恋の不満と恋の模様② 夏を経てなぜか海賊仲間のバーソロミュー・ロバーツが円卓の第2席と付き合いだした、らしい。
らしいとついたのは、本人から直接聞いたわけではなく、あくまで噂で知った情報だからだ。
初めてその噂を耳にした時は、へぇ〜、ほぉ、ふぅ〜んで、揶揄えるタイミングがあれば揶揄ってやろうと考え、次に思ったのは、あの円卓の騎士様、あのわがまま姫、持て余さねぇといいけど、というもの。
あいつ、伊達男きどってるが、中身はしっかり海賊。奪う奪われるは当たり前、やられたらやり返すなんならやられる前にやる精神であるし、規則は守るも自分の願望にわりと忠実だ。
騎士様があいつのどの側面に惚れたかは知らねぇが、バーソロの奴、愛想つかされなければいいが。その時、バーソロミューが素直に手放すわけがないのだから。下手すると海賊や円卓連中巻き込んでの大騒動に発展するだろう。
探りを入れるのも面倒だが、後々問題になってはもっと面倒だと、夜、食堂のキッチンでパーシヴァルが一人、仕込みをしている時に声をかけた。
「よぉパーさん。小腹がすいて、残りもんでもいいからなんかね?」
「あぁティーチ殿。ではハンバーグを温め直そうか」
パンとハンバーグを温めてもらっている間、黒髭はカウンターごしにパーシヴァルに話しかける。
「そういやパーさん。あいつのわがままに振り回されてません?」
「……? あいつとは誰だろうか?」
「ほら、最近付き合い始めたと噂のいけすかねぇ伊達男ですよ」
やだもうとぼけちゃって、と明るく言えば、パーシヴァルは怪訝そうに首を傾げる。
「……バーソロミューの事だろうか?」
「そうそう。あのわがままアラフォー」
「…………彼がわがままなど」
パーシヴァルの表情が引き締まり、間違えは正さねばという気迫でいかにバーソロミューが叡智に富み、気遣いができ、行動力があるかを語る。
その顔には一切の偽りはなく、黒髭がさっさとパンとハンバーグ温まってくんねぇかなと辟易するほどであった。
語り足りないという顔のパーシヴァルからトレーに乗ったパンとハンバーグを受け取り、席について大口で食べ始める。
豪快にもぐもぐごっくんと飲み込み、数分で食べ終わって思うのは、バーソロの奴、猫被ってやがんな、という事だった。
「——で? いつまで猫被ってんの?」
海賊で共同に借りている部屋。
ベッドを占領し、黒髭のクッションを奪い、黒髭の漫画を勝手に略奪して読んでいるバーソロミューに脈略なく聞いてみる。
因みに黒髭は床に座ってベッドをせもたれにして、端末で美少女ゲームの育成中だ。
互いに手元の漫画やゲームから顔を上げず、目も合わせず、会話は続く。
「なんの話だ?」
「夏に誕生したビックカップルの話でつよ」
「もう一度言う、なんの話だ?」
「いやいや、おまえのこった、相手に惚れぬいて離れられなくなるか、それとも弱み握ったタイミングで猫を脱ぐ気だろ? 夜中に急に寂しくなったから来てーとか、私以外を見る目をくり抜いてやろうかとか」
「知らなかった。私はヤンデレだったのか」
「ま、それは冗談としても、わがままも文句も言わずに物分かりのいい年上の恋人っていうタマじゃねーだろ?」
「………………」
「……お、新たな美少女の予感」
「……不満が、」
「うん?」
「不満がないのなら、わがままも文句も言う必要はないだろう? あと数年なんだ」
「はぁ? バーソロ、お前」
黒髭が振り返ると、バーソロミューは漫画を放り出してベッドから立ち上がっていた。
「用事を思いだした、漫画は返す」
と、さっさと部屋を出ていく。
残された部屋で、黒髭は「えー、そんな感じでつかぁ」とゲーム画面を操作しながら、独りごちる。
おもった以上にバーソロミューは本気なのだろう。
恋人に愛想を尽かされないように、騎士様に見せていた側面で取り繕っている。それか、恋人も夫婦も、相手が便利で物分かりがいい方が長続きすると考えているのかもしれない。
それは生きている人間で、一生を添い遂げるなら不誠実なのかもしれない。だがバーソロミューはサーヴァント。影法師な上に、マスターの旅が終われば座に帰る。
長くとも後、数年。
そう考え、惚れ抜いている騎士様にいい顔をすると決めたのだ。
「…………問題起きなきゃいいんでつけど」
そう独りごちてから、お気に入りの美少女の育成に集中した。
それから二週間後。
バーソロミューは眠りに堕ち、目覚めなくなっ