運命の人はオレのものK暁 ホワイトデー
差し出された一輪のバラと小箱に目を見開く。
正直なところ、ホワイトデーにこうして何か貰えるなんて考えてもいなかった。バレンタインはお互いが贈りあった形だったから、それで完結したと思って何も用意していないのだ。
そんな焦りが顔に出ていたのか、KKが吹き出して笑い出す。
「オレが勝手にやったことなんだから気にしなくていい。いいからこっち開けてみろよ」
「でも、…あ、キャンディ?」
「カゲリエに花買いに行ったら売ってたんだ。オマエ戦うときによく糖分摂るだろ」
「最近は減ってきてるけどね。…ありがとう」
カラフルなキャンディの箱からひとつ赤いキャンディを取り出し包装を解く。宝石のようなカットをされたそれを口に含むとふわりと苺の甘みが口いっぱいに広がった。
砂糖の甘さというより苺の果汁をそのまま固めたような自然の甘さが美味しい。無意識に口元が綻ぶ。かろりと舌で転がし堪能していると、箱の底に何かが反射し光って見えた。キャンディをかき分けそっと指で摘む。
小さい黒っぽい石のついた金属のチェーンだ。
「これ、ブレスレット?」
「違う、足につけるやつだ」
ひょいと僕の手からアンクレットを取ると、屈んで足を掴む。突然の事にその場でたたらを踏むが、KKの肩を掴むことで事無きを得る。
KKが裾を捲り冷たい指先が足首を這い、そのひやりとした感触に身を震わせた。
手を離し足首を飾る白銀色を見てKKは満足げに頷く。
「似合うな」
「そう?」
「スモーキークォーツは退魔とかヒーリング効果とかあるらしいぞ他は…調べてみろ」
「途中で説明が面倒くさくなったな?…クォーツってことは水晶?綺麗だね」
しゃがみ込んだまま、また足首を掴むKKを不思議に思いながら片手でスマホを操作する。
スモーキークォーツの石言葉は安定、癒やし、くじけない心。安眠なんていうのもあるのか。不眠症の治療にも使われたことごあるらしい。どうやら最近眠りが浅いのは気づかれていたようだ。スマホの画面をスクロールしていくとアクセサリーの意味という関連記事を見つけ、覗いてみる。
「身につけている人は自分のものだと所有欲を表し、それを周囲に証明する…?」
自身の左足首にキラリと光るアンクレットに頬を赤らめる。足首をすり、と親指で撫でたKKがニヤと口角を上げた。
「まぁそういうことだ」
ぐん、と視界が揺れる。いつの間にか抱き上げられ目線が高くなったかと思うと強引に唇を塞がれた。ペロリと唇を舐める赤から目が離せない。KKは僕の口から奪った赤いキャンディを噛み砕き部屋へと歩き出した。
「け、KK」
「お返ししたかったんだろ?今から貰うぞ」
「最初からそのつもりだったんだろ…」
体を支える腕を叩く。機嫌良さそうに鼻歌を溢す彼にそれ以上何も言えず、赤い頬を隠す様に肩口に顔を埋めた。
「ああ、そうだ。せっかくだが今夜は安眠できないだろうからな。先に謝っとくぜ」
くすくすと笑い混じりで告げられた言葉に、背中を引っ叩くことで返事をする。
照れくさいが、こんな求められ方をして嬉しくないわけがない。僕もアンクレットを贈ろう、もちろん左足に。
力を抜いて足を見る。そこには所有欲の証がキラキラと揺れていた。