どうせ山の怪異を調査するなら紅葉狩りに行こう!ということになった。
「いいけど、何で直接の調査は僕たちだけだったの?」
すっかり山ガールの装いの麻里と絵里佳にスカートではないがよそゆきの服装の凛子と違って暁人とKKはいつものタクティカルジャケットだ。
「この辺の遊歩道はいいが、昔から山の神様は女でな。 同じ女が入ると怒ると言われてんだ」
「あーだからお爺さんは山へ芝刈りにお婆さんは川へ洗濯になんだ」
「そういうこった。 それに女は虫がキモいだなんだうるせえだろ」
男性にも虫嫌いはいると思ったが暁人は黙っておいた。少なくとも麻里が蛾程度で大騒ぎするのは事実だ。暁人も正直、巨大蜘蛛は気持ち悪いと思っていたが。
結局怪異は妖怪の仕業だったので男二人は野山を駆け回り、女三人は車で位置情報の連絡係だった。因みにエドとデイルは留守番である。
人が嫌だったのか虫が嫌だったのか定かではないが
「お土産買って帰ろうよ。 途中に道の駅あったよね」
KKが無言で手をヒラヒラと動かす。了承の印だ。ついでに山菜なども買って帰りたいなと思いながら暁人は空を見上げた。
「晴れで良かったね」
怪異のことを微塵も知らない普通の人たちも遊歩道を散策している。数年前までは暁人もそちら側だった。
「場所によっては運動会とかやってるのかな」
「さあな……オレは見に行ったことがねえからな」
「KKが子どもの時の話をしてるんだけど」
若干不貞腐れかけていたKKが途端に表情を変える。これは照れてる顔だな、と暁人は判断した。
「昔の話はいいだろ」
「僕にとっては最近なんだけど」
先月、暁人への恋心を自分の胸の内に封じ込めようとしたKKは直近の怪異の影響も受けてやり過ぎてしまい、自らを昏睡状態に陥れてしまった。
防衛反応のようなもの、とはエドの言葉で詳しくない暁人はエドがそういうならそうなのだろうと納得した。
精神と記憶を子どもの状態で安定させていたものの、結局暁人たちに介入されて殻を破られてしまった。最後に起きる決心をしたのはKK自身だが。
そして今、KKは暁人と二人、女性陣からは距離を取ってのんびりと歩いている。つまりはそういうことだ。
「徒競走一番でリレーの選手っぽかったもん」
「オレより速いヤツもいたぞ」
暁人はどうだったのだろうとKKは考える。運動神経は悪くないし穏やかに見えて負けん気も強い。ついでに顔もいいのでモテただろう。野生児扱いの自分と違って。
「今勝負してみる?」
「断る。 つーかさっきまで走ってただろ」
「グラップル使ってただろ」
だとしてもこれ以上全速力で走る元気はKKにはない。むしろ今すぐ帰って風呂に入ってビールを飲んで寝たい。
若い暁人は前方にいる麻里たちに手を振ってスマホを出した。
「この先は彼岸花がいっぱい咲いててフォトスポットになってるんだって」
「ありゃあ毒草だぞ」
そもそも暁人は彼岸花が密集している場所にいい思い出はないと思うのだがいいのだろうか。
「大体彼岸っつーのはあの世のことだからな、あっちに繋がっても知らねえぞ」
「嘘つき。 助けてくれるだろ、KKは」
僕のこと大好きなんだから。
声に出さずに口を動かすのを見てKKは頭を抱えた。
反対に暁人はからからと秋の空に響くように笑う。
「やっぱり知られない方が良かったかもね」
「うるせえ、オマエだって同じだろ」
「うん、大好きだから絶対に助けるよ」
何の衒いもなく言い切る暁人にやはり彼岸花は似合わない。
だから二度とあんな場所にいかせない。
「徒競走でもかくれんぼでもオレの負けだと思うがな」
「負けず嫌いのKKにしては珍しいな」
本気で不思議そうにしている暁人に負けず嫌いなのも同じだろうと思いつつ、年長者らしく教えてやる。
「惚れたモン負けってな」
「…………なるほど?」
桜以外にも赤くなる植物はある。紅葉のように、彼岸花のように。それから暁人のように。
「僕は植物じゃないよ」
「そうか? 膨らむ草木もあったような気がするが」
「もう!」
先に行くよと足音を立てて大股で歩く暁人のウブさに笑いながら早足で追いかける。
夢の中では散々弄ばれたのだから現実で少しくらい意趣返ししても許されるだろう。
「暁人、髪に紅葉がついてるぜ」
「え、どこ…っん!?」
キザだのバカだのかわいらしい罵倒を背にKKは女性陣の待つであろう彼岸花畑に向かって悠々と歩き出した。