「君と世界を、もう一度この手に」 「―暁人!」
不意に後ろからその名前を呼ばれて、僕は咄嗟に立ち止まってしまった。
もう「僕」はその名で呼ばれた人物ではないのに。
そして「彼」もまた、僕の記憶に残るその人ではないと、言うのに。
「待てよ、暁人!!」
どくどくと鳴る心臓を他所に、その声の主は走ってこちらに近づいてくるようだった。
ああ、どうして見つけてしまったの。
あの時とは違う、高いボーイソプラノが遠くから自分を、否、自分だったものを、呼んでいる。
でも振り返りはしない。そう、人違いだと、そのまま諦めてくれたらー
ぐい。祈りも虚しく、強い力で腕を引かれる。
ああ、懐かしいな。あの時もそうやって僕の手を取ってくれたっけ。
でも、でもねー
もう僕は、あんたの知ってる僕じゃ、ない。
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