ドクターTETSU虎ビキニ部 80年代オタクのファム・ファタール。そこに込められていた物語は失われ、虎ビキニというミームだけが残った。還暦過ぎた男のボディの上に。
「ラムちゃんはブーメランパンツ履かねえんだよ」
「そこは僕の趣味です」
ソファに座るテツの困惑と羞恥の抗議をよそに、譲介は腕を組んで満足げに頷いている。
胸と腰をわずかに覆った虎柄の生地が心もとない。オリジナルより布面積の乏しい虎ビキニの間で、テツの割れた腹筋が少しひくついた。ポートを埋め込んだ古傷が疼く。
「そもそもお前ェ世代じゃねえだろ、どういうチョイスなんだよ」
元ネタは軟派な男とやきもち焼きの女のコメディだ。男を一途に追いかける女の姿はむしろ目の前の青年に似ているとテツは思う。
「これはですね、ビキニのブラに納まらない胸筋が見たかったといいますか」
「そぉかぁ……」
「元ネタだってこんなにグラマーじゃないでしょう?」
もはやただの性的な記号と化した虎ビキニの胸の部分は、事実、納まりきらないテツの胸の筋肉を下側に少しはみ出させているのだった。
「でも呆れつつも着てくれるとこ、優しいですよね」
「呆れられるのわかってやってんのかよ……」
「ありがとうございます。愛してるって言ってくれていいんですよ」
「今際の際にな。……これじゃあどっちがどっちだか」
譲介にはわからないだろう引用をして、テツは気づく。譲介とは期限を同じくした約束がある。一途に追いかけられるまでもなく、テツは死ぬまで譲介とともにあるのだった。
「ったく、かなわねえな」
テツはソファの上で横になり、指先で譲介を招いた。