」」
     
     声を揃えて言うと、互いに美しい魔物に恋をした相棒を見た。二人組Edenの相棒だったジュンと茨は、秘密を抱える共犯者になった。どちらの瞳にも迷いなど微塵も感じられない。微笑みを交わして深く頷き合った。

    「ジューンくーん!」
     部屋へのノックとともに廊下で元気な声が響く。
    「はは、煩いのがきた」
     ジュンはやれやれと言いながらも、緩んでいく表情を隠しきれていない。茨がドアを開けると元気な声の主が驚いた顔をした。
    「あれ! 茨、ジュンくんの様子を見に来てくれたんだね!」
    「……優しいね、茨」
     日和の後ろには凪砂もいて、茨を見て優しく微笑んだ。
    「……ジュン、体調はどう?」
    「ナギ先輩ありがとうございます。昨日は休んですみません」
     ジュンはベッドの上で居住まいを正した。そこに寄り添うように凪砂はベッドの端へ座ってジュンを見た。
    「……ううん、私こそごめんね」
    「何で謝るんです?」

    「どーれ、ジュンくんお顔を見せて! うん、昨日よりも顔色良くなったね! ぼくの看病のお陰だね!」
     日和も凪砂とは反対側からベットの端に座ってジュンの顔を覗き込む。
    「あんた、グースカ寝てただけだろ」
    「ぼくの寝顔は最高の癒しだよね?」

     日和と凪砂がジュンのほうを向いているのを確認して、茨は小さく窓を開けた。手にしていたハンカチを開き、羽根を風の中に放つ。ふわり、宙に舞った羽根は光を受けながら、茨に見せつけるように右に左に上に下にと揺れながら留まっている。気づいたジュンはコクっと小さく唾を飲んだ。
    「……どうしたの、ジュン?」
     振り返ろうとする凪砂と日和の頭を抱えるようにして、ジュンは自分へ抱き寄せた。
    「なに、ジュンくん」
     日和がジュンの胸元でモゴモゴと言った。
    「……いや、みんな心配してくれて、オレはいいメンバーに恵まれて幸せ者だなぁって思っただけです」
     窓の外では強い風が吹き、白い羽は最後に一度、茨とジュンに見せつけるように輝いてから空高く舞い上がっていった。
     ジュンは二人を抱きしめていた手を離した。
    「……ふふ、ジュン♪ でもまだ一人足りない」
     凪砂が言うと、三人が茨のほうを見た。
    「は、えっ? 自分は遠慮しまーす!」
    「だーめ! 茨もおいで!」
     立ち上がった日和が茨の腕を強く引いた。
    「うわっ、ちょっと殿下!!」
     つんのめった茨はうつ伏せにベッドの上へダイブした。
    「う……めがね……」
     眼鏡の無事を確かめながら茨は転がって仰向けになった。
     その時、白い羽根がひらりと舞った。
     四人は息を呑み、その羽根を見つめた。
     凪砂の広げた手のひらの上に羽根が着地する。
    「……羽毛。布団の縫い目から飛び出したみたい」
     茨はパッと立ち上がると三人を振り向いた。
    「こんなまったりしている余裕ありません! 遅れたレッスンの分、このあとどうにか四人で合わせる時間を捻出しましたので、準備をお願いしますね!」
    「はぁーい!」
    「……分かった」
    「お願いします」
     ジュンが申し訳なさそうに頭を下げた。
     
    「……我々には翼なんてありませんからね! せいぜい美しく舞えるよう、これからも一緒に足掻いていきましょう!」
     

     
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    進明歩

    PAST『世界が滅びるとき、最後のふたりになるとしたら相手は誰がいいですか?』
    ※相手が死んでしまったらとの想像、夢などがあり。
    ※二人ともかなり泣く。
    ※ジュンひよですが、逆にも見える。
    ※凪砂、茨もちょっと登場。凪砂→茨。
    この中のワンシーンを書いたのが二次創作を書いた最初。恥ずかしくて投稿できず、ずっと支部の下書きにありました。公式ストが出てくるとどんどん解釈がずれそうなのでここで…
    最後のふたり『世界が滅びるとき、最後のふたりになるとしたら相手は誰がいいですか?』

     
     

    「みなさん、おはようございます! Eveの巴日和です!」
    「漣ジュンです! よろしくお願いします!」
     
     生放送の朝の情報番組にEveで出演していた。今日は日和が主演するドラマの初回放送日。主題歌はEveが務めるとあって、ジュンも日和と共にドラマと曲のプロモーションで出演していた。
     
    「それでは視聴者からの質問コーナー! 時間の許す限り訊いていきますね!」
     アナウンサーの女性が明るくハキハキとした声で進行していく。出演時間は十分程、順調にドラマの映像を見てのコメント、曲の紹介などを終え質問コーナーとなった。

    「次が最後の質問になりますね。『世界が滅びるとき、最後のふたりになるとしたら相手は誰がいいですか?』……巴さんから!」
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