Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    kidd_bbb_g

    @kidd_bbb_g

    K2用

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🍛 ☕
    POIPOI 23

    kidd_bbb_g

    ☆quiet follow

    冬至の柚子湯の話です。ほかほか。

    #K2
    #和久井譲介
    #ドクターTETSU
    #譲テツ

    冬至の晩に柚子が三つ、湯に浮かんでいる。
    TETSUは湯の中で黄色い柚子が揺れるのを眺めていた。
    冬至だからと柚子を用意したのは譲介だ。TETSUが入る前に慌ててやってきて、元気よく湯船に投げ込んでいった。
    「マメなやつだ……」
    譲介が季節の行事に積極的なのは意外なことだとTETSUは思った。TETSUの知らないところで、暦を調べて準備をしている。楽しそうで良いことだ。
    TETSUはこういうことに関して無頓着なほうだった。TETSU自身の年中行事といえば年に一度、クリスマスプレゼントを施設へ届けるぐらいである。
    そんなわけで、TETSUが冬至の晩に柚子湯へ入るのは相当に久しぶりのことだった。
    三つの柚子がTETSUの目の前で、それぞれ別の方向へ漂っていく。湯気にほのかな香りが混ざる。TETSUは湯の中で軽く伸びをして、息をつく。こんなにゆったりした冬の晩はいつ以来だろうか。
    「お湯加減どうですか?」
    浴室のドアが開いて、譲介が顔を出した。脱衣所の冷たい空気が流れ込んだ。
    「寒い。閉めろ」
    「はいはい」
    譲介は裸で浴室に入り、後ろ手にドアを閉める。
    「長湯なので様子見に来たんです」
    「それで全裸の理由がわからねえよ」
    TETSUの言葉に譲介は応えず、かけ湯をして湯船に脚を入れる。譲介は当たり前のようにTETSUの膝のあいだに背を向けて座った。その様子は猫が膝に上る仕草に似ていた。
    湯があふれ、柚子が湯船のへりまで流されて止まる。譲介はTETSUの胸に寄りかかった。TETSUの内腿に譲介の腰が当たる。譲介は体育座りの要領で座っていて、膝小僧が湯面に出ている。
    「狭ぇな」
    TETSUが言うと譲介は短く笑う。
    「裸の付き合いってやつですよ。……いいでしょ、柚子湯」
    「そうだな」
    「村の温泉でもやってましたから、うちでもと思って」
    譲介の肩の向こうで柚子が二つ、ゆらゆらと浮かんでいる。もう一つは譲介が手で揉んでいる。鮮烈な香りがあたりに広がった。
    TETSUは湯船のへりに頭を預けて息をついた。
    「なるほど……」
    湯気けむる天井を見上げてつぶやくと、ドアの方で妙な音がした。
    ガリガリと引っ掻くような音。すりガラスのむこうに小さな黒い影。
    「猫が来ました」
    「開けてやれ」
    譲介は湯船の中で立ち上がり、腕を伸ばしてドアを開けた。そこには黒猫が待っていたと言わんばかりに座っていた。譲介は湯に体を沈めて黒猫に声をかけた。
    「どうした?」
    この一瞬で冷えた譲介の肌がTETSUの胸に触れた。黒猫は譲介の声を聞きながら、微動だにせずその場に座っている。
    「入ってくるわけじゃないのか」
    「猫は水が苦手だからな。あれな、『お前、水になんか入って大丈夫か』って思ってるらしいぞ」
    TETSUが笑っても黒猫はじっと二人を見ている。譲介はそうか、と呟いた。
    「ご心配には及びませーん」
    譲介はドアを閉めて湯船に戻り、TETSUのほうに向き直って座った。
    「もう少し温まっていましょうよ」
    譲介は身を乗り出して、TETSUの鼻先に軽いキスをすると、TETSUの胸に指を滑らせた。
    「それが目的かよ……」
    TETSUは濡れた両手で譲介の髪を撫でた。
    二人の脚の間で、柚子が三つ揺れている。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🍊🍊🍊🍊🍊🍊🍊🍊🍊🛁🍊🍊💖🍊🍊🍊🍊♨😊♨🍊🍊🍊🛀🐾💕💕💕💒😍🙏😍🙏😭🙏😍🙏😍
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works

    fmt

    DONE真田武志と真田徹郎と西城KAZUYAの話。
    譲が高校生くらいの時間軸。
    K's 夜半であった。G県I町H山。N県から車で2時間ほどの場所に位置する。根無し草であり、ハマー一台で国内はもとより海外にもすっ飛んでいく男がいる。だがここ数年、ややあってN県の繁華街のタワマンをヤサにしている男――ドクターTETSUには、G県もN県も海がなく、なんとなく閉ざされた世界のように感じてならない。走っても走っても山並みばかりで木、林、森が延々と続いている。海のない場所は窮屈に感じる。崖っぷちから望むあの日の日本海に思いを馳せる。過去などとうの昔に忘れていたというのに、存外覚えているものであった。

     そんなドクターTETSUが何故隣県まで飛び込んでいったというと、闇医者として上客であった「訳アリの金持ち」のバカな子供が親の金で買ったマニュアルのシルビアで峠の下りをバカみたいなスピードで走り、バカなので減速の制御もできないままガードレールに突っ込んでさらに谷に転がったという。免許を取ったばかりとも聞いた。ご丁寧に貼られていた初心者マークのほかにも、車体にロールバーが入っていたため、車は全損だったがTETSUの迅速な処置もあり手足の骨折程度で済んだ(TETSUの見立てだと全治2~3ヶ月はかかるという)が、表沙汰にしたくないがために呼ばれたのであった。
    2640