紫焔・ピアス編　ようやく想いが通じ合って、実休さんに抱かれた夜。抱かれるのは久しぶりだったのに、前よりもずっと気持ちが良くて、福島さんが『あれはすごくいいものだ』と言った理由が、実感できた。
　抱き合って、満たされて――身体は疲れているけれど、この余韻をもう少し味わっていたい。
　僕たちは裸の肌を触れ合わせたまま、密やかに言葉を交わしていた。
　実休さんの手が愛しげに僕の髪に指を通して撫で、頭に頬擦りしてくる。そうして可愛がられて甘えられていると、本当に僕のことが好きなんだな、と感じられて心底幸せだった。
　左の耳朶を指で挟んですりすりと撫でられる。実休さんの熱い指が心地いい。
「ここに……穴を、開けたいな」
　耳朶の中心に軽く爪を立てられる。
　単なる思い付きといった感じではなく、ずっとそうしたいと思っていたような口調だった。
「……ピアス？　実休さんが開けてくれるの？」
　実休さんとお揃いみたいになれるのは嬉しい。
　今まで実休さんと肉体関係はあっても、恋刀こいびと同士ではなかったから、一部の刀は察してくれているとしても、公表はしていなかった。だけど、今なら僕が実休さんのものだと知られてもいい。
「ああ。お前に……消えない傷を残す、権利が欲しい」
　暗闇の中で響く、真摯な声。
　実休さんの言葉や行動の端々から僕への執着を感じられると嬉しくなる。
「うん。あなたになら……いいよ」
　僕は耳朶に触れていた実休さんの手を握って、手のひらの中にキスをした。

　　◆　◆　◆

　みんなの体調が回復して、本丸に日常が戻ってきた。
　別の本丸の燭台切光忠に万屋で会う機会があって話を聞いたら、病が発症しなかった刀は僕のところとほぼ一緒だったけれど、彼自身は高熱を出して一週間寝込んだと言っていたので、僕の予想は当たっていたようだ。彼からは他の刀の神気を感じない。
　その初の燭台切光忠の本丸はまだ刀の数も少なく、実休さんもいないようだ。
　健康は大事だな、と思うのと同時に、常日頃から備えておくことの大切さを実休さんに教えられた。今日は備蓄しておくものを色々と見繕いに来たんだ。
「光忠……買い物は終わった？」
　別のものを買いに行っていた実休さんが万屋に戻ってきた。
　毎日見ているのに、外で改めてその姿を見ると、格好良くて惚れ惚れする。
「うん、終わってるよ。……せっかく出てきたし、何か食べていく？」
「光忠とゆっくりデートしていくのもいいけれど……、今日は帰って、お前の耳朶に、穴を開けたい……」
　後半は顔を耳元に近付けてひそめた声で囁かれる。実休さんのとんでもなくいい声と共に耳に吐息が触れた。『うひゃあ』とか変な声を上げそうになり、咄嗟に片手で自分の口を覆う。
「うん、すぐ帰ろう……」
　真っ赤になってそそくさと万屋を出ていく僕を、さっきまで話していた初の燭台切光忠が驚いたような顔で見ていた。