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    takeke_919

    @takeke_919

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    takeke_919

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    #毎月25日はK暁デー
    素敵タグにギリギリ間に合いました💦
    お題は「おはよう」
    Kは成仏したのではなく、暁の中で眠りに付いたという説を添えて。
    毛色の違う話が書きたいなぁと思い至ったまでは良いものの、毎度のことながらお題に添えているかは迷走してます🤣

    #K暁
    #毎月25日はK暁デー

    目醒めの言の葉 東京の街を覆っていた濃く暗い霧は晴れ、東の空からは眩い光を放つ日輪が顔を覗かせている。

     幾重にも連立する朱鳥居を潜り、石燈籠の淡く揺らめく灯りに照らされた石階段を登る暁人の胸中には全てを終わらせた事による達成感と、追い求めた者を失ってしまった喪失感。そして、自身の中に宿る男への寂寥感が入り混じっていた。男の悲願は達成され、その魂が刻一刻と眠りに就こうとしているのを肌身に感じる。

     本当に独りぼっちになってしまう。

     そうは思うものの、妹に、両親に誓った。泣いても、みっともなくても生きていくのだと。次に会うのは、最後の最後まで生き抜いた、その後なのだと。

     一歩一歩、階段を登る最中にKKから彼の妻子に向けての言伝を預かった。『最後まで、あきらめずに生き抜いた』と、そう語られた言葉は、彼の想いが沢山、たくさん詰まった大切なモノだ。何があっても絶対に伝えなくてはと、しかと心に刻み込んだ。

    『暁人、もう取り憑かれんなよ』

     死神はオレみたいに良いヤツじゃねぇからな。最後までそんな悪たれ口をたたく相棒に、暁人は調子を合わせて軽口を返す。

    「なんだよそれ!勝手に取り憑いておいて」

     礼ぐらい言えよ。自身の右側に向かって投げ掛けたその言葉に、もう言葉は返って来なかった。右手をそっと持ち上げ労わるようにゆるりと撫で摩る。傷跡など元から無かったと言わんばかりに綺麗になってしまった右掌を見ていると、やはり寂寥感は拭えなかった。

    「ありがとう。……おやすみ、KK」

     ズボンの後ろポケットから取り出したのは使い古された二つ折りのパスケース。初めてコレを見た時は彼の妻と子どものツーショットだと思っていたけれど、本当は違った。間のポケットを捲ると、其処にはれっきとした家族写真が収められていたのだから。……彼にしては珍しい、柔らかな笑みをその相貌に乗せて。

     暁人は光に向かって、一歩を踏み出す。

     自分の力不足に嘆き悲しんだ夜だった。理不尽さに憤りを爆発させた夜だった。多くのモノを失った、忘れる事なんて出来ないそんな夜だったけれど……。其れに等しく、彼の胸の中にはきらきらと眩い光を放つ温かくて大切なモノが残されている。
     きっとこれがあれば、自分はこの先独りであっても生きて行けると。そう思わせてくれる程に、彼との掛け替えの無い『想い出』は暁人の生きる道を明るく照らしてくれた。もう大丈夫だと、小さく微笑んだ暁人の表情がそれを如実に語っていた。


    ⬜︎


     余波は暫し残しつつも大きな異変の見られない渋谷へと舞戻り、その足で相棒の最期の言伝を伝えに彼の妻子の元へと暁人は向かった。突然現れた暁人のことを初めは怪訝そうに見遣った二人ではあったが、何とか相棒の言葉を伝える事は出来たし、あのパスケースも受け取ってもらえた。これで本当に自身の役目は終わったのだと、そう思えた。

     そうして、身の回りの整理と自身の気持ちに決心をつけた矢先のことだった。

    「何で……何であんなのがまたいるんだよ…ッ!!」

     あの夜宜しく、再びネオン灯の犇く都会の街中を疾走しながら暁人は一人悪態をつく。理由は至極単純、何故か突然姿を現したマレビトに暁人は襲われていた。それも『影法師』のような類いではなく、随分と巨体で強敵そうなソイツは『猫多羅』に近しい存在のようだ。

     そもそも、人の多く集まる場所に負の念が溜まるのは自然の摂理だ。般若の仕掛けた霧がなくとも、怪異や妖怪、そしてマレビトは少なからず存在する。それを暁人に教えたのは、唯一彼以外に生き残ったエドとデイルだった。

    『キミはKKのように色々と視えるみたいだから、一応持っておきなさい。エーテルが使えなくとも、コレがあれば大抵のマレビト相手なら対処出来る筈だ。
    ……それと、此処からは予想の域を出ないんだが。恐らく強くても白無垢以上のマレビトはもう存在していないと、ボクとデイルは考えている。まだまだ調査途中でハッキリとは言えないけれど、もう憑代は居ないからね』

     相も変わらずボイスレコーダーから再生された言葉の羅列に軽い驚愕を覚えながらも、的を得たエドの言葉に暁人は頷くだけだった。そうして、エドは数枚の御札とあの弓を『扱える者が正しく扱うべきだ』との言葉を添えて、暁人に譲り渡していたのだ。

     油断していたわけでは無い。警戒だって怠っていなかった。……ただ、目の前に現れた相手が悪過ぎたのだ。
     それでも何も知らずに暮らしいてる人々を巻き込ませはしないと。頭の片隅に無意識に湧き出たその思いに、駆ける暁人の両脚は自然と人気の少ない裏路地へと向かっていた。
     マレビトの姿は獣に近しいモノだ。足の速さだって段違いだし、何時迄も追いかけっこをして根を上げるのは十中八九自分の方だと。駆け抜けながら考えていた暁人は何度か路地を右へ左へと無作為に曲がった先、目に付いた物影へとその身を滑り込ませる。

     今の彼にはエーテルの力が扱えなかった。寧ろあの夜はKKと二心同体であったから使えたようなもの。手元にある麻痺札と数本の矢だけではどう考えたって太刀打ちなど出来はしない。霊視も行えない現状で、下手に動きまわるのも得策ではなかった。

     心臓は早鐘を打ち、浅い呼吸を繰り返す所為で胸の苦しさは一向に和らがない。強い喉の痛みに口の中に広がる鉄の味が酷く不快だ。それでも何とか呼吸を続けながら額に滲んだ汗をおざなりに拭うと、物影から自身の走って来た方角を窺う。

    「(撒けた……のか?)」

     眼前には転々と設けられた白色灯に薄らと照らされた薄暗い路地道が広がっているだけだった。どうやら、本当に撒けたらしい。ふぅー、と大きく息ついた暁人はそのままズルズルとその場に座り込む。

    「(……エドの言ってた話と食い違ってる。アレは、憑代が居ないと存在出来ないヤツだ。でも、何で……)」

    壁に背を預けたまま、瞼を閉じて荒んだ息を整える事に努める。暁人の脳裏には、今し方相見えた者の姿が浮かんでいた。長い髪を振り乱し、三又に別れた尾を持つ魔獣の様な姿のマレビト。あの夜、KKと共に対峙し討ち祓った小面の姿と酷似していた。

    「憑代は無いけど、それ程に強力な負の念が生まれた……ってこと?」

     溢れた独り言に、答を返す者はこの場には居ない。けれど、いつまでも此処に留まっていても仕方がないと重い腰を上げようとしたその瞬間だった。

     身を隠していた物影、その反対側からぬるりと何者かが此方を覗いている。黒く、長く、ゆらゆらと風に揺れるそれは漆の様に黒い髪の毛。恐る恐る持ち上げた視線の先、闇の様に暗く深い絹糸から覗く緋い双眸が、ゆうるりと弓形に細められる。それは捕食者が、獲物を見つけて嘲り笑うようなソレで。

    「……ッ!!!」

     マズい。

     そう思った刹那、頭で理解する前に身体が勝手に動いていた。咄嗟に相手の足元に向かって麻痺札を放ると物影から飛び出した暁人。兎に角、動きが止まっている今のうちに少しでも距離を取らなければ。しかし、再び駆け出そうとした彼の脚には、いつの間にか黒々しい髪が巻き付いていた。

    「しまっ…!!」

     気付いた時には己の体は宙を舞い、満足に勢いを殺せぬまま強かに壁へとその背を打ち付けていた。巻き付けた髪で動きを封じ、尾で薙ぎ払われたらしい。

     硬いアスファルトに倒れ伏しながら何とか身を起こそうと試みるも、強い衝撃を受けた所為で胸の筋肉が麻痺し呼吸がままならない。どうやら後頭部も打ち付けたようで、次第に視界までボヤけ四肢の力が抜け始める。

    「(こ…の……まま、じゃ……)」

     飛ばされた衝撃で手元にあった札も弓も、自身の傍から離れた場所に落ちている。其処まで辿り着けばこの絶体絶命の状況を打開出来たのかも知れないが……。暁人の身体は先の衝撃に未だ悲鳴を上げ、辛うじて意識を保っているのがやっとだった。

    「(こん…なところで、おわれ…ない。僕は、ぼくは……!)」

     最後の最後まで生き抜く、彼が立てたその誓いは生きる指針そのもの。終わりの瞬間は『今』ではないと、自己を鼓舞し腕に脚に力を込める。何とか上体を起こし膝を突くまでには至ったが、そこが限界だった。
     無情にも、マレビトは着々と自身との距離を詰めている。その巨体であれば一っ飛びで詰められる程の間にも関わらず、ニマニマと下卑た笑みを貼り付けながら態と時間を掛けて詰め寄るその様は、まるで此方を弄んでいる様であった。

    「クソ……」

     その時、暁人の脳裏にふと相棒の言葉が過ぎる。

    『いいか、暁人。

    もしも闘いの最中、自分が満足に闘えなくなったとしても相手から絶対に目を逸らすなよ。最後まで機を窺え、諦めるな。向こうがどれだけ強くても、余裕かましてやがれば絶対に隙は生まれる。

    絶望するな、ヤバい時こそ笑ってやれ。

    そんで、化け物に向かってこう言ってやるんだ』

    「(……そうだ。教えてもらったじゃないか)」

     痛みと焦燥に歪んでいた暁人の表情が一変する。眼光鋭く眼前の存在を睨め付け、ぐいと口角を上げたその表現。それは何処か、彼の相棒を彷彿とさせるような挑発的な笑みだった。
     そうして暁人は、声高らかにマレビトに向かって言葉を投げ付ける。

    「『ヤレるものなら、ヤってみろ!!』」

     狙った獲物の最後の足掻きだと、油断しきった化け物は暁人の咆哮を聞きながらも意気揚々と狙いを定め、一閃を食らわせる体勢に入る。相手の一撃をまともに食らえばきっとただでは済まない。理解はしていたが、彼は決して瞳だけは逸らさなかった。

     獣の前脚を振り上げ、暁人に向かって勢い良く振り下ろす。振りかざされた無慈悲な一槌をその身に受けようとしたまさにその瞬間、淡い光の膜が彼を包み込み放たれた一槌ごとマレビトを弾き飛ばした。

    「え……?」

     暁人は思わず自身の目を疑った。

     何故なら彼は、この光の膜に見覚えがあり過ぎたから。これはエーテルの力が扱えない今の彼には使えない筈の護りの力。時に攻撃を弾き飛ばし、受け流す防御壁だった。

    「何で……」

    『何でってそりゃあ、オレの相棒殿は諦めなかったみてぇだからな』

    「……ッ」

     時が止まる。自身の息を呑む音がやけに大きく聞こえた。だって、もう二度と聞ける筈のない唯一無二の片割れの声が聞こえて来るだなんて思ってもいなかったのだから。

    「なん…で…?」

    『ハハ、さっきからそればっかりだな。まぁ……分からなくもないが、敵前でその腑抜けたツラはちと頂けねぇぞ?』

     なぁ、お暁人くんよ。変わらない、けれど懐かしいその憎まれ口と共に右手に集まり始めた風の力を感じる。導かれる様に見遣った己が右手、其処にはあの日離別した筈の光が再び宿っていた。
    これは自分の見ている都合の良い夢なんじゃないかと、そう思わずにはいられない。けれど四肢に、背中に走る痛みがこれが現実なのだと突き付ける。

    『まさか、こんな騒がしい目覚めになるとは思ってなかったが……。オレもオマエも、久しぶりの共闘だ。早速、肩慣らしといこうじゃねぇか。相手にとって不足なし、だろ?……なぁ?相棒』

     こんな大どんでん返し、一体誰が想像出来ただろうか。眦に滲みそうになる滴は、痛みの所為だと自分に言い聞かせる。そうでもしないと、みっともなく泣き喚いてしまいそうだったから。

    「……うん、うん…!やろう、KK!」

     打ち震える声はご愛嬌。両の脚を地に付け、聢と立ち上がる。弾き飛ばしただけのマレビトはまだまだ元気そうだ。魔獣と対峙する暁人の瞳には、あの夜と同様の強い光が宿っていた。

     右手を構える。力が集結する。それは己一人では到底出し得なかった特別な力だった。

    「ねぇ、KK」
    『何だ、暁人』

     自分達の名を呼び合うのがこんなにも尊い事だと気付いたのは、気付けたのは一体いつだったろうか。二人はきっと、等しく噛み締めているに違いない。

    「……おはよう、KK」

     そっと、暁人が小さな声で呟く。
    放たれた声色は深い慈しみが込められた、とても柔らかなものだった。労いの意が篭ったその言葉に、KKも返答を返す。

    『……あぁ、おはようさん。暁人』

     表情は見えずとも、今の彼はあの写真に写った時の様に柔らかな笑みを浮かべているのだろうと暁人には思えたのだ。


    翠緑の風が暗い裏路地を駆け巡る。

    紺碧の雫が散り散りに弾け飛ぶ。

    紅蓮の火塊が闇夜を照らす。


     その夜、闇に紛れて路地に現れたマレビトは跡形もなく姿を消し、代わりにある一人の男が片割れの元へと舞い戻った。

    目醒めの時に交わす、その言の葉と共に。

     


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