(タイトル未定)「ねぇ、君もしかして触られるの、嫌い?」
ドの言葉にロの肩がぴくりと震える。
いつも微妙に距離を取られていたのはきっとロが退治人で自分が吸血鬼だから。ドはそう思っていた。けれど今目の前で歯を食いしばりながら小刻みに背を震えさせるロを前にしてそんな疑問が浮かんだ。
「…ごめんね、嫌だったんだね。すぐ流すよ。大丈夫、触らないから。」
下等吸血鬼の体液でドロドロだったロを城に招き入れ、手を怪我していた為風呂の世話をしていた。
美しい銀髪をうっとりとかき混ぜていた矢先、ロの震えに気づいたのだ。
「ほら、もう大丈夫だよ。体は?ボディタオルなら大丈夫?」
髪に泡が残っていないことを丹念に確認し、背中を流す。
「体、拭かせてね?」
肌が触れないように柔らかいタオルで丁寧に水気を拭き取る。
ロは終始無言だった。
釦のない夜着を着せ、寝室に連れて行き傷の手当てをする。
食事を運び、ホットワインを飲ませた。
「さ、もうおやすみ?」
ワインカップを受け取ろうとしたドの手をロの手がそっと包んだ。その手は小さく震えている。
「退治人君…?」
手の震えはやがて収まり、ロがふう、と大きく息を吐く。
「…お前なら大丈夫だ。」
俯き加減だった顔をあげ、ロがふわりと笑う。
あぁ、その美しさといったら!
「お前の手冷たいから平気だ。…悪ぃ、本当はずっと触ってみたかった。」
「…触れてみたいのは、手、だけ?」
ドはそぅっと唇を重ねる。
ほら、ね?私、唇だって冷たいよ?
言語化されなかった叫びと共にロに殺されたド。
再生し、ロの頬を撫でながらドは言った。
ねぇ、もう一度キスしても、いい?
手の甲で口を覆いながら顔を真っ赤にしてぶるぶると肩を震わせるロに
「嫌だった?」
と聞けば、
「い、嫌…」
ロはドから視線を逸らし、
「じゃ、なかっ…た。」
と。
「うふふ、嬉しい。ね?もう一回、しよう?」
口を覆うロの手にドはそっと触れる。
「これは?大丈夫?」
ロが小さく頷いたのを確認し、ゆるく指を絡める。
「じゃあこれは?これも大丈夫?」
小さく頷くロ。
弱く握り返して来たロの指先に、ドは優しくキスをする。
指先が一瞬小さく震えた。
「…これも?嫌じゃない?」
少しの間があって、ロは頷いた。
「ふふ。ありがとう。」
ドは繋いだ手を引き寄せ、ロの手の甲に頬を寄せる。
「君を愛しているよ。」
一つ一つの動作に許しを得ながら、ドはロの頰に触れ、髪に触れた。
握った手のひらにはじっとりと汗が滲み、ロは時折ギュッと目を閉じ唇を結んだ。
けれどドを拒否することはなく、恐る恐るといったふうではあったがドに触れられる事を受け入れようとしているようだった。
その健気さが堪らなく可愛く思えてドの口元と目元が緩む。
「退治人君、…ここは?」
触れるか触れないかギリギリの位置で指さした赤い唇。
ロは視線を右に、そして左に、もう一度右に彷徨わせ、最後に下へ落とした。
「お前がいいなら…いい。」
ロの言葉にドはふるふると首を振る。
「君がいいって思わないと、駄目。」
その言葉にロは、は?と眉を吊り上げた。
「…さっきは勝手にしたじゃねえか。」
「あー…えーとその…」
じとり、とロに睨まれ、ドはしゅんとする。
「…ごめんなさい。」
確かに了承も得ずに勝手にキスをした。
だって嬉しかったんだもの!
他人に触れられたくない君が、私なら大丈夫だなんて言うから!
「…アップルパイ。バニラアイス付きで。」
それで許してやる。
ロの言葉にドは「もちろん!」とパァっと顔を輝かせた。
そんなドの様子に、吊り上がっていたロの眉が下がる。
それと同時に肩からも力が抜け、ふう、と息を吐く。
落ちた視線の先には繋がれたままの手。
ロはゆっくりとその手を持ち上げた。
「…なぁ。」
「なぁに?」
「俺が…お前みたいに触れたら、お前は嬉しいのかよ?」
「…私みたいに?」
こんなふうに、と、ロがドの手の甲に唇を寄せる。
温かくて柔らかい感触に、普段は緩やかな鼓動を刻むドの心臓がバクン!と爆音を立てる。
そのあまりの衝撃に、体が崩れ落ちそうになる。
駄目だ!耐えろ私!
今死んだら駄目!
退治人君の事だもの、きっと死ぬ程嫌なんだとか勘違いして絶対拗れるやつ!
私が死んでる間に帰っちゃって、もう来てくれなくなって、連絡もつかなくなるやつ!
それだけは絶対に嫌だと、歯を食いしばり体の崩壊に抗う。
けれどロのキスの衝撃は生半可ではなく、嬉しさが徐々に体を蝕んでいった。
「退治人君、私、私…!」
必死に言葉を紡ぎ出そうとするドに、ロはぷはっ!と吹き出す。
「ばーか、安心して死ねよ。」
「退治人君…?」
「お前のそんな嬉しそうな顔を疑ったりしねぇよ。再生するまで待っててやる。」
嬉しそうに楽しそうに笑うロ。
「ほんと…?絶対だよ。待っててよ?約束だよ?」
「分かったって。」
「絶対だからね…!」
最後の気合で口付ける。
「再生したら、もっと君に触れたい。」
至近距離で見つめ合う青がふわりと笑う。
「いいぜ?ただし、俺の気が変わらない内に再生できたらな。」