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    村人A

    @villager_fenval

    只今、ディスガイア4の執事閣下にどハマり中。
    小説やら色々流します。

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    村人A

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    甘える閣下が見たくて書きました。多分こういう風に甘えるのかな、と。
    タイトルが過去一と言っていいほど気に入っています。まだ付き合ってないけど、多分時間の問題かもしれない。

    #執事閣下
    deacon
    #フェンヴァル
    fenval

    夢を見るなら貴方がいい「フェンリッヒ、頼みがあるんだが」

    神妙な面持ちで部屋に入ってきた主がそう言ったのは、つい今しがた。
    自室で休もうとしていたフェンリッヒは、少し固まった。
    頼みなどと、まさかシモベの自室にまで足を運ばねばならないほどの重大な出来事でもあったのか、それとも自分がなにか知らぬ間に至らぬことをしてしまったのか。
    あれこれと思考を巡らせた一瞬、フェンリッヒはただ一言返した。

    「…なんでしょう、閣下。何なりとお申し付けを」
    「うむ。お前ならそう言ってくれると思っていた。…すまぬが、座って腕を広げてくれぬか」
    「……?こう、ですか?」

    全く意図が読み取れない。
    だが主の言葉なので、フェンリッヒは近くにあった椅子に腰かけ、手を広げた。
    だが、これではまるで──

    「いいか、動くんじゃないぞ」
    「え、閣下?一体なにが─」

    そこまで言った時。
    ヴァルバトーゼはフェンリッヒの懐に収まった。抱き着いた、という言葉が正しいか。

    「……え、は?あの、閣下?」
    「……」

    ただパニックのフェンリッヒは主へ言葉を求めるが、それ以上は何も返ってこない。
    パニックのまま、主の背に手を回すと、ギュウとさらにしがみつかれた。どうやら正解だったらしい。

    「…時折」
    「はい」
    「時折…無性に…異常に、人肌が恋しくなるのだ。そういう時に…こうしていると、落ち着くというだけだ」

    吸血鬼という種族故か、それともヴァルバトーゼの体質なのか、彼の体温は酷く低い。
    対照的に、フェンリッヒは体温が高い。
    暖かいのが落ち着く、ということなのか。

    「閣下、こういうことは今までなかったのですか?」
    「あった。最初は…もう、1500年以上前か」

    1500年前。それは彼が1000歳頃の話。
    人間の年齢で換算すれば、10歳の子供だ。

    「これまでは、どう?」
    「…魔力を失う前は、眷属にした者たちを。地獄に堕ちてからは…そういう日があっても、我慢していた」
    「我慢、ですか?」
    「プリニーに頼む訳にはいかんだろう?」

    フフ、と笑いながらヴァルバトーゼは言う。
    弱みを見せる訳にはいかない、と。

    (…確かに、教育係が教育される側に甘える訳には─…ん?)

    フェンリッヒは、そこまで考えて納得した。
    彼は人肌恋しいのではなく、甘える相手が欲しいだけなのだと。

    「…今回は、なぜわたくしに?」
    「……お前なら、断らないかと思ったのだ。主としての立場を勝手に利用しただけの勝手な策だ。怒るなら怒るといい」
    「怒りなど致しませんよ。ただ不思議だっただけです。そういうことなら、気の済むまでどうぞ」
    「…感謝する」

    しがみつかれたまま、好きにさせておく。
    我慢していたが今回来たということは、自分は弱みを見せていい相手なんだと主に思われたこと。それが彼にはなんだか嬉しいことだった。
    しばらく黙っていると、腕の中のヴァルバトーゼが急に力を失う。

    「閣下!?……眠った、のか」

    焦ったものの、耳を澄ませば聞こえてきた寝息に安堵の息をつく。
    ゆっくりと横抱きにすると、フェンリッヒはそのまま主を自分のベッドに寝かせた。
    僅かに上下する身体でただ眠っているだけなのは見て取れるが、白い肌に僅かな呼吸、そして冷たい体温。まるで死人のように眠る主を、フェンリッヒはただ見遣った。
    すると、ヴァルバトーゼの手がゆっくりと上に伸びた。

    「……い、くな……ッヒ…」
    「…!!」

    それが己にかけられた言葉だとわかり、フェンリッヒは伸ばされた手をゆっくりと包み込むように掴んだ。

    「フェンリッヒはどこへも行きませんよ、閣下。あの誓いを破るような真似はしません。ここへおります」

    言い聞かせるように言うと、少し浅くなったヴァルバトーゼの呼吸が戻っていく。
    再びベッドへ下ろされた、その手袋越しの指を、フェンリッヒは軽く撫でた。

    「指の先から、足の先から─髪の毛一本に至るまで…あなたをお慕いしておりますよ、我が主…ヴァルバトーゼ様」

    すくい上げた手に口付けを落とし、フェンリッヒは眠ってしまった主へ、甘い甘い言葉をかける。当然、それに何か返って来る訳でもない。

    「……オレはアホか。眠っている相手になにを…」

    自分に弱みを見せてくれるのは、信頼されていて嬉しい。
    だが、浅ましい想いは素直に喜んではくれない。

    (…何もないと信じ込んでおられるからこその寝顔なのですかね、これは)

    安心しきった寝顔を見ながら、フェンリッヒは頭を抱える。

    「…こんなに無防備な姿を晒すのはわたくしの前だけにしてくださいね、ヴァル様」

    頬を撫でると、身動ぎしたものの、嫌そうな顔なしなかった。
    少し動くと、はっきりと「フェンリッヒ」と口にした。

    「はい、フェンリッヒはここにいますよ。わたくしの夢を見てるのですか?…それはいいですね。わたくし…オレも、夢を見るなら貴方がいい」

    ふふ、と笑いながら、ヴァルバトーゼにしか聞かせない優しい声色でそう語り掛ける。
    自分のベッドを明け渡し、フェンリッヒはベッドの傍らに座り込んで目を閉じた。


    ぐっすりと寝入った。
    そのおかげなのか、幾分スッキリした頭でヴァルバトーゼが目覚めた。
    起き上がると、ベッドの傍らでシモベが眠っている。
    その長い髪に触れると、柔らかな感触が伝わってくる。

    「…寝ている間、お前にあれこれと言われた気がしたのだがな。おかげで、夢にまでお前が現れたではないか。油断も隙もないな、我がシモベは」

    こっそりと血を飲ませようとするところは少し気に食わないが、『すべては我が主のために』が口グセなのを体現するかのように、フェンリッヒの全ての行動には、“主”というものが付き添う。
    周りから何と言われても、ヴァルバトーゼはそれが煩わしいと思ったことは無い。…少し、小言は多いが。

    「…だが、独りより余程良い気分だ。お前のせいで、独りの時にどうしていたか忘れてしまったではないか」

    以前はヴァルバトーゼは独りだった。孤高を貫く暴君。
    そんな彼と、仲間からシモベになったフェンリッヒ。最初はその“仲間”を知るために行動を共にしただけなのに、今は居ないと落ち着かない程に、共に居て心地よい。

    (小娘共にも、そのような声で話せたら、お前のことも理解してもらえ……いや、それは俺が面白くないな)

    仲間たちのことを信用していないフェンリッヒは、仲間たちへの当たりが強い。
    ヴァルバトーゼには一人称が『わたくし』なのに、仲間たちには『オレ』であるし、敬語で話すのもヴァルバトーゼにのみだ。

    (俺が仲間に弱みを見せぬように、お前も優しすぎる部分を見せぬのなら、俺も現状に満足しよう)

    主だと言うのに、酷い独占欲だ、とヴァルバトーゼはひとり笑う。
    彼が決して自分には逆らわないのを逆手にとった、ただの縛り付け。
    だが何と言われても、放してなどやれない。
    魔力を失ったから、側仕えが必要だからという訳ではない。もっともっと複雑な感情。

    「…もし先程夢で見たことが、本当にお前の言葉なら…俺も、お前を想っているぞ、フェンリッヒ。だから、今度は直接言いに来い」

    頭を撫でながら、「聞こえている訳はないか」と呟いて、クスリと笑うとヴァルバトーゼはもう一度横になった。
    安心する、いつもの匂いだ。
    目を閉じた彼はまた眠りにつく。


    ─実は目が覚めていたシモベが色々な感情で悶絶するまで、あと数秒。

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    DOODLEディスガイア4に今更ハマりました。フェンリッヒとヴァルバトーゼ閣下(フェンヴァル?執事閣下?界隈ではどう呼称しているのでしょうか)に気持ちが爆発したため、書き散らしました。【悪魔に愛はあるのか】


    口の中、歯の一本一本を舌でなぞる。舌と舌とを絡ませ、音を立てて吸ってやる。主人を、犯している?まさか。丁寧に、陶器に触れるようぬるり舌を這わせてゆく。舌先が鋭い犬歯にあたり、吸血鬼たる証に触れたようにも思えたが、この牙が人間の血を吸うことはもうないのだろう。その悲しいまでに頑なな意思が自分には変えようのないものだと思うと、歯痒く、虚しかった。

    律儀に瞼を閉じ口付けを受け入れているのは、我が主人、ヴァルバトーゼ様。暴君の名を魔界中に轟かせたそのお方だ。400年前の出来事をきっかけに魔力を失い姿形は少々退行してしまわれたが、誇り高い魂はあの頃のまま、その胸の杭のうちに秘められている。
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    ……その「戯れ」がかれこれ幾月進展しないことには苦笑する他ない。月光の牙とまで呼ばれたこの俺が一体何を 3613

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    Deep Desire【悪魔に愛はあるのか】の後日談として書きました。当社比アダルティーかもしれません。煩悩まみれの内容で上げるかどうか悩むレベルの書き散らしですが、今なら除夜の鐘の音に搔き消えるかなと駆け込みで年末に上げました。お許しください…【後日談】


    「やめ……フェンリッヒ……!」

    閣下との「戯れ」はようやくキスからもう一歩踏み込んだ。

    「腰が揺れていますよ、閣下」
    「そんなことな……いっ」
    胸の頂きを優しく爪で弾いてやると、我慢するような悩ましげな吐息でシーツが握りしめられる。与えられる快感から逃れようと身を捩る姿はいじらしく、つい加虐心が湧き上がってしまう。

    主人と従者。ただそれだけであったはずの俺たちが、少しずつほつれ、結ばれる先を探して今、ベッドの上にいる。地獄に蜘蛛の糸が垂れる、そんな奇跡は起こり得るのだ。
    俺がどれだけこの時を待ち望んでいたことか。恐れながら、閣下、目の前に垂れたこの細糸、掴ませていただきます。

    「閣下は服の上から、がお好きですよね。着ている方がいけない感じがしますか?それとも擦れ方が良いのでしょうか」
    衣服の上から触れると肌と衣服の摩擦が響くらしい。これまで幾度か軽く触れ合ってきたが素肌に直接、よりも着衣のまま身体に触れる方が反応が良い。胸の杭だけはじかに指でなぞって触れて、恍惚に浸る。

    いつも気丈に振る舞うこの人が夜の帳に腰を揺らして快感を逃がそうとしている。その姿はあまりに 2129

    last_of_QED

    DONEディスガイア4で悪魔一行が祈りに対して抵抗感を露わにしたのが好きでした。そんな彼らがもし次に祈るとしたら?を煮詰めた書き散らしです。【地獄の祈り子たち】



    人間界には祈る習慣があるという。どうしようもない時、どうすれば良いか分からぬ時。人は祈り、神に助けを乞うそうだ。実に愚かしいことだと思う。頭を垂れれば、手を伸ばせば、きっと苦しみから助け出してくれる、そんな甘い考えが人間共にはお似合いだ。
    此処は、魔界。魔神や邪神はいても救いの手を差し伸べる神はいない。そもそも祈る等という行為が悪魔には馴染まない。この暗く澱んだ場所で信じられるのは自分自身だけだと、長らくそう思ってきた。

    「お前には祈りと願いの違いが分かるか?」

    魔界全土でも最も過酷な環境を指す場所、地獄──罪を犯した人間たちがプリニーとして生まれ変わり、その罪を濯ぐために堕とされる地の底。魔の者すら好んで近付くことはないこのどん底で、吸血鬼は気まぐれに問うた。

    「お言葉ですが、閣下、突然いかがされましたか」

    また始まってしまった。そう思った。かすかに胃痛の予感がし、憂う。
    我が主人、ヴァルバトーゼ閣下は悪魔らしからぬ発言で事あるごとに俺を驚かせてきた。思えば、信頼、絆、仲間……悪魔の常識を逸した言葉の数々をこの人は進んで発してきたものだ。 5897

    last_of_QED

    MOURNING世の中に執事閣下 フェンヴァル ディスガイアの二次創作が増えて欲しい。できればえっちなやつが増えて欲しい。よろしくお願いします。【それは躾か嗜みか】



    この飢えはなんだ、渇きはなんだ。
    どんな魔神を倒しても、どんな報酬を手にしても、何かが足りない。長らくそんな風に感じてきた。
    傭兵として魔界全土を彷徨ったのは、この途方も無い飢餓感を埋めてくれる何かを無意識に捜し求めていたためかもしれないと、今となっては思う。

    そんな記憶の残滓を振り払って、柔い肉に歯を立てる。食い千切って胃に収めることはなくとも、不思議と腹が膨れて行く。飲み込んだ訳でもないのに、聞こえる水音がこの喉を潤して行く。

    あの頃とは違う、確かに満たされて行く感覚にこれは現実だろうかと重い瞼を上げる。そこには俺に組み敷かれるあられもない姿の主人がいて、何処か安堵する。ああ、これは夢泡沫ではなかったと、その存在を確かめるように重ねた手を強く結んだ。

    「も……駄目だフェンリッヒ、おかしく、なる……」
    「ええ、おかしくなってください、閣下」

    甘く囁く低音に、ビクンと跳ねて主人は精を吐き出した。肩で息をするその人の唇は乾いている。乾きを舌で舐めてやり、そのまま噛み付くように唇を重ねた。
    吐精したばかりの下半身に再び指を這わせると、ただそれだけで熱っぽ 4007

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    DOODLE主人に危機感を持って貰うべく様々なお願いを仕掛けていくフェンリッヒ。けれど徐々にその「お願い」はエスカレートしていって……?!という誰もが妄想した執事閣下のアホエロギャグ話を書き散らしました。【信心、イワシの頭へ】



    「ヴァルバトーゼ閣下〜 魔界上層区で暴動ッス! 俺たちの力じゃ止められないッス!」
    「そうか、俺が出よう」

    「ヴァルっち! こないだの赤いプリニーの皮の件だけど……」
    「フム、仕方あるまいな」

    何でもない昼下がり、地獄の執務室には次々と使い魔たちが訪れては部屋の主へ相談をしていく。主人はそれに耳を傾け指示を出し、あるいは言い分を認め、帰らせていく。
    地獄の教育係、ヴァルバトーゼ。自由気ままな悪魔たちを良く統率し、魔界最果ての秩序を保っている。それは一重に彼の人柄、彼の在り方あってのものだろう。通常悪魔には持ち得ない人徳のようなものがこの悪魔(ひと)にはあった。

    これが人間界ならば立派なもので、一目置かれる対象となっただろう。しかし此処は魔界、主人は悪魔なのだ。少々横暴であるぐらいでも良いと言うのにこの人は逆を征っている。プリニーや地獄の物好きな住人たちからの信頼はすこぶる厚いが、閣下のことを深く知らない悪魔たちは奇異の目で見ているようだった。

    そう、歯に衣着せぬ言い方をしてしまえば、我が主人ヴァルバトーゼ様は聞き分けが良過ぎた。あくまでも悪魔なので 7025

    last_of_QED

    BLANK【5/24 キスを超える日】ほんのり執事閣下【524】



     かつてキスをせがまれたことがあった。驚くべきことに、吸血対象の人間の女からだ。勿論、そんなものに応えてやる義理はなかったが、その時の俺は気まぐれに問うたのだ。悪魔にそれを求めるにあたり、対価にお前は何を差し出すのだと。
     女は恍惚の表情で、「この身を」だの「あなたに快楽を」だのと宣った。この人間には畏れが足りぬと、胸元に下がる宝石の飾りで首を絞めたが尚も女は欲に滲んだ瞳で俺を見、苦しそうに笑っていた。女が気を失ったのを確認すると、今しがた吸った血を吐き出して、別の人間の血を求め街の闇夜に身を隠したのを良く覚えている。
     気持ちが悪い。そう、思っていたのだが。
     ──今ならあの濡れた瞳の意味がほんの少しは分かるような気がする。

    「閣下、私とのキスはそんなに退屈ですか」
    「すまん、少しばかり昔のことを思い出していた」
    「……そうですか」

     それ以上は聞きたくないと言うようにフェンリッヒの手が俺の口を塞ぐ。存外にごつく、大きい手だと思う。その指で確かめるよう唇をなぞり、そして再び俺に口付けた。ただ触れるだけのキスは不思議と心地が良かった。体液を交わすような魔力供給をし 749

    last_of_QED

    DONER18 執事閣下🐺🦇「うっかり相手の名前を間違えてお仕置きプレイされる主従ください🐺🦇」という有難いご命令に恐れ多くもお応えしました。謹んでお詫び申し上げます。後日談はこちら→ https://poipiku.com/1651141/5571351.html
    呼んで、俺の名を【呼んで、俺の名を】



     抱き抱えた主人を起こさぬよう、寝床の棺へとそっと降ろしてやる。その身はやはり成人男性としては異常に軽く、精神的にこたえるものがある。
     深夜の地獄はしんと暗く、冷たい。人間共の思い描く地獄そのものを思わせるほど熱気に溢れ、皮膚が爛れてしまうような日中の灼熱とは打って変わって、夜は凍えるような寒さが襲う。悪魔であれ、地獄の夜は心細い。此処は一人寝には寒過ぎる。

     棺桶の中で寝息を立てるのは、我が主ヴァルバトーゼ様。俺が仕えるのは唯一、このお方だけ。それを心に決めた美しい満月の夜からつゆも変わらず、いつ何時も付き従った。
     あれから、早四百年が経とうとしている。その間、語り切れぬほどの出来事が俺たちには降り注いだが、こうして何とか魔界の片隅で生きながらえている。生きてさえいれば、幾らでも挽回の余地はある。俺と主は、その時を既に見据えていた。堕落し切った政腐を乗っ取ってやろうというのだ。
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    last_of_QED

    CAN’T MAKE11/5新月🌑執事閣下🐺🦇【俺の名を、呼んで】今、貴方を否定する。
    「呼んで、俺の名を」の後日談。お時間が許せば前作から是非どうぞ→https://poipiku.com/1651141/5443404.html
    俺の名を、呼んで【俺の名を、呼んで】



     教会には、足音だけが響いている。祭壇の上部、天井近くのステンドグラスから柔い光が射し込んで、聖女の肌の上ではじけた。神の教えを広め、天と民とを繋ごうとする者、聖職者。その足元にも、ささやかな光を受けて影は伸びる。
     しんと凍えそうな静寂の中、彼女はひとり祭壇へと向き合っていた。燭台に火を分け、使い古しの聖書を広げるが、これは決してルーチンなどではない。毎日新しい気持ちで、彼女は祈る。故に天も、祝福を与えるのだろう。穢れない彼女はいつか天使にだってなるかもしれない。真っ直ぐな姿勢にはそんな予感すら覚える眩しさがあった。

     静けさを乱す、木の軋む音。聖女ははたと振り返る。開け放っていた出入口の扉がひとりでに閉まるのを彼女は遠目に見つめた。風のせいだろうかと首を傾げれば、手元で灯したばかりの蝋燭の火が揺らめき、何者かの息によって吹き消える。不可思議な現象に、彼女の動作と思考、双方が同時に止まる。奏者不在のパイプオルガンがゆっくりと讃美歌を奏でればいよいよ不穏な気配が立ち込める。神聖なはずの教会が、邪悪に染まっていく。
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