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    last_of_QED

    @last_of_QED

    ディスガイアを好むしがない愛マニア。執事閣下、閣下執事、ヴァルアルやCP無しの地獄話まで節操なく執筆します。デ初代〜7までプレイ済。
    最近ハマったコーヒートーク(ガラハイ)のお話しもちょびっと載せてます。

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    last_of_QED

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    【10/4】ヴァルバトーゼ閣下🦇お誕生日おめでとうございます!仲間たちが見たのはルージュの魔法か、それとも。

    #ヴァルバトーゼ
    varvatose
    #ディスガイア4
    disgaea4

    104【104】



     人間の一生は短い。百回も歳を重ねれば、その生涯は終焉を迎える。そして魂は転生し、再び廻る。
     一方、悪魔の一生もそう長くはない。いや、人間と比較すれば寿命そのものは圧倒的に長いはずであるのだが、無秩序混沌を極める魔界においてはうっかり殺されたり、死んでしまうことは珍しくない。暗黒まんじゅうを喉に詰まらせ死んでしまうなんていうのが良い例だ。
     悪魔と言えど一年でも二年でも長く生存するというのはやはりめでたいことではある。それだけの強さを持っているか……魔界で生き残る上で最重要とも言える悪運を持っていることの証明に他ならないのだから。

     それ故に、小さい子どもよりむしろ、大人になってからこそ盛大に誕生日パーティーを開く悪魔が魔界には一定数いる。付き合いのある各界魔王たちを豪奢な誕生会にてもてなし、「祝いの品」を贈らせる。贈答品や態度が気に食わなければ首を刎ねるか刎ねられるかの決闘が繰り広げられ……言わば己が力の誇示のため、魔界の大人たちのお誕生会は絢爛豪華に催されるのだ。

     しかしながら、これはごく一部の魔王級悪魔に限られた話と言えよう。大抵の悪魔たちは己の誕生日に興味がないのが現状だ。特に、転生というシステムが何者であっても享受出来る術式として確立されてからは、誕生の日=特別な日、という感覚が一層薄れてしまった。姿形を変え、幾度でも生まれ変わることが出来るのだから、当然と言えば当然だろう。そして転生を繰り返す中で、いつから如何にして己が悪魔として在ったのか、そんなことを一々憶えている者は稀である。若しくは覚えていたとして、祝うなどという発想は無い者が大半を占める。

     そしてそれは話の舞台、魔界の最底辺「地獄」においても例外ではないのだが、迷い込んだ元人間の少女によって、今年はその様相が大きく異なっていた。





     拠点の中央に堆(うずたか)く積まれたイワシ。それは吸血鬼ヴァルバトーゼへの誕生祝いの貢ぎ物に他ならなかった。おお! と良い反応を見せる「本日の主役」はフーカに襷を掛けられながら、山ほどの好物に歓喜する。

     地獄の誕生会。事の発端は哭の月、エミーゼル宛てに彼の父親から誕生日の贈り物が届いたことであった。フーカが興味を示し、面々に誕生日を聞いてまわって以来、地獄では彼女の主導で人間界風の平和な誕生日パーティーが開催されている。
     ヴァルバトーゼは当初「生まれた日など覚えておらん」と少女の問いを突き返したものの、「それならアタシが決めてあげる……十月四日はどう? イワシの日!」「それは……縁起が良いな!」等と快諾したが為に、本日、生まれてこのかた初めての誕生日を迎えていた。

     誕生日、なるほど、悪くないではないか。
     深紅のリボンで飾られたイワシタワーを見上げ満足げな表情を見せたのも束の間、拠点に充満する違和感に彼はようやく気付く。
     仲間たちの目付きが何やらいつもと異なっているのだ。キラキラと、或いはギラギラとした十の目が、それぞれヴァルバトーゼだけを瞳に映していた。

    「やっぱり自分を持ってる悪魔(おとこ)って格好良いよな……」

     エミーゼルがフードを深く被り、尊敬と、それ以外の熱をもってぽつり呟く。

    「そうだ、小僧。お前もお前の生きたいように生きろ、そして死にたいように死ぬのだ。それが俺たち悪魔の本懐というものだろう」

     イワシを手に語る吸血鬼の凛とした物言いはこの場の誰も彼もをときめかせ、心を惹きつけた。黒薔薇が咲き誇り、気高く香るかの如く。悪のカリスマとして曇りのないオーラを放っている。
     魅入る一同を前に、気恥ずかしくなった吸血鬼は誤魔化すようにイワシを頬張り咀嚼する。その口元、ごくんと喉を通っていくまでの吸血鬼の一挙一動をデスコはうっとりと見つめている。

    「美味しそうに食べるんデスね。そんなの見せられたらデスコ、もう我慢できないデス……」

     デスコの触手がうね、と蠢き伸びて、ヴァルバトーゼの手首足首に絡みつく。ヴァルバトーゼは突然のことに頭上に疑問符を浮かべるばかりで、なされるがままだ。側にいたフェンリッヒが触手に掴みかかる。

    「このケダモノ! ヴァル様から離れろ!」
    「ハッ! デスコ、どうしちゃったデスか?! ごめんなさいデス、ヴァルっちさん……」
    「って、アンタもどさくさに紛れてヴァルっちの腰引き寄せてどういうつもりよ! イケメン主人公の隣はアタシみたいな女の子(ヒロイン)が似合うんだっての!」
    「あら。それなら四百年間、変わらずに想っている私の方がよっぽど適任じゃありませんこと?」

     全員が目の色を変え、吸血鬼にじり……と歩み寄る。この場を覆う異常な気配をヴァルバトーゼは確信した。

    「ま、待てお前たち……一体どうしたというのだ。イワシタワーの魅力の前におかしくなってしまったのか? 分けてやるから、喧嘩はよさんか」
    「わ、私にも何がなんだか……こんなの、おかしいですわよね。なのに……」
    「どうして惹きつけられるんだ……?」
    「フェンリっちのベッタリの距離感は普段とそう変わらない気もするけど」
    「黙れ小娘」
    「喧嘩はやめるデス……」

     こんなトンチキな事態は日がな一日続き、地獄は混沌に混沌を極めた。





    「「「「「夜魔族のルージュ?」」」」」
    「ウム、何やらこれが原因らしい」

     日も暮れようとしていた頃。ヴァルバトーゼの指は装飾の美しい、しかし妖しいルージュを携えていた。赤い血のような色を滲ませたそれは化粧品独特の甘い香りを漂わせている。吸血鬼の手袋から覗く、白い手首とのコントラストが美しい。

    「あれ、それってもしかして……」
    「そうだ。俺の唇に試し塗りしながら『アタシには大人っぽすぎるかも』とかなんとか言ってそのまま俺に寄越したろう。僧侶に調べさせたところ、このルージュには夜魔族の魅了の魔力が込められているらしいと分かった。お前たちの様子がどうにもおかしかったのはこれのせいだ。何処で手に入れたのかは知らんが……とんだプレゼントだな。してやられたぞ、小娘」
    「ま た お 前 の 仕 業 か」
    「ちょっと! 『唇に映える赤……血を召し上がったのかと錯覚してしまいますね』ってにやけ顔でご主人様の口元拭ってたのは何処の誰よ!」
    「やかましい! お前がそんな怪しいものを差し入れたのがそもそもの原因だろうが!」
    「ルージュは拭われていたのですよね? それならどうして私たちは魅了されたのかしら」
    「口元に魅了の魔法成分が残っていたのかもしれん。或いは所持しているだけで微弱ながらその効果が得られるのか……夜魔族の力、中々どうして侮れんものだ」

     何かに使えるかもしれんな? ヴァルバトーゼはパチンと指を鳴らしてルージュを眷属に持ち運ばせた。一体何にどう使うのかと言いたげな一同の視線を無視して彼は不敵に笑う。……後日、フェンリッヒにルージュを取り上げられるのはまた別のお話。

     ヴァルバトーゼが確かめるよう口元を指でなぞる。悪魔の牙がちらりと覗く、薄い唇。そこにもう、魔法は宿っていなかった。けれど。
     はじめての誕生日を迎える彼を今一度皆で祝いたいと、空騒ぎの後の静けさに全員が思い合っていた。それは決してルージュによる効果などではない。
     だんまりの一同を見やり、何かを早とちりしたヴァルバトーゼが眉を下げ、口を開く。

    「なんだ、その……ルージュの効果の切れた俺に魅力はもう感じないか」
    「そんなことない(デス)(ありません)(ありませんわ)!!」

     吸血鬼の一言を皮切りに、地獄の誕生会は零時を過ぎてなお続く。自由気ままな悪魔たちが飽きてしまうまで、際限無く続いていくのだろう。
     俺はいい加減眠いのだが……? そんな風に文句をこぼし、それでも棺桶に入ろうとしない吸血鬼はくすぐったそうに笑った。
     彼が眠ってしまうまで、十月四日は終わらない。


    fin.
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     一方、悪魔の一生もそう長くはない。いや、人間と比較すれば寿命そのものは圧倒的に長いはずであるのだが、無秩序混沌を極める魔界においてはうっかり殺されたり、死んでしまうことは珍しくない。暗黒まんじゅうを喉に詰まらせ死んでしまうなんていうのが良い例だ。
     悪魔と言えど一年でも二年でも長く生存するというのはやはりめでたいことではある。それだけの強さを持っているか……魔界で生き残る上で最重要とも言える悪運を持っていることの証明に他ならないのだから。

     それ故に、小さい子どもよりむしろ、大人になってからこそ盛大に誕生日パーティーを開く悪魔が魔界には一定数いる。付き合いのある各界魔王たちを豪奢な誕生会にてもてなし、「祝いの品」を贈らせる。贈答品や態度が気に食わなければ首を刎ねるか刎ねられるかの決闘が繰り広げられ……言わば己が力の誇示のため、魔界の大人たちのお誕生会は絢爛豪華に催されるのだ。
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