ネタがほしいんです!『ネタがほしいんです!』
「お兄ちゃん、何時になったら、KKさんとくっつくの?」
「……」
アジトのソファで寛いでいると、麻里に詰められる。真剣な顔をしている。
「そうですよ、何時くっつくんですか?」
麻里の背後から絵梨佳がやってくる。麻里の肩に手を置き、覗くように顔を出し、頷きながら同意している。リビングには暁人と麻里、絵梨佳しかいない。現在、三人以外の面々は出払っている。
「私たち、今、供給不足なの!だから、早くくっついて、ネタ供給して!」
「そうだ!そうだ‼」
「身内をネタに使おうとしない…」
麻里と絵梨佳は所謂腐女子だ。暁人自身、偏見はない、人の趣味をとやかく言うつもりもない。しかし、ネタに使おうとするのは別である。
「だって、こんな近くに良い物件があるんだよ?するでしょ!」
「力説するな!」
「で、何時くっつくんですか?」
「絵梨佳ちゃんものらない!」
「「えーーーー」」
ハモった二人のブーイングに頭を抱える。これは二人が満足するまで離してくれないやつだと、早々に諦める。
「で?どうしたいの?」
暁人の諦めの声に、目を輝かせて見つめてくる。
「アプローチ!アプローチ!」
「やっぱり、最初はボディタッチからだと私は思うなー」
楽しそうに二人に詰められ、ソファの片隅に追いやられる。近づいてくる二人はまさに獣だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【ステップ1】ボディタッチ
「KK、もしかして眠い?」
「…ぁあ」
今にも瞼が閉じそうなKKがソファに身を預けている。瞼が何度も開閉すると、微睡む。余程疲れているのだろう。しかし、ソファの上で寝るより、布団へ行くべきである。
「KK、布団行った方がいいよ」
「…ぅ、ん」
「KK?」
「…ここでいい」
睡眠を邪魔され、不機嫌な声を上げる。再びソファで微睡み始める。力なくずるずると下がっていく。
「KK!僕ここから退くから、せめてそこで寝ないで」
そのまま寝そうになるKKに慌てた暁人がソファか退こうとすると、KKの手が膝を抑える。
「…膝、貸せ、ここで…ねる…」
「え、ちょっ…」
「すぅーーー」
暁人の膝の上に頭を乗せ、寝息を立て始めたのである。
「ってことが、あった」
「ありがとうございますーーーーーーーーーー‼‼‼」
「膝枕‼最高‼」
「で、その後は!」
「ああ、目空けた瞬間に固まったよ」
「脈ありじゃん!」
「そうだよ、絶対脈ありじゃん!」
あの時のKKの顔は面白かったなーと、二人の叫び声をBGMに思い出す。
「ある意味、ボディタッチは成功!」
「次は、甘える!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【ステップ2】甘える
「飲み物でも飲むか?」
「奢ってくれるの?」
「あぁ?まあ、頑張ったしな」
「ふふふ」
調査を一通り終えた二人は、アジトへと歩いて戻っていた。道路の脇に設置された自動販売機を目にしたKKが一息入れようと暁人へと提案してくる。強請ったみたいで、少し恥ずかしくなるも、透かさず褒められ、笑みが零れた。
「どれだ?」
「うーん、ミルクティーにするよ」
「甘ったるいの飲むなー」
無糖のコーヒーを選んだKKが続けて、ミルクティーのボタンを押す。
「ほらっ」
「ありがと」
短くお礼を言うと、冷たいペットボトルの蓋を開けた。ミルクと茶葉の香が鼻を通る。口をつけると、甘さが広がっていく。疲れた脳に効く。
「うん、おいしい」
KKは缶コーヒーを飲みながら、幸せそうに飲む暁人の様子に微笑んだ。
「KK、一口頂戴!」
「あん?無糖だぞ?」
「いいの」
「やめとけ、お前にはまだ早い」
缶を四十五度に傾け、残っていたコーヒーを飲みほした。
「あ!」
暁人は声を上げ、剥れる。
「悪いな」
「……」
嘲笑うKKを剥れたまま、ジト目で睨みつけ、飲み物に口付けた。
「暁人」
「何?」
素っ気ない返事だ。楽しそうに笑ったKKが、飲み物を持つ暁人の手の上から握りこむと、飲み物に口を付けた。
「うげっ、甘ったる…」
「間接キス…」
「え、やばっ」
「もうこれで一つの作品作れる‼」
「このままキスまで持ってこう!」
アジト内で麻里と絵梨佳が騒ぐ、興奮しすぎて周りが見えていないようだ。玄関へと小走りで向かいながら、この後の展開を話あっている二人を他所に、暁人はテーブルに肘を置く。リビングより奥にある部屋から顔を出したKKが近づいてきた。
「おい、何時言うんだ?とっくの昔に付き合ってるって」
「言ったら、根掘り葉掘り聞かれるよ」
耳打ちしてくるKKに遠い目をした暁人が答える。
「(まあ、後で言っても同じだろうけどね…)」
深く深くため息を吐くのであった。