子供の話英雄殿が大変な目にあったらしい、と耳にして彼女がいると聞いたモードゥナへとチョコボを走らせた。彼女と親しくしているというヤシュトラが紅茶を出してくる。それに手を付けることもなくオルシュファンは彼女の安否を確認する。
「……無事ではあるわ」
少し考え込んだヤシュトラの返答に安心しかけるも、何か含みを感じさせられて深く問い詰めた。話しづらいことであれば無理にとは言わないが、と続けたオルシュファンに眉を下げて、彼女は手を鳴らした。間もなく幼いヴィエラを肩車したサンクレッドが姿を表した。
どこか見慣れた面影のヴィエラの少女からオルシュファンはヤシュトラに視線を戻す。無言で深く頷いた彼女に信じたくはなかったが、と思わず漏らしてしまった。と、俯いた彼の頭頂部に温かなものが触れる。視線を上げると肩車をされたままのヴィエラがオルシュファンの頭を撫でていた。よしよし、と小さく呟きながら真剣な表情で頭を撫でてくる彼女に思わず吹き出してしまう。面食らったように一瞬手を止めたヴィエラが首を傾げる。
「……げんき、でた?」
心配させてしまったな、と思いながら笑顔で頷くと、嬉しそうに彼女がよかったと呟く。
「えがおのほうがかっこいいよ」
そう続けてヴィエラが浮かべた笑顔はやはり見慣れたもので、抱きしめたい衝動に駆られてしまった。反射的に広げた手で何かを察した様子のサンクレッドが口を開く。
「抱き締めてやれよ」
視線を下ろすと彼はげんなりした表情を浮かべていた。助けてくれと言わんばかりの声色で囁かれる。
「……もう何時間もこのお転婆なプリンセスに振り回されてるんだ」
許可が出た瞬間抱き締めてくるくると振り回してしまう。はっとして腕の中のヴィエラを覗き込むと少しの間目を回してから楽しそうにもう一回!と声を上げられた。
「ウリエンジェは何だって?」
「体内のエーテル濃度が薄まっていたけど、時間経過で戻るものだろうと」
楽しそうにはしゃいで笑い合うヴィエラとオルシュファンを遠巻きに眺めながらヤシュトラとサンクレッドは小さく溜息を吐いた。そりゃよかった、と返したサンクレッドにヤシュトラは微笑みかける。
「王子様のキスで戻るとでも、言って欲しかった?」
はは、と笑ってサンクレッドは二人を遠巻きに眺めた。
「白馬ならぬ黒チョコボの王子様か」
悪くないな、と目を細めて彼等の邪魔にならないよう退散した。