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    last_of_QED

    @last_of_QED

    ディスガイアを好むしがない愛マニア。執事閣下、閣下執事、ヴァルアルやCP無しの地獄話まで節操なく執筆します。デ初代〜7までプレイ済。
    最近ハマったコーヒートーク(ガラハイ)のお話しもちょびっと載せてます。

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    last_of_QED

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    10/6新月🌑執事閣下🐺🦇【つきよみのきみと】月の出を、知らない君と待つ。

    #執事閣下
    deacon
    #フェンヴァル
    fenval
    #ディスガイア4
    disgaea4

    つきよみのきみと【つきよみのきみと】



     忘れてはならなかったはずの記憶は、泡(あぶく)のように弾け消えた。オレは風に魔力を編み込む術(すべ)は愚か、此処に立っている理由を、頭の中にあったはずの悉くを何処かに置き忘れて来てしまったらしい。在るのは記憶の抜け殻としてのこの身体だけ。……「忘れてはならなかった」? はて、オレのような根無し草が何をそのように想うだろう。

     ところで、オレに降り注ぐ妖霊族の呪文の嵐を弾き返し、しなやかに槍を振るうこの男は、一体何者であったか。

    「おい、大丈夫かフェンリッヒ!?」

     フェンリッヒ? ああ、オレのことか。目の先で振るわれた槍が防いで散らした青い魔力。それが頬ギリギリを掠めていく。堆(うずたか)く積み上がったジオブロックの上から、魔物が此方を見下ろし、笑う。
     忘却とは優れた機能ではある。悲しみ、憎しみ、それら全てを記憶していては、人は……いや、天使や、悪魔であっても、生きてはいけないのだろう。後悔の業火は我々を焼き殺す。依存の呪いは魂を縛りつける。痛みは心を苛み、狂わせる。覚えていては、破滅する。
     故に、忘れる。それはまさに生きることに不可欠な機能と言っても過言ではない。記憶が薄れゆくのは至って仕方のない現象だ。

    「返事をせんか! ……くそっ、敵の魔法〈霊魂パペットショー〉に掛かったな」

     一方で、それがあるから生きていける、そんな記憶の小箱を人は大切に抱え生きていく。大切なものをいつか忘れてしまった時、人は何を道標に歩んでいけるだろうか。灯(あかり)なく森を彷徨えば最後、迷ってしまうのが道理だ。それと、同じこと。魔界においてはゾンビですら意思を持つ。自由気ままであってこそ悪魔は悪魔たり得るのだろう。意思もなく死んだように生きていても、それではただの亡霊だ。

     頭に鈍く痛みが走り、不愉快が、不安が、脳内を占領する。唐突に喉元まで胃液が込み上げて、訳も分からぬままその場でえずいた。
     オレはこれまで、何のために生きて来ただろうか。そして、何のために生きていくのだろうか。そんなことを思ったこの場所は紛れもなく戦場(フィールド)で、自己嫌悪に耽るにはあまりにも場違いであった。

     うずくまる頭上で火の粉が散る。焦げ付く匂いが鼻につく。魔法で魔法を遮り打ち消して、相も変わらず吸血鬼はオレを庇う。巻き起こる突風にはためくマントが艶やかだった。身のこなしは軽く、戦闘中を思わせない。
     応戦しなくては。働かない頭でそう思う。高所を陣取ったままの敵を見上げる。呪文を紡ごうにも詠唱は喉につっかえ出てこない。いつも繰り出していたはずの技が思い出せない。ギリ、と奥歯を噛み締める。思考の所々にノイズがかかり、酷く不明瞭だ。

     オマエには、何も出来ないよ。

     亡霊たちがせせら笑う。忘れてしまえばオレたちは、空っぽ。自ら動く意思を持たぬ、人形同然なのだろう。そして、彼等はその状態の脆さを知っている。故にこそ、体力よりも先に記憶を奪い、人形劇のように弄ばんとする。実に合理的な戦術ではある。

     敵一同が動きを見せた。陣形が大きく変わり、ジオブロックから降りて来る。いよいよオレを狙い撃ちにしようと言うのだろう。後ずさるが、上手く戦場の隅へと追いやられ、逃げ場を失った。敵の魔法領域を抜け出せないと悟り、舌打ちする。横並びになったゴーストたちがこぞって詠唱を始めた、その時。

    「子供騙しのくだらぬ術(ショー)だ……実に、つまらんことをしてくれる」

     オレの前に立ち塞がり、槍を地に垂直に突き立て男は呟く。その凛と静かな闘志と裏腹に、溢れ出る、強烈なまでに濃く、けたたましい魔の気配。背に悪寒が走る。

    「煉獄にとらわれし魔獣よ、我が命に従い
    その悪辣たる異形を現せ──」

     目の先で広がる黒き波動。地が震え、空気が震え……今此処から逃げ出してしまいたくなるような圧。悪魔さえ「恐ろしい」、そう感じるほどの力。チカリ、頭の片隅で記憶が鋭く光った。この光をオレはかつて、見たことがある。
     召喚され、宙に浮かぶ「畏れ」が地上の何もかもを瞬く間に薙ぎ払う。抉れ上がる一帯の地面、薙ぎ倒される長生きの大樹。破壊され、崩壊していく無数のジオブロックを見れば、その力量は誰の目にも瞭然であった。

    「覚えておくが良い、これが完全なる支配だ。……消え逝く者に覚えておけと言うのは無理な話か」

     木の陰に生えていた毒キノコの胞子が薄暗い森にきらきらと舞う。妖霊族は塵と消え、攻撃を辛うじて免れた数匹のスペクターも無邪気な笑い声を反響させて逃げていった。
     魔力の波は吸血鬼の華奢な腕先へと収束する。暗天を呼んだロムルスの槍を地から抜き去れば、槍に宿った青い葉が散る。込められた魔力に負けた槍はそのまま崩れ去り、地へと還った。

     オレは吸血鬼に強引に手を引かれ、訳も分からぬままにベースパネルへと足を踏み入れる。
     おぞましい力を生み出す、男の手。その手が俺の手をわざわざ繋ぐ意味も、意図も、今の俺には分からない。だが、この手の感触を身体は確かに覚えている。





    「小言が減って良いかもしれんな、これは」

     見知らぬ場所。四方を溶岩に囲まれ、それでいて平然と在る空間。魔術による結界でも張られているのだろう。身体が灼熱に溶けてしまうようなことはない。吸血鬼が「地獄」と呼んだこの場所が、どことなく懐かしい。

     いつもあの手この手で俺に血を飲ませようとするお前が……今は借りてきた猫、謀(はかりごと)をしないばかりか、全く静かで調子が狂う。そう言って男は肩をすくめた。吸血鬼が血を摂らぬならば一体何を摂るのだとの指摘を彼は一蹴する。

    「血がなくとも生きていける。……イワシがあればな!」

     ああ、そうだ。そう言えばこの人はイワシが好き……だった……封じられていた記憶が朧げに蘇りを見せる。オレはようやく、敵の攻撃によってド忘れにかけられていたらしいことを自覚する。魔法が薄れつつある証拠だ。記憶を取り戻すのも、もう時間の問題なのだろう。

    「しかし魔界病院が閉まっているとは……何処に遊びに行ったのだあのおてんば僧侶は。ローゼンクイーン商会も妖精の粉を切らしたなどと平気で言いおって……」

     自由過ぎんか、地獄。そんな風に笑う吸血鬼は、呆れながらも少し楽しそうだった。脳裏に焼き付き離れない先の気迫は、今の彼からは微塵も感じられない。

    「お前は」

     問い掛けに、オレよりもひと回りほど小さな男は振り向く。その表情には存分に親しみが込められている。それが、オレには気に喰わない。強き悪魔は孤高であるべきだ。力ある者は暴を尽くすべきだ。少なくとも、こんな顔をすべきでは、ない。

    「お前は……力の使い方を間違っている。あの力は誰かを庇う為に使うようなものじゃない」
    「指図するのか? お前が、俺に?」

     気迫はあったが咎める言い方ではない。こちらを試す、そんな口振りで吸血鬼はオレを見た。

    「どうしてオレを庇った?」
    「さて、どうしてだろうな」

     吸血鬼は言葉を濁す。
     無論、あの程度でくたばる等と思ったわけではないぞ。放っておいたってお前はいずれ此処へ帰って来ただろう。記憶も何処かで戻ったろう……そう語る瞳は何か、懐かしいものを見据えている。瞳にオレの輪郭を映した後、ふっと視線の先を宙へと移した。

    「人狼族のお前のことだ、月光を浴びれば調子も戻るのではないか。今宵は……二十夜か。月が出るまで、長いぞ?」

     指折り数えるとどっかりと脚を組み、男はその場に腰掛けた。月が顔を出すまで待つ魂胆なのだろう。人狼ならば月光浴で回復するだなんて、何と単純で安直な発想だろうか。……余計なお節介だ。オレのことなど放っておけばいい。

    「月を読めるのか? 流石は吸血鬼様、ロマンチストなことで」

     人狼族とまとめられた腹いせに、吸血鬼の好色なイメージを大人げなく振りかざす。隣に腰掛ければ、男は大真面目に此方に向き合った。その目に再び映るものが、記憶を此処に呼び覚ます。

    「読めるとも。大切な月だからな」

     大切な月。それは、満月にプリニーを生まれ変わらせる、教育係としての責務を指しているのですか。それとも。

    「なあ、お前は一体」

     オレの言葉を遮って、白手袋の指がそっと頬に触れる。至近距離でこちらを見つめる瞳が紅く揺らめいている。

    「早く思い出せ、馬鹿者。……大切な者の大切な記憶を奪われて、黙っていられると思うのか?」

     照れ臭さからか、その手はわしゃわしゃとオレの頭を撫で、遠ざかっていく。記憶はこの人によって今、全て取り戻されたと知る。けれど。
     けれど、どうかこのまま。月が出るまでもう少しだけで良い。

     まだ、此処で貴方の話を聞いていたい。
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    DOODLE主人に危機感を持って貰うべく様々なお願いを仕掛けていくフェンリッヒ。けれど徐々にその「お願い」はエスカレートしていって……?!という誰もが妄想した執事閣下のアホエロギャグ話を書き散らしました。【信心、イワシの頭へ】



    「ヴァルバトーゼ閣下〜 魔界上層区で暴動ッス! 俺たちの力じゃ止められないッス!」
    「そうか、俺が出よう」

    「ヴァルっち! こないだの赤いプリニーの皮の件だけど……」
    「フム、仕方あるまいな」

    何でもない昼下がり、地獄の執務室には次々と使い魔たちが訪れては部屋の主へ相談をしていく。主人はそれに耳を傾け指示を出し、あるいは言い分を認め、帰らせていく。
    地獄の教育係、ヴァルバトーゼ。自由気ままな悪魔たちを良く統率し、魔界最果ての秩序を保っている。それは一重に彼の人柄、彼の在り方あってのものだろう。通常悪魔には持ち得ない人徳のようなものがこの悪魔(ひと)にはあった。

    これが人間界ならば立派なもので、一目置かれる対象となっただろう。しかし此処は魔界、主人は悪魔なのだ。少々横暴であるぐらいでも良いと言うのにこの人は逆を征っている。プリニーや地獄の物好きな住人たちからの信頼はすこぶる厚いが、閣下のことを深く知らない悪魔たちは奇異の目で見ているようだった。

    そう、歯に衣着せぬ言い方をしてしまえば、我が主人ヴァルバトーゼ様は聞き分けが良過ぎた。あくまでも悪魔なので 7025

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    BLANK【5/24 キスを超える日】ほんのり執事閣下【524】



     かつてキスをせがまれたことがあった。驚くべきことに、吸血対象の人間の女からだ。勿論、そんなものに応えてやる義理はなかったが、その時の俺は気まぐれに問うたのだ。悪魔にそれを求めるにあたり、対価にお前は何を差し出すのだと。
     女は恍惚の表情で、「この身を」だの「あなたに快楽を」だのと宣った。この人間には畏れが足りぬと、胸元に下がる宝石の飾りで首を絞めたが尚も女は欲に滲んだ瞳で俺を見、苦しそうに笑っていた。女が気を失ったのを確認すると、今しがた吸った血を吐き出して、別の人間の血を求め街の闇夜に身を隠したのを良く覚えている。
     気持ちが悪い。そう、思っていたのだが。
     ──今ならあの濡れた瞳の意味がほんの少しは分かるような気がする。

    「閣下、私とのキスはそんなに退屈ですか」
    「すまん、少しばかり昔のことを思い出していた」
    「……そうですか」

     それ以上は聞きたくないと言うようにフェンリッヒの手が俺の口を塞ぐ。存外にごつく、大きい手だと思う。その指で確かめるよう唇をなぞり、そして再び俺に口付けた。ただ触れるだけのキスは不思議と心地が良かった。体液を交わすような魔力供給をし 749

    last_of_QED

    MOURNING世の中に執事閣下 フェンヴァル ディスガイアの二次創作が増えて欲しい。できればえっちなやつが増えて欲しい。よろしくお願いします。【それは躾か嗜みか】



    この飢えはなんだ、渇きはなんだ。
    どんな魔神を倒しても、どんな報酬を手にしても、何かが足りない。長らくそんな風に感じてきた。
    傭兵として魔界全土を彷徨ったのは、この途方も無い飢餓感を埋めてくれる何かを無意識に捜し求めていたためかもしれないと、今となっては思う。

    そんな記憶の残滓を振り払って、柔い肉に歯を立てる。食い千切って胃に収めることはなくとも、不思議と腹が膨れて行く。飲み込んだ訳でもないのに、聞こえる水音がこの喉を潤して行く。

    あの頃とは違う、確かに満たされて行く感覚にこれは現実だろうかと重い瞼を上げる。そこには俺に組み敷かれるあられもない姿の主人がいて、何処か安堵する。ああ、これは夢泡沫ではなかったと、その存在を確かめるように重ねた手を強く結んだ。

    「も……駄目だフェンリッヒ、おかしく、なる……」
    「ええ、おかしくなってください、閣下」

    甘く囁く低音に、ビクンと跳ねて主人は精を吐き出した。肩で息をするその人の唇は乾いている。乾きを舌で舐めてやり、そのまま噛み付くように唇を重ねた。
    吐精したばかりの下半身に再び指を這わせると、ただそれだけで熱っぽ 4007

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    DONEディスガイア4で悪魔一行が祈りに対して抵抗感を露わにしたのが好きでした。そんな彼らがもし次に祈るとしたら?を煮詰めた書き散らしです。【地獄の祈り子たち】



    人間界には祈る習慣があるという。どうしようもない時、どうすれば良いか分からぬ時。人は祈り、神に助けを乞うそうだ。実に愚かしいことだと思う。頭を垂れれば、手を伸ばせば、きっと苦しみから助け出してくれる、そんな甘い考えが人間共にはお似合いだ。
    此処は、魔界。魔神や邪神はいても救いの手を差し伸べる神はいない。そもそも祈る等という行為が悪魔には馴染まない。この暗く澱んだ場所で信じられるのは自分自身だけだと、長らくそう思ってきた。

    「お前には祈りと願いの違いが分かるか?」

    魔界全土でも最も過酷な環境を指す場所、地獄──罪を犯した人間たちがプリニーとして生まれ変わり、その罪を濯ぐために堕とされる地の底。魔の者すら好んで近付くことはないこのどん底で、吸血鬼は気まぐれに問うた。

    「お言葉ですが、閣下、突然いかがされましたか」

    また始まってしまった。そう思った。かすかに胃痛の予感がし、憂う。
    我が主人、ヴァルバトーゼ閣下は悪魔らしからぬ発言で事あるごとに俺を驚かせてきた。思えば、信頼、絆、仲間……悪魔の常識を逸した言葉の数々をこの人は進んで発してきたものだ。 5897

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    CAN’T MAKE十字架、聖水、日の光……挙げればきりのない吸血鬼の弱点の話。おまけ程度のヴァルアル要素があります。【吸血鬼様の弱点】



    「吸血鬼って弱点多過ぎない?」
    「ぶち殺すぞ小娘」

    爽やかな朝。こともなげに物騒な会話が繰り広げられる、此処は地獄。魔界の地の底、一画だ。灼熱の溶岩に埋めつくされたこの場所にも朝は降るもので、時空ゲートからはささやかに朝の日が射し込んでいる。

    「十字架、聖水、日の光辺りは定番よね。っていうか聖水って何なのかしら」
    「デスコも、ラスボスとして弱点対策は怠れないのデス!」
    「聞こえなかったか。もう一度言う、ぶち殺すぞアホ共」

    吸血鬼の主人を敬愛する狼男、フェンリッヒがすごみ、指の関節を鳴らしてようやくフーカ、デスコの両名は静かになった。デスコは怯え、涙目で姉の後ろに隠れている。あやしい触手はしなしなと元気がない。ラスボスを名乗るにはまだ修行が足りていないようだ。

    「プリニーもどきの分際で何様だお前は。ヴァル様への不敬罪で追放するぞ」

    地獄にすら居られないとなると、一体何処を彷徨うことになるんだろうなあ?ニタリ笑う狼男の顔には苛立ちの色が滲んでいる。しかし最早馴れたものと、少女は臆せず言い返した。

    「違うってば!むしろ逆よ、逆!私ですら知ってる吸血鬼の弱 3923

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    DONEしがない愛マニアである私が原作の奥に想い描いた、ディスガイア4、風祭フーカと父親の話です。銀の弾は怪物を殺せるか?【銀の弾など必要ない】



    白衣が揺れる。頭をかいてデスクに向かうそのくたびれた男に私は恐る恐る声を掛ける。

    「パパ、お家なのにお仕事?」

    男はこちらを振り返りもしない。研究で忙しいのだろうか。それとも、私の声が届いていないのだろうか。
    父親の丸まった背中をじっと見つめる。十数秒後、その背がこわごわと伸び、首だけがわずかにこちらを向く。

    「すまん、何か言ったか?」

    この人はいつもそうだ。母が亡くなってから研究、研究、研究……。母が生きていた頃の記憶はあまりないから、最初からこんな感じだったのかもしれないけれど。それでも幼い娘の呼び掛けにきちんと応じないなんて、やはり父親としてどうかしている。

    「別に……」

    明らかに不満げな私の声に、ようやく彼は腰を上げた。

    「いつもすまんな。仕事が大詰めなんだ」

    パパのお仕事はいつも大詰めじゃない、そう言いたいのをぐっと堪え、代わりに別の問いを投げかける。

    「いつになったらフーカと遊んでくれる?」

    ハハハ、と眉を下げて笑う父は少し疲れているように見えた。すまんなあ、と小さく呟き床に胡座をかく。すまん、それがこの人の口癖だった。よう 3321