性癖に従ったイサ。眩しくも温かい朝日で目を覚ました。
隣で安心しきったように眠る左馬刻に思わず笑みがこぼれる。
昨日、もう無理だっていう左馬刻を意識飛ばすまでぐちゃぐちゃに抱いた。泣き腫らした痕がうっすら残る頬を優しく撫でればむず痒そうに左馬刻が呻く。
俺の隣ですやすやと起きない左馬刻も、起きて多少文句は言うが本気で怒るわけではない左馬刻も、お前も飲むかよ、なんて俺の分の珈琲を淹れてくれる左馬刻も。
何だか現実離れしてるようで、でも確かにある幸せ。
とても充実してて、これを永遠に守りたいと思う。
「ん……、いちろぉ?」
休みなのに起きんのはえぇな、なんて言いながら煙草に火をつけて俺の顔をじぃっと見ながらふっと笑って
「…はよ、朝飯食べるだろ?」
なんて朝の挨拶もしてくれる。
きっと、左馬刻もこんな何でもないありふれた日常に慣れなくても幸せを感じてくれていると信じたい。
なのに。
「なぁ、左馬刻。」
さん付けろやっていつものお決まりの文句が飛んでくるのを聞きながら俺は左馬刻と決別したあの日を思い出す。
「んで、どーしたんだよ。」
「……もし、俺が別れてくれって言ったら左馬刻どうする?」
目を見開き煙草の煙を思い切り吸い込んで、げほげほと咳き込む左馬刻は怒りを顔に浮かべたあと何かに気付いて怒りをしずめ、気まずそうに悲しそうに。最後には何かを諦めたように目を伏せる。
「てめーが別れてぇなら別れてやんよ。」
「…俺じゃなくて、左馬刻は?」
その質問が意外だったのか、目をぱちぱちさせた後気恥ずかしそうにきょろきょろと目を泳がせて今度は拗ねたような顔をした。
「嫌に……決まってんだろこのダボ。」
すっかり短くなった煙草を灰皿に押し付けて、もう話は終わりだと言うように朝飯を作りに行くでもなく布団をかぶり直してしまう左馬刻を見て、俺は満たされる。
「うん、ごめん。」
そんな左馬刻を後ろからぎゅぅと抱き締めてあの時どこにも行かないと言ってくれた、憧れていた男の温もりがまだ今もここにある事を確かめた。
(温かい春のある日、少しだけ不安になる一郎の話。)