ドクターテツ人妻部「恥じらいっていいもんですねえ、徹郎さん」
譲介は顎に手を当て、オレのことをしげしげと眺めている。
「なんて言ったらいいか。新妻感?」
「新妻感」
オレも裏稼業を長いこと続けてきて、道理の通らねェ事態にもそこそこ遭ってきたが――この歳で新妻と呼ばれるとは思わなかった。
オレはいまエプロン一枚でキッチンにいる。
風呂場以外の場所に下着も着けずにいるのはとても居心地が悪い。エプロン一枚が胴体の前面を覆ってはいる。だが胸も腰も布幅の頼りねェこと。迂闊に動いたら多分はみ出る。このぎりぎり加減は全裸よりよっぽど問題があると思う。
そんなわけで、シンクを背にして立ったオレはささやかな抵抗とばかりに、エプロンの裾を引っ張っている。
「バニーもサンタもあんなに堂々としてたのに」
「あれはいちおう服だっただろォがよ」
反論すると譲介は小さく笑った。こいつはふだん通り着込んでいるから、気楽なもんだ。
「恥じらいのボーダーラインが謎ですが、良いですよ。新鮮です。せっかくですから定番のあれ、やりませんか」
テンプレートはもちろん解っている。お風呂? ご飯? それとも……ってやつだ。オレが言うのか、オレが。ええと。
「選択肢を与えてやろう」
「言い方ァ!?」
……旦那の生殺与奪を握ってそうなドスの効いた言い方をしてしまった。怖ェ新妻だな。譲介は笑ってオレににじり寄る。
「まあいいです。このぎりぎり納まってるバストに免じて許しましょう」
譲介はエプロンの上からオレの胸を揉む。ついでみたいに片手をエプロンの裾に入れ、腿を撫でていく。
「ッ……」
「本当にぎりぎりまで詰まってるの、すごいな……」
褒めてるのかなんなのか解らないが、譲介の言葉がものすごく恥ずかしい。顔が熱くなってきた。
譲介はオレをシンクのへりに腰掛けさせた。真剣な顔をして、両手でオレの脚を押し開こうとする。ちょっと待て、場所と姿勢に無理がある。
バランスを崩したオレは後ろへ倒れ、背中をシンクの蛇口でしたたかに打った。足は……何かにぶつかって吹っ飛ばした気がする。なんとか身を起こしてシンクから降りてみると、譲介が顎を押さえてうずくまっていた。
「大丈夫か!」
「ダメです……膝枕で介抱してください」
大丈夫そうだ。
「……寝室行くか?」
オレは譲介の手を取って立ち上がらせた。譲介はオレの腰に両腕を回して身体を寄せてきた。
「勿体ない。ここで続きをしたいです、このまま」
視界のすぐ下で譲介が囁く。薄いエプロン越しに譲介の体つきを感じて、ぎくりとする。
台所は火のもと、怪我のもと。
オレは返事に困る一方で、身の内に火を点けられたような熱が起こるのを感じた。