月夜の感謝 ナタの空に、ゆっくりと満月が昇りはじめていた。昼の熱気を残したまま、夜は静かに秋の気配を運んでくる。
「ねえイファ。さっき旅人から聞いたんだ。稲妻では、秋の満月に“秋の実りへの感謝”をするらしい」
オロルンは庭にある木の椅子に腰を下ろしていたイファへと声をかけた。抱えていた包みを広げると、中には旅人からのお土産──稲妻の月見団子と稲妻茶が入っている。
「これは……なんだ? 団子と……お茶か?」
「そうだ。その団子はただ食べるんじゃなくて、満月に見立てて供えるだ。稲妻では収穫した野菜も並べて、秋の実りに感謝するらしい」
「農耕の行事か。……それなら、野菜を育てているお前にはうってつけだな」
「そうだな」
ぱっと笑顔を見せたオロルンは、肩に寄り添うカクークを見下ろす。小さな竜はもふもふの羽を震わせながら「はやくたべるぞ、きょうだい」と、オロルンの髪をつついた。
1779