ベッドサイドにある直方体のデジタル時計を勘で手を伸ばして掴み、引き寄せる。自動で点灯するライトが当たらないように角度を意識して棒の並びを認識しようと目を凝らした。時間はどうでもいい。どうせ何時でも後は満足するまで寝るだけだし、それができるほど明日の予定は二人とも空だ。
六月とは思えない気温と六月らしい湿度。全く地球温暖化など叫ばれ過ぎて枯れ果てて久しいが一声あげたくなるのも理解はできる。それよりももう一度手を伸ばしてリモコンに手を伸ばしてしまうのが人の性だが。
除湿か冷房か迷って後者にする。ラジオか何かで冷房の方が結局除湿効果があるとか言っていた気がする。とにかく太ってもいないが小柄でもない成人男性二人が余すことなく密着している現状は接触冷感素材の寝具を引っ張り出してもないよりマシ程度の効果しかもたらさない。
電気を消費することで冷却された風が届いたのか己にへばりついた体がもぞりと動く。声をかけるほどでもないと素肌を撫でてやればそのまま穏やかな寝息が耳に届いた。それが生を実感させて心から安堵する。幸せというのが正しいだろう。生きていることが幸せとはとんだ悟りだ。
風を受けてカーテンがはためく。雪崩れ込んだので閉め方が甘かった。けれども今更直しにもいけない。今ここで起こすくらいなら数時間後に差し込む朝日を目覚ましにしたほうがマシだろう。
今は隙間から夜空が見える。とはいえ日本の首都東京だ、星空ではなく一晩中輝くネオンの光しか見えない。もうすぐ七夕だと言っていたのを思い出す。有名な七夕祭りには行けそうにないが、二人でささやかに季節限定の品をつまみに恋人たちの逢瀬に乾杯することくらいはできるだろう。
今年も商店街でささやかなものから世界規模までの願いをしたためられた短冊たちがどこからか調達したそこそこの竹を彩るのだろう。少なくともその内の二枚はこうして叶えられている。鼻歌を嗜みそうになって咄嗟に息を止める。
未だ眠りの深い恋人は夢の銀河を漂っているのだろう。天の川は温度も湿度も低くエアコンは不要そうで羨ましい限りだ。こんな実りのない空想に耽るとはどうやら己にも眠気の波が戻ってきたようだ。とりとめのない思考に話し相手が欲しいと思いながら寝る態勢に戻る。
今願うのなら夢の中でも彼と同じ場所にいられることを、だろうか。二心同体を求める本能はこの先も一生消えることはなく、一生満たされないのだろう。それでもいいと思っていた。離れることに比べれば苦難の内にも入らない。
「おやすみ」
快適な空間の中で彼の平和を願うばかりだ。