リフレイン・メモリー③
倫理観が個々の善悪を測るための社会的なものさしであるならば、大きな愛情の前に於いてそれは全くの無意味だ。均質化された価値観で誰かの祈りを簡単に騙るな。
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大勢の人が行き交い、空騒ぎみたいな喧噪がこだまする週末。大通りから一本入った路地に青いのれんの居酒屋がひっそり佇み、例に漏れず通好みの客で賑わっていた。
店主と女房、お手伝いさんの三人で切り盛りする小さな居酒屋。店内に流れる昭和歌謡は少しノイズがかっていて、郷愁に耳を傾けると不思議と酒が進む。連休を前にやたら浮かれた客たちの相手でホールも厨房も大忙しだ。
店の奥に一つだけあるボックス席で、呼び出された司とホームズはコーサカと顔を突き合わせ、ようやく揃ったビールで乾杯した。
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