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    支部再録

    エンディング後の何でもアリご都合主義捏造万歳ハッピーエンド

    ##K暁

    死後の世界があるなら神様だっているはずだ渋谷を中心とした東京の一部で原因不明な霧の出現と共に何十万という人間が消失した長い長い一夜が明けた。
    「ふわ……あ!?」
    いつの間にか寝てしまったらしくソファから上半身を起こして両腕を伸ばし欠伸をしたところで違和感に気付いて男は飛び起きた。妙に軋む体を叱咤してめったに使わなくなった鏡に齧りつく。
    そこにあるのは長年見飽きるほど付き合いのある、短髪で目つきが悪く無精髭の壮年の男――要するに自分の顔だ。
    「マジかよ……」
    当たり前の事実なのにありえない、と思ってしまうのは男――KKはあの夜に確かに死んだはずだからだ。



    あの夜、たまたま死にかけていたのを見つけただけの理由で憑依、というか肉体を奪おうとした結果、なんやかんやあって唯一無二の、家族への遺言を頼めるくらいの相棒へと昇華した青年――伊月暁人を生者の世界に送り返して自分は黄泉の国で成仏したはずだった。
    なのにこうして生きているということは。
    徐々に頭も覚醒してきたKKはすぐさまスマホを取り出し通話ボタンを押す。
    呼び出しコールはすぐに聞き慣れたボイスレコーダーの声に切り替わった。



    結局アジトに集合して情報共有した結果わかったのは
    ・肉体を失った人々はその場で何事もなく復活しており、あの夜の記憶もないこと
    ・KKだけでなく凛子も絵梨佳もみな生き返っていて、しかも記憶が残っていること
    ・般若は間違いなく消滅したこと
    ・東京はというか日本は大騒ぎになっているが大きな被害はなくKKたちにできることはもうないこと
    ・どうしてこうなっているのかエドにもわからないこと
    だった。
    「結局肝心なことは『わからない』止まりか」
    凛子が息と共に吐き出す。つまりこれから調査をするということだ。しかしながらKKにはひとつだけアテがあった。
    「エド、最優先で調べてほしいことがある」
    『伊月暁人のことだね』
    相変わらずの頭の回転の速さに感心すると同時にその名前が既に吹き込まれていることに違和感を覚える。
    『気にかけるのはわかっていた。この件に関わらずともね』
    「気にしてなんかいねえよ」
    「これ以上危険な目に合わせたくないのが半分、一目無事を確かめたいのが半分ってところか」
    「うるせえぞ凛子!」
    ぎゃあぎゃあと他愛もない口喧嘩をしているうちに端末を弄っていたエドはううんとわかりやすい唸り声を漏らした。
    「どうした?」
    伊月暁人は昨晩までは普通……にしては不幸な身の上だがあくまで一般人であったし、所属している大学も妹の入院先も把握している。エドが情報を得るのは容易いはずだ。
    エドは困惑した様子でKKたちにその画面を見せた。



    翌日、外と違い一定の静けさは取り戻した様子の病院に来たのはいいものの受付で彼の名前を告げると
    「家族以外の面会はできません」
    とすげなく拒絶された。二回りほど離れてはいるが伊月兄妹の両親が死別していることは当然病院も把握しているし親戚を騙るにも男の出現は唐突すぎた。
    しかしKKにはある意味で最強のカードがある。
    「実はオレはこういうものなんだが……」
    ちらりと手帳を見せると女の表情が一瞬変わった。
    「少々お待ちください」
    そうして主治医に繋がれ奥へと通される。
    「事故のことなら既に……」
    困惑する様子の医師に頷いて自分は交通課ではないと伝える。
    「ああ、バイク事故のことも確認したいが『あの夜』との関係がメインでな」
    あの夜、伊月暁人は渋谷の交差点で信号待ちしているところを後ろから車に突っ込まれた。車側の過失の原因が般若の儀式だとしても暁人に非はない。が悲しいかな吹き飛ばされるのはバイク乗りの方だ。
    奇跡的にというか奇跡としか言いようがないが暁人は無傷で、ヘルメットに損傷がないことからも頭を打った可能性も限りなく低く、にもかかわらず意識不明でこの病院に運び込まれた。
    「可能な検査はしましたが異常はありませんでした」
    「なのに一日経っても目を覚まさないってワケか」
    案内された病室に入ると個室のようでそう広さはなく、すぐに無機質なベッドに横たわる青年と傍で座る少女を目視できた。
    「……よお」
    ダメ元で声をかけると顔を上げた少女の表情が驚きと喜びに変わった。
    「KKさん!?」
    「良かった、覚えててくれたか」
    そうなると話は早い。医者にはまた後で話がしたいと断って麻里が出したもう一つのパイプ椅子に腰を下ろす。
    暁人の妹、あの儀式の生贄であったはずの麻里はKKたちと同じようにあの夜の記憶を残していた。
    「でもほとんど意識がなかったからか……お兄ちゃんとKKさんが助けてくれたことと、お兄ちゃんを見送って死んだはずってくらいしか覚えてないんです」
    「オレたちと同じか……」
    元々麻里には期待していなかった。彼女が何も知らないであろうことはあの時の状況からKKでも推察できる。
    何かを知っているなら暁人のほうで、そして恐らくは暁人が昏睡状態にある理由もそこにあるはずだ。
    その証拠に今暁人は形ばかりの心電図以外は取りつけられていない。点滴でさえも。
    「一日飲まず食わずでも問題なし……ってワケか。普通じゃありえねえな」
    普通ではありえないことは医者ではなくKKたち祓い屋の領分だ。
    立ち上がると腕を水平に伸ばし水のエーテルを雫の形に変えて地面に落とす。
    手馴れた霊視で周囲ではなくただ目の前で眠りこける青年の状態を確認する。
    「……なんだこりゃあ」
    思わずそう零してしまうほどそれは異常な有様だった。
    KKの瞳には魂は青白い光に、エーテルはそれぞれの属性の色に、穢れは赤黒く映る。
    今の伊月暁人は真っ白い大きな塊だった。
    悪いものではないのは最初に見た時からわかっている。むしろこれは善いもので彼は完全に守られた状態なのだろう。
    もしかしたら今度こそ世界が滅びても暁人だけはこのまま生き残るかもしれない。
    荒唐無稽な考えに自分で笑いを漏らしてしまう。不安そうな顔をする麻里に大丈夫だと伝えてふと気づく。
    塊の端が空気に溶けていっている。
    KKはブラック派だがコーヒーに砂糖を入れたように白いエーテルのようなものは外に漏れ続けている。にもかかわらず本体が変わらないのはエーテルが暁人の体から生まれ続けているからだろうか。
    「あー……悪いがとりあえずすぐにはどうにもできそうにねえ」
    「はい……お兄ちゃんが悪い状態じゃないのはわかりますから大丈夫です」
    「そうなのか?」
    尋ねると麻里もあの夜から『そういうもの』を感じられるようになってきたこと、そして兄からは『そういうもの』とは真逆の、酷く落ち着く感じがするのだと言う。
    心配ではあるので早く解決してほしいと頼まれて勿論だと応じ、麻里にも無理をしないように言って病室を出る。
    火事そのものがなかったことになっても両親の死は変わらない。彼女が家に帰っても誰も出迎えてくれる人はいないのだ。ならば病室に篭るなとも言えない。
    『やっぱり子どもには優しいね』
    暁人の声が聞こえた気がして違えよと心の中で返す。
    (オマエの妹だから優しくしてんだ)



    アジトで話し合ったもののやはり今までなかった事例であり解決策は出てこなかった。それでもKKは時間があれば病室に通い暁人の様子を確かめた。儀式のせいかマレビトや穢れは以前より増えていてそれだけKKの時間も削られたがそれでも一度は顔を見に行った。
    一週間経っても衰弱することも床ずれすることもなく白いエーテルらしきものを少しずつ拡散しながら暁人はただただ眠り続けた。そして病院を中心に少しずつ穢れやマレビトは減っていった。以前よりも少なくなったと言っていい。間違いなく暁人の影響だった。
    「もしかしてそれって光属性のエーテルで、それで渋谷を浄化したら暁人さん目覚めるんじゃない?」
    「それだ!!!」
    絵梨佳のアイデアに根拠などなかった、実際エドもそう言った、が他にKKにできることなどない。それからは暁人の体からエーテルを吸い取って拡散するのを手伝った。案の定祓い屋の仕事は減ってますますKKは暁人に付きっきりになった。病院には麻里が親代わりに面倒を見てもらっていると言ってくれた。兄に似て出来るヤツだとKKは感心した。
    『あの夜』から一ヶ月が経った。
    巨大なエーテルの塊は段々と成年男子の形に収まっていき、何の前触れもなく暁人は目を覚ました。
    「お兄ちゃん!?」
    「麻里……よかった……」
    「おい、大丈夫か!?」
    「あれ……けえけえもいる……?」
    いちゃ悪いかよと返す前に麻里がナースコールを押して、後は大騒ぎになった。
    何しろ原因不明の昏睡患者が妹と刑事が一ヶ月見舞いをしただけで回復したのだ。
    また丸一日検査をして異常無しリハビリの必要も無しで退院した暁人を麻里の許可も得てアジトに連れて帰った。
    「直接会うのは初めて……ですよね。伊月暁人です」
    「ああ、KKが世話になった」
    「オレが世話した方だよ。いや挨拶は後でいい何があったか話せ!」
    「僕が覚えてない可能性は考えてくれないの?」
    「そう言ってる時点で何かあんだろ黙って吐きやがれ」
    「わー怖っ、刑事さんの尋問みたい」
    「カツ丼が欲しいなら後で買ってやるよ」
    軽快なやりとりに凛子たちは瞠目するがKKは内心安堵していた。
    (やはりコイツはオレの知ってる暁人だ)
    たった数時間、それでも命を共有していただけにそばにいるのが何とも心地がいい。態度は年上の男に対するものとしては乱雑すぎるが凛子と同様にKKにはその方が気楽だったし暁人からは常に気遣いが感じられた。KKだけにではなく他の魂や妖怪にもそうだったが。
    「話すと長くなるんだけどね」
    一応病み上がりなのでソファに座らせて一息つくと暁人はあの夜と朝の間の話を始めた。



    「一人で黄泉の世界から出ようとした時に空から声が聞こえてきたんだ。見上げたら鳥居から太陽が見えて、その太陽が僕に話しかけてるんだってわかった。KKとも違って……うーん、なんて言ったらいいのかな……ほら、犬や猫はわんわんとかにゃ~んとかしか鳴かないんだけど、何を言いたいのかわかる感じ?僕の頭の中で僕の言葉にしてる、そんな感じ。それでその声は自分が神様みたいなものだって言ったんだ」
    『天照皇大神かな』
    「アマ……?名前はわかんないけど、とにかく般若のやろうとしたことはマジでヤバいヤツで、成功してたら神様も介入しないといけなかったんだけど、そうするとすっごーく大事になっちゃうんだって!世界のコトワリが変わるくらい?」
    「オマエが言うと軽く感じんなあ……」
    「ホントなんだって!だけど僕たちが儀式を阻止して魂も全部救出して穢れも浄化して神社も解放して妖怪もどうにかして……まあ色々やったでしょ?」
    「街中隅から隅まで駆け回ったな。半分くらいはオマエがほいほい頼みごとを引き受けたせいだが」
    「そのお陰でそんなに介入しなくてもよくなったんだって。それで直接手を出すより麻里みたいに触媒があった方が安全にできるって言うから」
    「オマエ……オレ以外のヤツを身体に入れたのか!?」
    「言い方を考えろKK!」
    「か、神様なんか入れられないよ!?ただ僕をパイプ役?フィルター?みたいにして必要な量の神気を送り出したいって。その間僕の安全は保証するし、僕らのお陰で八十八夜くらいで済むからって」
    「でもお兄ちゃん一ヶ月で起きたよ?」
    「それKKのお陰」
    「あと私のアイデアのお陰だね!」
    「うん、ありがとう絵梨佳ちゃん。それで儀式はなかったことになってあの夜のことも段々忘れられて怪異も減って」
    『つまりKKたちの復活は儀式がなかったことになった反動というわけか』
    「えっ、私も?」
    「麻里も……半分は僕への褒美……みたいな感じだったけど。そういうわけでもう大丈夫だから!心配かけちゃってゴメン!」
    「ゴメンで済むならオレがいるか馬鹿野郎!」



    グーで殴るなんて酷いと暁人は頭を押さえて文句を言うが手加減はしたしこれくらい許されるはずだ。だって本当に心配したのだ。自分達の身代わりなど許せないし、今更この子どもがいない世界をどう生きろと言うのだ。
    (ああクソッ!)
    KKはどうしようもなく自分が落ちていっていることを自覚していた。いや、とっくに落ちていたのだ。神様とやらに嫉妬するほどに。この二回りほど年下の、それでも既に成人している、同性の、男に。
    当の暁人はけろっとした顔で仕方がないと言う。
    「だって誰かや、僕自身だって犠牲になるって言うならムリだけど、ちょっと寝てるだけって言われたら寝ないで渋谷を走り回るよりマシかなって」
    「比べる対象がおかしいよお兄ちゃん……」
    『心配したのはボクたちも同じだよ』
    エドが言えば暁人も素直に謝る。正直ムッとしたが流石に二度も殴るつもりにはなれず押し黙った。代わりに凛子が引き継いだ。
    「まあ最後まで君に付き合わせてしまってすまなかった」
    「いいんです。最初に巻き込まれたのは事実だけど……その後は自分で選んだことだから」
    真っ直ぐ前を向く暁人からは以前の悪い意味での必死さはない。ただひたむきに未来を見つめている。眩しいなとKKは目を細めた。
    『それでこれからキミたちはどうするんだい?』
    伊月兄妹に寄る辺がないのは変わらず、更には二人とも適合者になってしまった。神様の護りとやらも暁人の言葉通りならもうないはずだ。
    ただの一般人に戻ったなら絵梨佳も含めてもう関わらない方がいいと突き放せた。しかしそうでないなら。
    「このまま放っておくわけにはいかねえだろ。特にコイツは幽霊どころか妖怪にも優しくして巻き込まれかねねえしな」
    「うーん、否定はできないなあ」
    「しろよバカ」
    なら決まりだと凛子が手を叩く。
    「今は彼のお陰で怪異も減っているがじきに戻るだろう。第二の般若を生み出さないためにも我々も強くならないとな」
    「頑張ります!」
    意気込む麻里に暁人が目を細める。ああそういう顔が見たかったのだとKKも口元を緩める。この感情を押し付けるつもりはないが今度こそこの手の届く場所で大事なものを守り通そうと自分自身に誓う。
    すると暁人は急にKKの方を振り返って
    「ところでKKは僕に託したこと、自分でできた?」
    と言い出した。
    思わずポケットの煙草を出そうとして、絵梨佳と麻里を見て思い留まる。
    「できるわきゃねえだろ。オマエのことで手一杯だったんだ」
    「……ふーん」
    何故か感情を消したような表情をするので怒ったのかと思ったがそうでもないらしく困ったように眉を下げた。
    「じゃあ早めに済ませてね。そしたら言いたいことがあるから」
    「は?今言えばいいだろ」
    KKとしては至極真っ当なことを言ったつもりだ。今更お互いに遠慮することなどない。KKの恋心を除けば。
    しかし暁人は今度こそ呆れた顔でKKを見た。
    「KKの鈍感」
    「はあ!?」
    「僕にだって色々あるんだよ」
    「今のはKKが悪い」
    「さんせ~」
    『同意する』
    「何でだよ!?」
    誰にでも優しい暁人はいつの間にかアジトのメンバーも仲間に引き入れたらしい。悪態をつきながら煙草を吸いにアジトを出たKKが過去を清算して新しい家族を得るまであと
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    DONE幽霊の日に間に合わなかったけど⊂(^ω^)⊃セフセフ
    短くするつもりが長くなってしまい申し訳……
    幽霊シリーズ、色んな方から感想とか反応いただけてとっても嬉しいです…☺️
    最初の話のアンサー的な感じで書きました、つ、伝われーッ
    幽霊の日の話「今日って、幽霊の日なんだって」
    『ほー。よく知ってるな?』
    「だから、KKの日でもいいなぁって思って」
    今日はちょっとお供え物も豪華にしたよ?と机にビールや暁人が作ったおつまみ、お菓子、それに食後の一服用にとタバコが置かれた。
    「気になってちゃんと起源も調べたんだよ」
    『偉いな、知識を得ることは良い事だよ』
    うんうん、と横でふよふよ浮いているKKが頷く。
    「まぁ、僕がたくさん食べたいから付き合ってもらおうと思ってね?」
    金曜日の夜だからいいよね、と先にKKの分の缶ビールを開けて向かいの席に置き、その後自分の缶ビールも開ける。いつの間にかKKが姿を現せるようになってからというもの、お供えスタイルから向かい合って一緒に食べるような食卓スタイルに変えた。以前KKが「これじゃお供え物じゃねぇな」と言ったが「僕からKKへのお供え物って名目だったら問題ないだろ?」と暁人は笑って返した。
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