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    cmm04010909

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    cmm04010909

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    rnis
    人間×吸血鬼パロ

    #rnis

    1話
     吸血鬼を知っているだろうか。そう聞かれれば、答えはイエスである。アニメや映画、小説、多岐にわたる物語に登場する、そう言った物語を嗜まない人でもわかるくらい有名な怪物なのだから。
     最近はその怪物が出没した、とまことしやかに囁かれている。曰く、吸血鬼は大層美しく、惚れた男は命を落とす、と。噂好きの人間が誇張し続けた結果、凛の耳にも届いたのだろうが、彼は吸血鬼に対して興味を抱いていた。何せ、凛はホラー映画を好んでいるので。
     凛とて本当に吸血鬼がいるとは思ってもいない。しかし、何かしらホラー的な要素があれば、と思っていたのは確かなのだが――
    「あ……」
     大学構内の使われていない教室。凛の目前にいる男は平凡だが、頭のテッペンの双葉のようなアホ毛と瞳だけは特徴的だ。そして、口元に垂れる赤い筋と手に持っていた輸液バッグは、つまらない現実に差した霹靂のようだった。
    「あ、いや、これはちが……」
     狼狽える男が血を吸っている現場を目撃した凛は、非現実的なそれに一抹の高揚感を抱いた。

    ◇◇◇

    「え?! そ、そんな噂流れてるの?」
     知らなかった、と驚愕する男の名は潔というらしい。らしい、というのも彼がそう言っているだけで、偽名の可能性もあるのだ。潔に最近、吸血鬼が出没すること、その吸血鬼に惚れたら命を落とすことを話すと、大きな瞳を皿のようにして驚いていた。誰もが見惚れるほど美しいという噂もあるが、黙っておくことにしたのだ、面倒な予感がしたので。
    「そんなこと言われてもなぁ……純血ならもしかしたらそれくらいの力はあるだろうけど、俺の吸血鬼の血は薄まってるから」
    「は?」
    「あ、つまんねぇって顔だな」
     ほら見てみろよ、と長袖を捲り、窓から差す光に当てる。
    「な、平気だろ」
    「十字架もニンニクもか?」
    「今日の昼食は、ニンニクマシマシなペペロンチーノだし、これは誕プレで貰ったク○ムハーツのネックレス」
     凛は舌を打った。パーカーにジーズン、そして十字架のネックレスというアンバランスな様を恨めしく思ったのだ。
     彼とはそれから直ぐに別れた。
     酷く慌てた様子で廊下を走り去った潔が、高校とは異なりチャイムで時間を知ることはない。そのため、時間が分からなかったのだろう。走る前、早口で捲したてる男の口から「お前と話してると時間過ぎるの早いわ」なんて軽々しく言えるものだから、強ち噂は間違えではないのかもしれない。
     凛は吸血鬼のくせに純朴そうな男のことを思い出しながら、桜の花弁が舞う裏門への道を足早に歩く。正門は目立つ。それに早歩きをしていれば、予定があるように周囲の人は勝手に想像してくれる。全て自然と身についた、サッカー以外に時間を割かないようにするための処世術だ。
     ――カキンッ。
     金属の音が聞こえる。近くで野球サークルの誰かがボールを打ったのだろう。太陽がジリジリと肌を焼く季節はまだなのに、温かい空気が頬を撫でた。
     サッカーサークルが使用しているグラウンドの芝生が視界の隅に写る。
    「あ、さっきぶり!」
     グラウンドの横を通ると声をかけられた。普段は甲高く耳障りな声ばかりだったので、珍しいテノールに立ち止まってしまう。振り向けば潔が手を振っていた、凛が通う大学のサークルのユニフォームを着て。
     どうやら、潔という名前は本名のようで、さらに同じ大学に通っている、というのだから驚きだ。
    「お前、同じ大学だったのかよ」
    「うん。学部が違うと中々会わないよな」
     潔たちが通う大学には、凛は履修したことはないが他大学の生徒も受講できる授業もあるので、様々な学生が行き交う。入学して一年は経過していたにも関わらず、潔に会ったことがなかったのでてっきり他の学校の生徒だと思っていたが、違ったようだ。
    「ほら、ちゃんとこの大学のユニフォーム」
     ユニフォームを見せるために潔はくるくると凛の前で回った。背中には「ISAGI」文字と背番号の十一。流石にユニフォームに偽名を使えるわけがない。ともかく凛は背番号の方が気になった。十一番ということは、彼はフォワードだ。凛と同じポジションのため、おや、と眉を上げた。
    「おい、糸師凛じゃないか?」
    「あ、ほんとだ! 潔、知り合いか?」
     何度目か分からない舌打ちをする。凛はこの視線が苦手であった。物見遊山をするかのように彼の教室まで見に来たり、品定めをするような視線だ。
    「え、あ、まぁ? 知り合いって言えば知り合いかも?」
    「なんだよー潔、知らないの? イケメンの二年がいるって有名じゃん」
    「え!? と、年下!?」
     凛の不遜な態度や、綺麗な顏、長い手足に、高い鼻梁。全ての要素が同い年か年上だと主張しており、潔は今初めて知った事実に望外のあまり大声を上げた。
     しかし、凛はというと潔が年上だったことに驚きを隠せなかった。否、内面が表に出にくいので表情には出ていないが、そのような心持ちなのだ。
    「そんな有名なのか……」
    「有名も何も、いとし……」
    「おい」
     凛は意図して潔のチームメイトの声を遮った。わかっていたのだ、糸師の後に続く言葉は、「凛」ではないことを。
    「なに?」
    「お前、フォワードなのか?」
     背番号を見て、ポジションを把握出来るのは、サッカーファンか選手くらいだ。潔は海のように青い瞳を赫灼とさせた。空に浮かぶ太陽のように眩しい笑顔を添えて。こいつのどこが吸血鬼なんだ、怪物たちが嫌う太陽のような男のどこが……とそこまで考えてやめた。凛は潔が吸血鬼である決定的瞬間を目撃しているのだ。
    「うん! も、もしかして、糸師くんも……?」
     期待を乗せた眼差し。凛はそれを何度も注がれてきたが、潔のそれは何だか悪い気がしない。こくりと頷き、彼の表情を窺うとさらに瞳を輝かせるものだから、底知れぬ明るさに凛の方が身を焼かれそうになる。
    「フォワードだ」
    「糸師くん、体格凄いからきっと凄い選手なんだろうなぁ〜」
    「……きめぇから名前でいい」
    「え? じゃあ、凛って呼ぶな!」
     潔の「糸師」は自分だけを視ていた。

    ◇◇◇

     糸師凛。そう名前を聞けば、サッカーファンならばある男を思い浮かべるだろう。
    「え?! やっぱりあの糸師凛なのか?」
     オレンジ色の空の下、喜色を満面に浮べる吸血鬼でさえも、素っ頓狂な声を上げた。凛は一つ舌を打つ。時間を潰すために、ボールを片手に持ったのは失敗だったようだ。
     凛の名前を聞いて大して反応しなかったので、サッカーに関しての世辞に疎いのかと思ったが、そうではないらしい。人気のない河川敷でボールを蹴っていたら、背中に大声を投げつけられ、あろうことか吸血鬼、基、潔は土手を転げるように落ちてきた。はしゃぎ具合は近所の子どもと大差ない。
     周りをウロチョロする男曰く、こんな近くにプロの選手がいるとは思わなかった、とのこと。潔は照れくさそうに頬を掻いていた。
     そう、糸師凛はJ1リーグで活躍する選手なのだ。
     大学在学中にプロとして試合をする人は少なくない。凛もその一人であり、サッカーに詳しくない、言わば「にわか」な人物たちからも好奇の視線を向けられていた。彩りがない学生生活に差した一色の凛という存在は、有名人と近づきたい彼らの中で広がっていったのだ。おかげであることないこと噂として広められてたが、それは潔も同じだろう。
     会話のスパイスとして怪談扱いされた彼のそれは、ここ数時間でまた誇張された。体調不良で欠席している生徒は、実は血を吸われすぎて入院しているなんて不謹慎な噂だったが、本人は知っているのだろうか。
    「お前のシュートすごい綺麗だな!」
     サッカーを嗜むならば糸師冴を知らないはずがないのに、糸師冴の弟だとか、そんな何枚ものフィルターを通して見ている眼差しとは違う。しっかり、凛の芯まで捉えた視線を向ける男は、そんな噂は露ほども知らないようだ。
    「……お前が温いだけだろ」
    「そんなことない!」
     可愛くないなー、それで俺はサークル帰りなんだけどさー、なんて彼の表情のようにコロコロと話題を変える潔は、凛の横からどこかへ行く素振りは微塵もない。
    「どっか行け」
    「いーじゃん。それに凛が周りの人に俺のこと話してないか見張ってないと!」
     信じてないわけじゃないけど、と笑い、凛の近くにいる口実ということは馬鹿でもわかる。
    「お前が吸血鬼だってこと他の奴らは知らないのか」
    「え、うん。親と凛以外誰も知らないよ」
     凛はほんの一瞬瞼を引き上げた。そして、胸の内から密かに湧き上がるそれは、優越感と言えるだろう。けれども、彼の表情として表に出ることは無い。
    「……あれでバレないとか嘘だろ」
    「いつもは上手く隠してるよ! 凛がたまたま見つけたの!」
     混血の潔はそもそも、吸血行為をしなくても生きていけるようだ。人間のように一日三食、早寝早起きが健康の秘訣。まるで、人間の生活だ。そんな彼が空き教室でひっそり血を飲んでいたのは、手っ取り早く腹を満たしたかったから。人でも直ぐに栄養を摂るために数秒でチャージできるゼリーを食すことがあるだろう、それと一緒だと潔は語った。
    「年に数回あるかないかだから、凛のタイミングが良かったんだよ。やっぱり、何か持ってるよ」
     やっぱり? 今日出会ったというのに、まるで竹馬の友のように彼らの胸中は一致した。やはりとは、以前と同じ状況または予想通りの出来事が起こったときに用いる。国語が不得手な凛でもわかる言葉だ。
     先述した通り彼らは数時間前に運命というよりも希有な出会いをしたばかり。まるで、凛のことを以前から知っているような口ぶりだ。
    「俺、なんでやっぱりなんて言ったんだ?」
    「俺に聞くな」
    「んーたぶん、凛関連のメディアで見たからだと思うけど」
     疑問符を浮かべる彼らは、釈然としないまますぐに帰路に着く。月を隠すほどの黒い空が晴れることは無かった。
     
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    07tee_

    MEMO100パーセント妄想!!!!!!!!
    isg♀(高二)と同じ学校に通うrn(高一)のrnis♀。kr君回前編。kr君をかませキャラにしてしまった。性格がかなりひどくなってる。kr君ファンの方ごめんなさい。kr君とisg♀が付き合ってる表現ありますが、kr→isg♀です。前提ではありません。
    凛と一緒(4) 今更ながらではあるが。凛はとてもモテる。顔が良くてサッカーも上手ければ、女子が黙っていないのも無理はない。前の学校でもモテていた筈だと潔は推理し、部活帰りの途中で、実際どうなんだよと尋ねたところ、本人は知らねえとばっさり切り捨てたけれども、絶対にモテてた筈だと仮定した。でもサッカー馬鹿の凛が多田ちゃんらのように彼女がほしいだのモテたいというだのの欲望を持ち合わせていないのを知っているので、モテていたという自覚が本人には無いんだろうと考察する。凛の頭の中は基本サッカーしかない。
     どうしてこのような話の流れになったかというと、全てはあの体育祭にある。あの後、凛の人気が急上昇したからだ。今一番モテる男は誰かと聞くと、間違いなく糸師凛である。あの奇跡的プレーが全学年女子の心を射抜いたのだ。潔もまたこれまでほとんど話したことのない女子生徒から話しかけられることが倍増した。ほとんどが凛との橋渡しだ。頼まれたら断ることのできない潔は凛宛のラブレターを手渡す役回りになっていた。凛は全て拒否したけれども。
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