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    kidd_bbb_g

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    冬至の柚子湯の話です。ほかほか。

    #K2
    #和久井譲介
    #ドクターTETSU
    #譲テツ

    冬至の晩に柚子が三つ、湯に浮かんでいる。
    TETSUは湯の中で黄色い柚子が揺れるのを眺めていた。
    冬至だからと柚子を用意したのは譲介だ。TETSUが入る前に慌ててやってきて、元気よく湯船に投げ込んでいった。
    「マメなやつだ……」
    譲介が季節の行事に積極的なのは意外なことだとTETSUは思った。TETSUの知らないところで、暦を調べて準備をしている。楽しそうで良いことだ。
    TETSUはこういうことに関して無頓着なほうだった。TETSU自身の年中行事といえば年に一度、クリスマスプレゼントを施設へ届けるぐらいである。
    そんなわけで、TETSUが冬至の晩に柚子湯へ入るのは相当に久しぶりのことだった。
    三つの柚子がTETSUの目の前で、それぞれ別の方向へ漂っていく。湯気にほのかな香りが混ざる。TETSUは湯の中で軽く伸びをして、息をつく。こんなにゆったりした冬の晩はいつ以来だろうか。
    「お湯加減どうですか?」
    浴室のドアが開いて、譲介が顔を出した。脱衣所の冷たい空気が流れ込んだ。
    「寒い。閉めろ」
    「はいはい」
    譲介は裸で浴室に入り、後ろ手にドアを閉める。
    「長湯なので様子見に来たんです」
    「それで全裸の理由がわからねえよ」
    TETSUの言葉に譲介は応えず、かけ湯をして湯船に脚を入れる。譲介は当たり前のようにTETSUの膝のあいだに背を向けて座った。その様子は猫が膝に上る仕草に似ていた。
    湯があふれ、柚子が湯船のへりまで流されて止まる。譲介はTETSUの胸に寄りかかった。TETSUの内腿に譲介の腰が当たる。譲介は体育座りの要領で座っていて、膝小僧が湯面に出ている。
    「狭ぇな」
    TETSUが言うと譲介は短く笑う。
    「裸の付き合いってやつですよ。……いいでしょ、柚子湯」
    「そうだな」
    「村の温泉でもやってましたから、うちでもと思って」
    譲介の肩の向こうで柚子が二つ、ゆらゆらと浮かんでいる。もう一つは譲介が手で揉んでいる。鮮烈な香りがあたりに広がった。
    TETSUは湯船のへりに頭を預けて息をついた。
    「なるほど……」
    湯気けむる天井を見上げてつぶやくと、ドアの方で妙な音がした。
    ガリガリと引っ掻くような音。すりガラスのむこうに小さな黒い影。
    「猫が来ました」
    「開けてやれ」
    譲介は湯船の中で立ち上がり、腕を伸ばしてドアを開けた。そこには黒猫が待っていたと言わんばかりに座っていた。譲介は湯に体を沈めて黒猫に声をかけた。
    「どうした?」
    この一瞬で冷えた譲介の肌がTETSUの胸に触れた。黒猫は譲介の声を聞きながら、微動だにせずその場に座っている。
    「入ってくるわけじゃないのか」
    「猫は水が苦手だからな。あれな、『お前、水になんか入って大丈夫か』って思ってるらしいぞ」
    TETSUが笑っても黒猫はじっと二人を見ている。譲介はそうか、と呟いた。
    「ご心配には及びませーん」
    譲介はドアを閉めて湯船に戻り、TETSUのほうに向き直って座った。
    「もう少し温まっていましょうよ」
    譲介は身を乗り出して、TETSUの鼻先に軽いキスをすると、TETSUの胸に指を滑らせた。
    「それが目的かよ……」
    TETSUは濡れた両手で譲介の髪を撫でた。
    二人の脚の間で、柚子が三つ揺れている。
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