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    ヌゥーピ

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    ヌゥーピ

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    支部にあげた今までに書いたなかで1番好きなつなとら🚺。

    🐯の望まない結婚式に🐉が乗り込む話。

    🐯がDv受けてます。
    ŹOはみんな🚺

    #つなとら
    tsunamiTiger
    #にょた
    mata

    きみをつれだす。冬空の下冷たい手と手を繋いで夜空を見上げ一緒に歩いたり、一緒に選んだソファーに座ってテレビを見たり、時にはくだらない事で喧嘩して仲直りして。そういった何気ないことを幸せって言うんだなって改めて分かり始めてた。龍之介となら全てが幸せになる。けどその幸せは音をたてて崩れ、思い出は宙に舞い消えていく。

    ごめん、龍之介。
    龍之介とは幸せになれないみたいだ。


    「別れよう、龍之介。」


    さよなら、龍之介。大好き。

    ◾︎


    「おい、龍!いくらなんでも飲み過ぎだぞ!!」

    左から楽が俺を心配する声がする。

    「そうだよ、龍。もうやめな?」

    右から天の宥める声がする。

    「にしても、御堂の奴いきなり婚約発表なんてなぁ」

    そして前から大和くんの声がした。

    「ぅ、う"ぅ〜…」
    「あー!ほら十さんまた泣いちゃったじゃんか!」

    大和くんの隣の三月くんの声もした。
    時刻は20時半。俺たちTRIGGERと大和くん、三月くん、壮五くんは俺の家でお酒を飲んでいた。何時から飲み始めたかも分からないくらい浴びるようにお酒を飲んでいて目の前にいる大和くんが3人見える。俺が浴びるように酒を飲みこうして泣いてしまった理由、それは虎於ちゃんからの唐突の別れ話だった。虎於ちゃんとは1年半前から付き合っていて何回もデートを重ねキスしたりそれ以上のこともした、俺たちは確かに愛し合っていた。俺は虎於ちゃんにずっと俺の隣に居て欲しい虎於ちゃんを守っていきたい。けど、突きつけられた現実はそんなことはなかった。
    昨晩虎於ちゃんから呼び出された。場所は虎於ちゃんと初めてデートに来たカフェ。古民家カフェで人気のラテアートは可愛く美味しい、俺も虎於ちゃんも何度も訪れるお気に入りの場地だった。
    約束の時間、虎於ちゃんは既に来ておりスマホを触って俺を待っていた。いつもなら俺が来るのを子供のようにソワソワしながら待っていて俺を見つけると「龍之介!」と弾けんばかりの笑顔で俺を迎えに来てくれる愛おしい姿はなくただ俯いてスマホを触っていた。おまたせ、待った?と声をかけると待ってない。座ってと、虎於ちゃんが俺を急かした。
    今日は暑いよね、体調は悪くない?とたわいもない話から始めようとした時だった。


    「別れよう、龍之介。」

    「ぇ、」


    俯き俺の事を見ない虎於ちゃん。虎於ちゃんは表情が読み取れず俺は動揺し彼女を問いただしてしまった。

    「どうして?」「なんで?」「俺に悪いところでもあった?」
    そう聞く俺に虎於ちゃんは横に首を降るばかり。

    「龍之介に悪いところなんてひとつもないよ。私には勿体ない。」

    そう言うと虎於ちゃんは立ち上がりやっと俺の顔を見てくれた。その日初めて見た虎於ちゃんの顔は今にも泣きそうな、寂しそうな顔をしていた。いきなり悪かったと一言言うと俺と虎於ちゃんお気に入りのラテアート2人分のお金を置いて虎於ちゃんはカフェから出ていった。虎於ちゃんのラテアートは減っていない。虎於ちゃん!待って!と店を出て呼び止める俺の声に、「ごめん」と言い。迎えの車に乗って行ってしまった。その後どうやって家に帰ったかは覚えてない。目が覚めリビングを見ると脱ぎ捨てられた自分の服、投げ捨てられた鞄があった。スマホには楽と天、みんなからの大量のラビチャ。なぜその大量に送られてきたのかはテレビをつけると直ぐにわかった。そこに映ったのは


    【 ŹOOĻ 御堂虎於、電撃婚約発表!!】


    (婚約?虎於ちゃんが?なんで?俺と付き合って……あれ?)

    意味がわからず俺はソファーに倒れ込みまた眠った。次に目が覚めると連絡がつかない俺を心配して家にていた楽と天がいて心配そうに俺を見ていた。
    そして今、なにもかもやけくそになって泣きながらお酒を飲んでいるところ。楽と天が2人じゃどうしようも出来ないからと予定の空いていた大和くん、三月くん、壮五くんを呼んでくれた。付き合わせてしまって悪いとは思っているがそれ以上に今は話を聞いて欲しかった。

    「龍…昨日なにか他に言われなかったのか?」
    「…なにも、何も言われなかった。けど虎於ちゃん、悲しそうな泣きそうな顔でお店から出たんだ。あの顔が忘れられない……っ、」
    「龍…。」

    行き場のない気持ちをギュッと握りしめる。虎於ちゃんを思い出しまた泣きそうになる俺を天が優しく背中を撫でてくれた。天の手はあたたかく、涙が溢れ出る。陸くんもこうやってあやされていたのかと思った。

    「ソウ、狗丸たちとはなにか話してないのか?」
    「それがトウマ達も初耳らしくて…」
    「ぇえ!!メンバーにも!?」
    「はい、家から言われたことらしくて。ツクモも今慌ただしく対応してるらしいです。」

    メンバーにも話していない婚約発表にいま事務所が大慌てで対応しているらしい。

    ねぇ、虎於ちゃん。
    虎於ちゃんはそれで幸せになれる?
    俺は虎於ちゃんを幸せにする自信があるよ。


    ◾︎


    時は戻り3日前__


    「虎於、よく承諾してくれた。父さん達も一安心だよ」
    「うん…それに、前から決まってたことなんでしょ?」

    広く豪華な部屋、その部屋にあるそれはまた大きく豪華なダイニングテーブル。そのテーブルに虎於と虎於の父が2人だけで座っていた。大きなテーブルの端と端に座る2人の距離は遠く、虎於は父親の表情がよく分からなかった。きっと父親も虎於の表情が分からない。そんな中虎於の父が重たい口を開き話し始めた。

    「そうなんだ…虎於が産まれてから5年後くらいかな。良くしてくれている家の息子さんがぜひ虎於を花嫁にと。」

    話の内容は婚約。虎於の婚約は双方の父親同士が決めたものだった。父曰く、虎於が5.6歳の時に昔からの取引先の家の息子が虎於に一目惚れし婚約を申し込んだ。父も今後のことを考えその申し込みを承諾し、虎於が22歳の誕生日を迎えて半年後に虎於を嫁に、という婚約を結んでいた。
    父がそのときになるまでは虎於に自由を与えたい、ということからこの婚約のことは虎於には知らされていなかった。虎於に彼氏、十龍之介がいることも知っていたが虎於の父は婚約を取り消すことはしなかった。何故ならばこの婚約こそが虎於にとって最前で1番の幸せになり得ると思っていたからだ。

    「いまから花嫁修業もあるし、アイドル活動は控えたらどうだ?」
    「っ、それは!…っ」

    それは出来ない!

    そう言い返そうとした虎於に父は優しい眼差しを向けた。虎於は言えなかった。
    これが幸せだ。これが虎於の幸せなのだ。
    父は、家族は虎於の事を1番に考えてくれる。末っ子、御堂家一人娘として蝶よ花よと大事にお姫様のように大事に育てられた虎於。家族は虎於が求めるものは全て与えたい、幸せにしたい幸せになってほしい。けど、危ないからね守るためだからねと虎於のしたいことはさせてはくれなかった。虎於の幸せは父が作るもの、虎於の幸せも父が与えるもの。その愛情のせいから虎於はやりたいことを言えなかった。ŹOOĻになってトウマたちにやりたいことを言えるようになったが家族にはまだどうしても無理だった。用意された幸せに虎於は頷いていてしまう。虎於はそれが愛と、優しさと知っているから。

    「っ…、もう少し待ってください。アイドルとして、まだ彼女たちと、ステージで歌っていたいです。」
    「…そうか、分かった。いきなり活動休止しても虎於にも彼女たちにも、ファンの方にも良くないな。」
    「ありがとう、……ございます。」
    「けど、条件だ。十龍之介くん、だったかな?彼に別れると告げなさい。そして、3日後に婚約を発表しなさい。発表はこっちで準備して上げるからね」
    「…わかりました。」


    虎於の自分で得た幸せが崩れていく音がする。
    消えていく。そして用意された幸せが目の前にある。また虎於は幸せに縛られる、自分で掴んだ選んだ幸せではない用意され約束されたものに。


    ごめんなさい、龍之介。


    それから虎於は約束通り龍之介に別れを告げ
    その翌日婚約発表をした。


    ◾︎


    あれからはや2ヶ月、活動休止ではないけど虎於ちゃんをテレビで見ることが減ってきた。けれどネットやテレビではあのŹOOĻ御堂虎於の婚約者が誰かとずっと話題になっていた。そしてついに、婚約者が明かされた。明かされたと言うより、その婚約者と虎於ちゃんの記者会見で公表された。婚約者との記者会見は今日、ホテル・ミドーの1番豪華な会議室で行われるらしい。記者会見は昼からで生放送でテレビやネットで配信されてる。俺は次の出番まで楽屋で天、楽と3人で記者会見を見ることにした。そして12時半、ついに記者会見が始まった。テレビには煌びやかな服を身にまとう虎於ちゃんは俺の知らない虎於ちゃん。虎於ちゃんの隣には背が高く爽やかなモデルのようにかっこいい男性がいて、虎於ちゃんを中央まで華麗にエスコートをした。

    【御堂さん、御相手様は大手美容クリニックの時期会長様…大迫様ですか!?】
    【…】
    【?、御堂さん?】
    【ぇ?あ、あぁ】
    【ふふ、済まないね。彼女まだ緊張してるみたいで】
    【いえ!!こんな素敵な方がいらっしゃるとわたしも緊張してしまいます!!】
    【はは、ありがとう】
    【披露宴は1ヶ月後と聞きましたが今のお気持ちは?御堂さん!】
    【ぇ、そうだな。素敵な場所ををおさえてあるんだ。はやくファンの子達にも素敵な姿を見せたいよ】
    【僕もそう思います。】

    そう言いながら虎於ちゃんの肩を抱き寄せ微笑む婚約者。虎於ちゃんはそれに肩を震わせる。虎於ちゃんはまた何事も無かったようにいつもの虎於ちゃんらしく振る舞い始めた。

    【御堂さんの指輪、お綺麗ですね。】
    【えぇ、彼女に似合う最高に美しいものを用意させて頂きました。】
    【御堂さん、良ければ……あら、御堂さん?】
    【虎於、大丈夫?】
    【っ、大丈夫よ】

    婚約者が虎於ちゃんの頬に手を当て虎於ちゃんを見つめる。その姿に記者たちのキャーと黄色い歓声が聞こえる。虎於ちゃんを心配する彼はまるで絵本の王子様のようで…きっと俺と虎於ちゃんが並んでもそうは見えないだろう。ファンの前に俺たち2人が並ぶことはもうないけれど。

    【御堂さん、よろしければ指輪を見せてください!】

    そう言われ虎於ちゃんは左手の薬指につけている豪華な婚約指輪はキラリと光る。婚約者は虎於ちゃんの左肩を抱きカメラにキラキラと光る指輪を見せ幸せそうに微笑むふたり。

    【ありがとうございます!では次2人の馴れ初め
    _ プツンッ 】

    「おい、天!」
    「龍みたくないんでしょ?」

    ほら、泣きそうな顔してる。隣に座っていた天がテレビを消し楽屋の鏡を指さした。楽屋に置いてある鏡で自分の顔を見るとそこには目頭に涙を貯め、アイドル、TRIGGER十龍之介には見えないほど弱々しい男が写っていた。
    いまの記者会見には俺の知らない虎於ちゃんがいて、俺じゃない男の人に優しくされて、2人で見つめ合って幸せそうで。正直見てるのがしんどくて、辛くて。俺の隣にいなくても虎於ちゃんは幸せそうにしていてそれが何だか虚しくて、悔しくて、悲しくて。なんとも言えない気持ちたちが俺の心の中を掻き乱した。


    ◾︎


    「っ、おい。なんでしっかり記者会見出来なかったんだよッ!!」

    彼のマンションの部屋にパチン!と乾いた音がした。その音が頬を叩かれた音と気づいたのは頬の痛みと近くなった地面を見た時だった。

    「ッ…」

    痛みが続く頬を抑え立ち上がる。そして彼に向かって震える声で一言、

    「ごめんなさい…」

    言い慣れてない言葉、もうこの人には何度も伝えた。

    「お前がもっとはっきりと、しっかりしないせいで俺の初舞台が台無しだ!!!分かってんのかよ!!!」
    「…ごめんなさい」

    怒鳴られ肩が大きく揺れ怯えてしまう。私を脅す男は大好きな龍之介とは似ても似つかない。欲にまみれ暴力を振るう汚く、醜い男だった。彼は父が決めた優しい誰もがうやらむような婚約者。だが、その正体は自分の所有者…つまり私を自分の隣に置き自分の地位を上げて気に入らないことは暴力で支配するような奴だった。彼は会長様で今日の記者会見で初めて人前に出たものだった。が、私が記者会見で動揺したり心ここに在らずと記者会見はグダグダ。一生懸命フォローをしたがそれも全て空回り、上手くいったのは最初のみだった。そのストレスが今こうやって私に向けられた。

    「謝るだけならガキでもできるんだよッ!!」

    パチンッッ

    「ッうぁっ!」

    大きく手を振り上げ私のことを叩く、痛さのあまり惨めにも床に蹲った。口の中が切れていてほのかに鉄の味がする。生まれてから1度も叩かれたり殴られたりはしたことない。いま、初めてそれを受けている。こんなにも痛いのか、こんなにも惨めで苦しいのか。叩かれ赤く腫れた頬を彼を抑え見上げた。

    「なに、睨んでんだよ…ッ!!」

    グッと私の前髪をつかみあげ、力いっぱい引き上げられる。痛み、悔しさ、悲しさで堪えていた涙が溢れそうになる。けれどそれよりもいまは龍之介に会いたかった。

    「お前は俺のモンなんだよ…隣でニコニコ笑って俺に従え」
    「…」
    「チッ、まぁ…態度は0点でも体は120点以上だし…なっ!!」

    ドサッと、勢いよくベッドに投げこまれた。
    いきなりのことで頭が回らず、

    (あ、いまから、襲われる。)
    そう思った時にはもう馬乗りにされブラウスに手がかけられており、胸元のリボンをしゅるりと解かれていた。

    「っ、いやだッ!!やめて!!いや!!」

    身を捩り、手足をばたつかせて必死に抵抗する。うるせえっ、とまた頬や体も殴られるがそれも受け入れ必死に体を守った。膝を抱え込むように丸くなり脱がされかけたブラウスをつかみ守った。そんななか思い出すのは、助けを求めるのは龍之介。龍之介の優しい手、優しい声。

    (龍之介以外とは、絶対…!!!龍之介っ!)

    「この、ックソアマッ!!」

    ゴスッと、体から鈍い音がした。それは今までより一段と力が強くうめくことしかできなくなる。
    痛い、苦しい、助けて。

    「ぁ"ッ!!…がぅ…、はっ、はァ、はァっ…!!」

    肩で荒く息をしなんとか落ち着かせようとするがそれすらも出来ないほど。奴は私を見下しながら再度ブラウスに手をかけた。

    「ゃ…め、…やだぁ…」

    震え力の入らない手でブラウスを掴み、涙を零した。1度溢れた涙は止まらず、頬とベッドシーツを濡らしていく。肩を震わせ目を瞑り涙を零す。なんて惨めで弱いのだろうか。

    (なんでこんな奴に…、助けて、助けて龍之介。)

    そのまま涙を零しながら意識を手放した。
    手放す前に見たきらりと光る左手の指輪は幸せの証なんかでもない、私を支配し縛り付けるものだった。



    「…ん"っ……ぃだい……」

    身体が酷く痛い。ぼんやりする意識の中虎於は目を覚ました。口の中に広がる鉄の味でさっきまでのことを思い出した。ガバッと起きがり身体を触り確認する。ブラウスはまだ虎於が身にまとっており服も乱れてはいなかった。あの後男は急な仕事が入り気を失った虎於の顔をもう一発叩き部屋を出た。不幸にもここは男のマンションだったため虎於は誰にも見つけてもらえず手当ても受けないまま今の時間まで放置されていた。殴られ続けた虎於の身体は服で隠れる場所が赤黒く、痣になっていた。少し動かすだけで身体は痛さで悲鳴をあげ虎於は蹲り呻いた。

    「ぁ"ッ……ふぅっー、」

    ひとつ深呼吸をし、ゆらゆらと力なくベッドから降りテーブルに置いてあった虎於のスマホを手に取りメッセージアプリを開いた。そこにはメンバーからの記者会見についてのメッセージや宇都木さんや珍しく了さんからのメッセージも入っている。指でスクロールしながら虎於は無意識に龍之介とのトーク画面をタップした。

    《 虎於ちゃんもう一度話そう 》

    《 何かあった? 》

    《 俺は虎於ちゃんと離れたくないよ 》

    《 虎於ちゃん、大丈夫? 》

    あの日以降の龍之介からのメッセージ。龍之介は毎日1回メッセージを送り続けていた。あんな酷いことをしたのに、酷い別れ方だったのに龍之介はまだ虎於を心配している。虎於の胸はギュッと締め付けられ苦しくなった。虎於はトーク画面をスクロールした。


    《 今度海に行こう!》
    《 楽しみにしている 》


    (ぁ、うみ……龍之介と海に行く話してたんだっけ)

    龍之介の故郷は沖縄。沖縄の海は透明に青く澄み渡り、砂浜は白く心を落ち着かせるんだ。と龍之介嬉しいそうに話していた。そんな龍之介をみて、虎於がいつか見てみたい。と言葉にした。自分の見ていた景色を虎於が見たいと言ってくれた。龍之介は笑顔で海に行こう!と誘ってくれた。沖縄の海は今すぐは無理でも近場ならいつでも連れて行ったあげられるから。そう伝える龍之介に虎於はうん。とこたえていた。

    (もう、いけないのか……)

    トーク画面が涙で滲む。ポタポタと、スマホの画面を濡らしていく。更にトーク画面をスクロールし会話を遡る。虎於の好きな映画の話や今度ŹOOĻで出演する番組の話、TRIGGERでBBQをした話。これからのことやこれまでのこと全てが詰まっている。震える指で虎於は龍之介のアイコンを長押しし、設定画面を開く。そこにはトークを《 削除 》《 非表示 》と言葉が並ぶ。虎於は削除を押した、否押そうとした。

    「ふぅ、ッ……う"っ……りゅうのすけぇ……」

    虎於は削除なんて、出来なかった。思い出の詰まった龍之介とのトーク。虎於は1人、また涙を流しながら蹲った。虎於は龍之介とふたりの幸せな姿を、幸せな思い出を思い出していた。


    ◾︎


    「今日は御堂虎於の結婚式……龍、どうするの?」
    「え、どうするって……」

    朝9時半。家で3人で朝ご飯を食べているとき、天が箸を置き俺をじっと見つめながら問いかけた。隣に座っていた楽も箸を止めてじっと見つめてくる。

    「もうこの機会を逃すと御堂は知らない男のモンになるんだぞ。」
    「……俺が、どうこう言える事じゃないよ…」

    あれからまた数ヶ月。ついに虎於ちゃんの結婚式の日が訪れた。虎於ちゃんの結婚式まで数時間、今日虎於ちゃんは俺じゃない誰かのお嫁さんになってしまう。
    引き止めたい、行かないでほしい、俺のそばに居てほしい。けど、どんなに思ってもこの結婚は虎於ちゃんが決めたことだから。

    「……ぁーーっ!!もう!!龍!!着替えて、用意して。」
    「へ、はいっ?!」
    「楽も、そして車回して」
    「おう!」
    「ま、待って!!何するつもりなの!?」

    声を荒らげた天が俺の腕を掴み椅子から立ち上がらせる。俺は話が見えなくて戸惑うことしか出来ない。もしかして、天、まさか__




    「いくよ、御堂虎於の結婚式」





    車を走らせること数十分。あれから着替えを済ませた俺たちは式場へと向かっていた。式場はそう遠くはない、新しくできて巷で有名なところだった。結婚式は両家の親族、芸能関係ではŹOOĻのメンバーとマネージャーのみが招待されていた。

    「天!行ったって俺たちは入れない!」
    「大丈夫、亥清悠に話を通してる。」
    「は、悠ちゃん!?」

    そう話してるうちに車は駐車場に着き、降りると虎於ちゃん以外のŹOOĻのメンバーが揃っていた。

    「あ、九条天……こっち!急いで!!」

    式場への入口で手を振る悠ちゃんを見つけ急いで向かう。悠ちゃんたちは控えめなドレスを着ており髪をセットしていていつもの何倍も綺麗だった。虎於ちゃんも、ウェディングドレスを着た彼女はきっと綺麗だろう。

    「ごめん、少し遅れたね」
    「大丈夫です、けど急がないともう始まりますよ。」

    時計を見ると時間は10時半前。結婚式は11時からです、と巳波ちゃんに言われた。時間はそう長くは無い、そのときトウマちゃんが口を開いた。

    「さっき控え室に行ったんですけど、トラの奴…泣いてたんです…」
    「え?」
    「声、かけられなかった。入ってきたのにも気づかないでさ。トラ……すげぇ綺麗だった。けど、幸せそうじゃなかったんだ。」
    「虎於、やっぱり十さんじゃないとダメなんだよ!十さん、虎於を迎えに行ってあげて」
    「御堂さんの運命の人は貴方ですよ。」

    そう俺に話す3人は虎於ちゃんの幸せを心から願っていた。そんな3人の姿を見てぎゅっと心が締め付けられた。虎於ちゃん、君は幸せ者だよこんなにも思ってくれる仲間がいるよ。

    「うん、3人共ありがとう。俺行くよ。虎於ちゃんに会いに。」

    待ってて、虎於ちゃん。
    俺の心にもう迷いはない、いまから君を連れ出すよ。





    午前10時55分。式が始まるであと5分。純白のウエディングドレスを身に纏う。目の前には大きく重たそうな扉、隣には父がいて目にはうっすら涙をうかべていた。

    「……父さんは、幸せ?」
    「どうしたんだ虎於?」
    「いや、なんとなく。」
    「父さんはな、幸せだよ。虎於が素敵な人と結ばれて幸せになるのが。」

    そう言い、私の手を優しく撫でる父。
    ねぇ、父さん。私、幸せじゃないよ。あの人に暴力振るわれて、好きな人と結ばれない。辛いよ、不幸だよ。そう言いたくても幸せそうな父を見ると何も言えなかった。私が耐えればみんな幸せなんだ、家族を安心させて幸せにされられる。けど、やっぱり、私は…

    「……父さん私__っ」

    ゴーンゴーンと、低い鐘の音がする。結婚式が始まる合図、私の小さな声はかき消されてしまう。

    「さぁ、行こうか虎於」
    「……はい。」

    微笑む父のの腕を掴みレッドカーペットを歩き始める。重く大きな扉が開かれた。もう、戻れない。

    ほんとにさよならだ。





    午前11時10分、ドタドタと俺たちは会場を走っていた。

    「トウマのせいだからな!!」
    「わ、わるかったって!!」

    トウマちゃんが案内してたはずなんだけど迷ってしまい時間は遅れ現在走りながらチャペルへ向かっていた。

    「あ、あそこです!十さん!」

    巳波ちゃんが正面の扉を指さした。大きく重たそうな扉、その向こうに虎於ちゃんがいる。扉の前に付き深く深呼吸をする。ドクドクの心臓の音が聞こえてくる。

    「…はぁっ、はあ…ゴホッ」

    全力疾走したから息は切れ髪も服も乱れている。正直こんな姿で虎於ちゃんに会っていいのか悩みすらする。

    「…龍!最高にかっこいいぜ」
    「大丈夫、龍かっこいいよ」
    「楽、天…」

    悩み立ち止まる俺の背中をバシッと、力強く背中を叩く2人。心強くて頼ましい。どんなに乱れていても2人に言われたらかっこいい気がしてきた。
    そして、最後に1つ大きな深呼吸をする。

    「よし」

    俺は扉に手をかけた。予想通り重たい扉を力いっぱい押し開けた。開けた扉の向こうには大きな十字架と祭壇、美しいステンレスガラスに綺麗な花々、純白の式場。けれど最初に目に入ったのは参列者の先にレースやパールが施され白くシンプルなウェディングドレスを身にまとった綺麗な虎於ちゃん。ステンドグラスから差し込まれる光を浴び長いベールを翻しながらこちらを振り返る虎於ちゃんは言葉を失ってしまうほど綺麗で、儚く美しい。

    「ッ虎於ちゃん!!!」

    俺は虎於ちゃんの名前を叫ぶ。静まり返った式場に俺の声が木霊する。俺という乱入者に驚く人がボソボソと話し始めるが止めるものはいなかった。もし止められたとしても俺は振り切って虎於ちゃんに向かっただろう。長いバージングロードを駆け抜け虎於ちゃんに歩み寄り、膝をつく。

    「りゅ、のす……けっ」

    突然のことに戸惑い、驚く虎於ちゃんに俺はそっと手を伸ばす。

    「虎於ちゃん、ごめんね。驚いたよね。けどね虎於ちゃん、俺は虎於ちゃんのことを心から愛してる、離れたくない。君を誰にも譲りたくない。…俺と一緒に来てくれますか?」

    伸ばした俺の手は指先から震えてしまう、もしこの手を取ってくれなかったら…。そう考えてしまった。しばらくしてポロポロと虎於ちゃんの流した涙が俺の手に落ちてくる。見上げると虎於ちゃんは涙を流していた。

    「ゎ、私も…愛してる…、
    ……龍之介、龍之介がいいッ!」

    俺の手を取り泣きながら伝えてくれる虎於ちゃんを俺は抱き寄せギュッと力いっぱい腕の中へ抱きしめた。

    「と、虎於!!」
    「おい、お前ッ!!」

    後ろからは虎於ちゃんのお父さんの声がする、隣からは婚約者の声。

    「……ごめんなさい。けど、私龍之介と幸せになりたい。」
    「虎於ちゃんッ……」
    「いこう、龍之介!!私、龍之介とがいい。」
    「っありがとう、虎於ちゃん!!」

    虎於ちゃんのことを抱き上げ駆け抜けたバージングロードを引き返す。扉の向こうから楽と天の行け!龍!と声が聞こえる、トウマちゃん達の声も聞こえる。そして都合よく後ろからの声は無視をした。俺達は扉に向かって走り出した。





    あれから俺たちは走って海辺にきていた。虎於ちゃんにどこに行きたい?と聞いたら

    「海。」

    と、まだ肌寒いけれども潮風は心地よかった。2人で手を繋いで浜辺を歩く。歩きにくいと虎於ちゃんは履いていたヒールを脱ぎ裸足で歩いていた。虎於ちゃんの足裏と真っ白い綺麗なウェディングドレスには砂が付き裾が汚れてしまっていた。

    「うみ…」
    「虎於ちゃん?」

    虎於ちゃんが俯き俺の後ろで足を止める。俺は振り返り虎於ちゃんを見つめる、繋いでいる手はしっかり握りながら。

    「龍之介との最後のラビチャ…海に行きたいって」
    「うん、覚えてるよ。」
    「……もう、行けないと思った。あんな酷いこと言ったし……酷い別れ方をした…っ」
    「俺は別れたなんて思ってないよ」
    「けど、私は……ごめんなさい……っ」

    肩を震わせ目からポロポロまた涙を零しながら俺に謝る。何も悪くないのに、謝ってしまう彼女を抱きしめ優しくキスをする。

    「…龍之介…!」
    「虎於ちゃん、俺は怒ってないよ。さっき言ったけど、俺は虎於ちゃんを愛してる。離れたくないし、誰にも君の隣を譲りたくない。これから先虎於ちゃんと喧嘩したりまた離れ離れになっても君を見つけ出して抱きしめるよ。」

    「龍之介…。私怖かった、アイツ殴られてこのまま恐怖で支配されていくのが、けど…」
    「待って虎於ちゃん、殴られてたの…?」

    殴る?虎於ちゃんを?いきなりのことに拳が震えて怒りが込み上げてきた。愛する人が、そんな酷いことをされてたなんてっ、

    「うん。けど、龍之介に会えない方が怖かった辛かった、苦しかった。…龍之介、私も、愛してる。龍之介だけを。これからまた離れ離れになっても迎えに来て、龍之介の隣は私だけがいい。」

    顔を上げた虎於ちゃんは涙を流しながら美しく笑う。辛い思いをしたはずなのに泣きながら俺の事を想い彼女は世界の誰より綺麗だった。

    「もう誰にも君を傷つけさせない、泣かせない。何者からも守ってみせる。俺のそばを離れないで。ずっと隣にいて。」
    「…っ、うんっ」


    俺はもう一度強く、強く虎於ちゃんを抱きしめた。海の向こうに沈む夕日には目もくれず虎於ちゃんを見つめ、唇を重ねた、


    ◾︎


    あれから2週間が過ぎた。
    あの後、虎於ちゃんと虎於ちゃんの実家に向かった。まずは両親へのご挨拶。いきなり連れ出したこと式を潰してしまったことに対しての謝罪。虎於ちゃんのお父さんからものすごい剣幕で怒られそうになったが虎於ちゃんが元婚約者から受けていた暴力のことを説明しその場を凌いだ。元婚約者に話を聞き事実を認めてもらいもちろん婚約は破棄、今後のお取引も無くなったそうだ。何とか許してもらえて事なきを得た。
    そして、今日俺は虎於ちゃんのご両親に挨拶に行く、あの日とは違う。虎於ちゃんと俺の未来について。

    「龍之介、緊張してる?」
    「う、うん……してる。」
    「ははっ、あんなことしたのにな」
    「あれはもう、無我夢中で!虎於ちゃんをっ」
    「っ、わ、分かったから!」

    虎於ちゃんはあの日のことで俺をいじるように掘り返してくるが俺が虎於ちゃんを譲りたくない、離したくないから無我夢中で式に乗り込んだことを説明したら虎於ちゃんは頬を真っ赤にさせ照れるようになった。今みたいに。俺の恋人が可愛すぎる。

    「龍之介なら大丈夫だ、母さんと兄さんは龍之介のことを気にってるしな」
    「ほんと!?嬉しいなぁ」
    「きっと父さんだって、龍之介の魅力に気づいてくれるさ」
    「そうだといいけど…」

    2人で話をしながら虎於ちゃんの大きく豪華な実家の扉の前に立った。
    緊張で心臓がとび出そうだ。そんな俺の手を虎於ちゃんが優しく握る。

    「龍之介、ひとつ言い忘れてた」
    「え、なに?」
    「龍之介、あの日来てくれてありがとう。…愛してる。」
    「虎於ちゃん、俺も愛してるよ」

    2人で扉を開ける。
    大丈夫、きっと2人でならこれから先何があっても乗越えていけるから。
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    😭👏👏❤😭👏💖💖💖
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