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    じろ~

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    じろ~

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    昔書いた御武のSSです!
    過去の思い出について寿史が考えているだけの短い話です

    #whr腐
    #御武
    gobu

    がらんどうを壊したい「少し走ってくる」
     そう言って身を翻した一孝を、呼び止めることはできなかった。
     伸ばしかけた手を戻し、寿史は唇を噛み締めた。また、自分は彼に何も言えなかった。……いや、仮に何か言えていても、彼は聞いてくれなかっただろう。
     彼にとって寿史は、弱みを見せられる相手ではない。
     その事実が心を締め付け、寿史は俯くことしか出来なかった。
     
     
     話は少し遡る。
     事の発端は白星の文化祭だ。皆でバンドをしようという敬の発案で、寿史達はヒーロー活動の合間にそれぞれ担当の楽器を練習していた。
     過去の文化祭の思い出を語りながら練習する時間は楽しかったが、同時に寿史は少し寂しさを感じていた。
     なぜなら、その思い出の中に、一孝と光希は登場しないから。
     今の寿史にとって、それは心に小さな穴が空いたような心地になる事実だった。昔からずっと一緒にいた、そう錯覚をするほど今は近くにいるのに、過去はそうではなかった。それが、何だか不思議で切なかった。
     だから寿史は、光希や一孝がそのことを気に病んでいないか、少し心配していたのだ。
     結論から言うと、光希の場合、それは杞憂だったのだけれど。
     光希は皆の過去を興味深く、とても楽しそうに聞いていたから、寿史は笑顔で見守ることが出来た。寿史が過去に光希がいないことを寂しく感じていても、光希にとってはそうではないのだ。それは寿史にとって救いだった。
     問題は、一孝だ。
     一孝は皆の思い出話を、時折突っ込んだり適当に相槌を打ちながら聞いていた。その姿はどこからどうみても普段通りの一孝だった。おそらく、周囲は誰も一孝に違和感を抱いていなかっただろう。
     でも寿史は、一孝の表情がいつもよりも固いような気がして、ずっと気にして彼を見ていた。普段からあまり表情豊かな方ではないが、なんとなく元気がないように見えたのだ。
     今日の練習はここまで、となってから、寿史は一孝に声を掛けた。
    「一孝」
    「なんだ?」
     そう返してくる彼は至っていつも通りで、寿史は一瞬自分の勘違いだったのかと思った。
     でも、やはり何かが違う気がする。
    「その……変なことを聞くようだけど。体調、悪かったりしない?」
     思わず機嫌を伺うような、遠回しな言い方になってしまった。でも、これで正解だったと寿史はすぐ知ることになった。
    「……別に。集中出来なかっただけ」
     そう答える声は、いつもと比べて暗く揺らいでいて。寿史はそこで自分の心配が現実だったことを悟った。
     以前にも、似たようなことがあったのだ。正義や敬と、過去の話をしていたとき。一孝は全くそんな素振りを見せなかったけど、話が途切れた一瞬、目を伏せた。それには今にも破裂しそうな何かが詰まっているよう見えて、寿史は結局、何も言うことが出来なかった。
     触れた瞬間、弾けて一孝自身をズタズタにしてしまう気がしたから。
     
     だから、今も寿史はそれ以上何も聞けなくて、去っていく一孝の背中を見送った。
     
     
     ○ ○ ○
     
     
     次の日のこと。
     寿史は一人、ベースを背負って体育館に入っていく一孝を見かけた。昨日のことがあったから、寿史は声をかけずに遠目で見ていた。
     この状態で一孝に何を言っても、ダメな気がした。
     そんな時、指揮官が通りかかったから、寿史はそれとなく一孝の様子を見て欲しいとお願いしたのだ。
     寿史に話せないことでも、大人である指揮官になら話せるのでは、と期待した。
     そして寿史はその場を去ろうとしたが、その時、一孝の声が微かに聞こえて。
     盗み聞きをするつもりはなかったのに、耳が勝手に拾い上げて脳内で言葉にしてしまう。
     一孝は確かにこう言った。
    「気持ちの面では、俺はずっと置いてけぼりだ」
     そして、アイツらにはこんなダサいところは知られたくない、と。
     
     指揮官が出て言った後、寿史は迷わず入り口の扉を開け放った。大きな音が響き、それに一孝がギョッとした様子で振り返る。
    「ひ、寿史⁉︎ おま、いつからそこに」
     慌ててベースを後ろ手に隠す一孝に構わず、寿史は大股で彼に近づく。
    「一孝」
     目の前に立って呼ぶと、一孝は瞳を彷徨わせた。彼のこんな様子を見るのは初めてで、そんな雰囲気じゃないというのに寿史は微笑みそうになった。彼の知らない一面を知れるのが、嬉しくて。
     寿史はその気持ちを隠すように、大きく息を吸い込んだ。そうしないと、本音がぽろぽろと溢れてしまいそうだった。
     本当は、悩んでいることがあるなら教えてほしい。一孝が恥だと思うことを、全部自分に見せて欲しい。自分は、それらを絶対に笑わないと約束するから。
     一孝は友人に弱い所を見せるのが極端に嫌がる。それを、寿史はもうよく分かっていた。だから、この気持ちは一孝のために押し込めると決めた。
     彼の意志を、尊重したい。
     でも、これだけは、許して欲しい。
    「あのさ、この前、雰囲気のいい喫茶店を見つけたんだ」
     その言葉に、一孝は一瞬呆気に取られた顔をした。それを無視して、寿史は続けた。
    「ちょっとレトロな感じで、内装も凄く落ち着いてるんだ。一孝も、きっと気に入ると思う。……だからさ、この後、一緒に行かない?」
     いい気分転換になると思うんだ。そう続けた寿史に、一孝は最初、言葉に詰まっていたようだった。
     でも、彼は微かに口角を上げて、こう答えてくれた。
    「おう。たまにはいいな」
     その返答に、寿史は笑った。
     今はこれで十分だ。
     ——一孝の逃げる場所になれないなら、せめてその空白に目が向かなくなるほど、沢山の思い出を作る手伝いがしたい。
     それが、寿史の望みで、これから先も変わらない意志だ。
     一孝にはどこまで伝わってるだろう。人の気持ちにはあまり頓着しない彼のことだから、まるっきり伝わってないかもしれない。
     それでも構わなかった。
     体育館から出て、夕暮れに染まる道を、一孝と二人で歩いて行く。この何気ない日常が、いつか彼の中で一番に思い出す記憶になって欲しい。
     そう願っていた。
     
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    じろ~

    PAST昔出した倫慎本に載せた小説です。支部に載せているものと同じですがせっかくなのでこちらでもポイポイしておきます!
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     良かった、今日も無事に訓練が出来る。そう思い、慎は手早く準備を済ますと合宿所に向けて出発した。何も変わったことのない、いつも通りの一日が始まった。
     この時は、そう思っていた。
     
     
     誰よりも早く訓練施設につき、準備運動を始める。慎は他のヒーローと比べて訓練期間が大幅に遅れている。少しでも皆に追いつくために、訓練日は早く来てグラウンドを走ったり、筋トレを行うなど、体力づくりを自主的に行なっていた。
     朝のルーティンワークをこなしている間に、他のヒーローが次々と集まってくる。良輔と挨拶を交わした後、「あんまり朝から飛ばすと大変だぞ。無茶するなよ」と釘を刺され苦笑した。良輔は今でも慎の体調をよく心配してくれる。その優しさに感謝しながらも、良輔自身ランニングをしてきたのか既に薄ら汗をかいてるのを見て、敵わないなぁと慎は胸中で軽くため息をついた。彼のようになるには、何倍も努力が必要なのだ。自分も、もっと頑張らなくては。
    10911