ドクターの相棒 ソファの上、黒猫がドクターTETSUの膝に飛び乗る。
「どうした相棒?」
この黒猫を、ドクターTETSUは相棒とよぶ。あるいは単に『おい』と。譲介は黒猫が名前で呼ばれているのを聞いたことがない。
「そいつ、名前何です?」
「名前?」
譲介がドクターTETSUに訊ねると、ドクターTETSUは話が飲み込めないようだった。
「……つけて無ェなあ、そういえば」
「無いんですか」
「今から考えるか」
「でも、こいつ、もう自分の名前のこと『相棒』だと思ってますよ。たぶん」
黒猫はドクターTETSUの膝の上で機嫌よく目を閉じている。譲介は艶やかな黒い背に呼びかける。
「あいぼう」
黒猫は知らんぷり。
「おい、あいぼう」
やっぱり、知らんぷり。
「いくらなんでもそりゃねえだろ。――なあ?」
ドクターTETSUは笑ってから、黒猫に呼びかけた。黒猫は大きくいちど尻尾を振った。譲介とドクターTETSUは顔を見合わせた。
「反応したな」
「あなたが呼べばなんでもいいんですかね」
譲介は小さくむくれる。それを見るドクターTETSUは笑いをこらえる。
「お前がドクターを好きなのはわかったよ、『ドクターの相棒』」
譲介がもう一度黒猫に話しかけると、黒猫は小さな声でにゃあと鳴いた。