デートにとてもいい日和ドンドン ドンドン
休日の早朝、ジュンとこはくの部屋のドアが荒々しく叩かれて、かと思えば日和が勢いよく飛び込んできた。
「ジュンくんジュンくんいつまで寝てるの、出かけるから用意してほしいね」
「おひいさん今日は風早先輩と出かけるんじゃなかったっすか」
「たしかにそのつもりだね、でも目的は僕のcollarを探しにいくことだよ、こんなおめでたい日に2人だけはもったいないね」
むちゃくちゃな言い分に、頭を抱える、ここで拒否をしようものなら、いつまでも根に持つだろう。
たまたま部屋にいたこはくにも声をかけたが、
「ラブはんとでかけるから、かんにんな」
と丁重にお断りされたのだった。
海辺に広がるショッピングモール、晴れ渡る空の下で、行き交うカップルや家族連れをわき目に何やら元気のない団体がいた。
「巽くん、運転はもっとエレガントにできないのかな、最初は絶叫マシンみたいで楽しかったけど、疲れちゃったね」
「ていう割にはおひいさん元気っすね」
それぞれに思いをぶつけているのは、ここまでの運転手を勤めた巽だ。
「今日は丁寧に運転したつもりだったのですが、大丈夫ですか」
普段の振る舞いとのギャップが激しすぎる、これはさすがにショックを隠せない。
「ジュンさんすみません俺たちのために、貴重なお休みをさいていただいて」
「いえ、いいんです。こちらこそおひいさんのわがままでついてきてしまって、本当は2人きりが良かったんじゃないっすか」
なんだか遠慮しあっている2人を見比べて、
「仲のいいことはとても嬉しいことだねっ、んじゃさっそく行くねっ」
太陽に負けないくらい明るい声が響いた。
先日、パートナーになることを正式に公開して、はしゃいだ日和が高級ブランドに特注でcollar を作らせようとしたのだが、
「日和さん、情けない話なのですが、まだまだかけだしなのでそこまで余裕がなく、いいお店をお探ししますので、しばらくはそちらで」
「お金のことは心配しなくてもいいよ」
「ですが、こういった物は俺からの贈り物というのが大切かなと思いまして、そうさせてもらえませんか」
となり、今にいたる。
「おひいさん、ここからは別行動していいっすか、スポーツ用品店とゲーセン行きたくて」
「しょうがないね、12時にこのレストランで待ち合わせだよ、遅れずに」
ジュンと分かれてから、目的地のショップに向かった。
「いろんな種類があるね、目移りしちゃう」
「日和さんはお好みとかありますか」
「特にないよ、僕はなんでも似合っちゃうからね」
「確かに、そうですねっ」
その後、
「こちらはどうでしょうか」
「なんか地味だね、これがいい」
「では、それと、もう一つはこちらだとその日の気分で合わせやすいのではないでしょうか」
「わかった、じゃあその案でいってあげる」
ひとしきり大騒ぎした後決まったのは、シンプルな黒革でバックルにシルバーのクロスがついたチョーカー。そして、細いチェーンにダイヤのエースのプレートがついたネックレス。
「つけてもらえるのが楽しみだね」
そして隣接するホテルのレストランでランチ、
「ジュン君遅いね、僕を待たせるなんて悪い日和」
「いや、おひいさんまだ約束の時間まで30分もあるっすよ」
「そうですよ、日和さん。せっかくの楽しい時間ですし、ねっ」
「巽くんがそう言うならしょうがないね、ジュン君も感謝するんだね」
これって俺はいる必要あるんだろうかってくらい自分たちの世界ですねぇ。
「ジュン君これも持っててほしいね、巽くんあっち見よう」
なんだか、いつもの調子でいいっちゃいいんっすけどさすがにこれは重い。
「おひいさん、いい加減にしてくれませんかねえ、せめて一回車に戻らせてください」
「ああ、ジュンさん俺も持ちますよ」
「気を使わせてすみません、本当にあの人わがままで、先輩は困りませんか」
「いえいえ、あのように天真爛漫なところも愛おしくて、好きです」
ナチュラルにのろけられてしまった。
そうして、夕方まで連れまわされてさすがに疲れた。
夕陽が照らす海を臨む丘のあずまや、
「ジュン君は立会人になってほしいね」
「今日は一日お付き合いありがとうございました」
すがすがしいほどのバカップル。仕方ないか。
「で、なにをすればいいんすか」
「そちらで見ていてください」
夕陽に照らされたふたり、幸せで満たされてるのがわかってうらやましい。そのうち俺にもそんな人があらわれるのか、まぁそんな感傷は俺には似合わねえ。
チョーカーに触れて微笑むおひいさんはきれいで、見つめる巽先輩はどこまでも清らか。
「さてと、帰りましょうか、頑張って運転しますよ」
「その必要はないね、もう疲れたし車を呼んであるからそっちで帰ろうね」
「正直助かったっす」