察しの悪い灰原「あれ?新人が灰原さんに絡まれてる?」
補助監督の控え室。元気に話す灰原とそれを戸惑った顔で聞く新人補助監督がいた。新人が心配で二人に近づこうとするとベテラン補助監督がそれを止めた。
「やめときなさい。あれは灰原さんの『七海さんの情報開示』をくらっているだけだから。彼女にとっての通過儀礼よ」
「え?」
「あの子が七海さんを好きなのは知ってる?」
知ってますとも、彼女が七海さんの担当の日に飛び跳ねて喜んでいたのも、私が担当の日に呪い殺されそうだと思うくらい睨んできたのも見てますから。
「好きな人のことを知りたいと思った時に、相手の横に自分の知ってる話しやすい相手がいたらどうする?」
「…偵察もしくは相談に行きます」
「でしょ?そしたら灰原さんは優しいから教えてくれるの。七海さんの住所氏名年齢電話番号好きな食べ物好みのタイプ読んでる新聞気になってるお店諸々」
「は…?」
「で、彼女たちはそれを手に入れた状態で七海さんにアタックしに行くわけ」
チートよねー、とベテラン補助監督は笑う。だけど。
「その結果七海さんはおとせるんですか?」
「逆に聞くけど、七海さんの恋人や奥さんの話をきいたことある?」
「…」
ない。呪術師にしては珍しく常識的な上に見目も良い。アラサーという適齢期なのに浮ついた話は一つもなかった。
「どれだけ情報をかき集めようと、七海さんにとってあの子たちは灰原さんの足元にも及ばないの」
あの子を慰めるのが近日中の私たちの任務よ、とベテラン補助監督は笑った。
***
灰原が七海に恋する乙女の心を折っている。噂の真相を確かめるべく五条は灰原に突撃した。
「灰原は七海の味方なの?敵なの?」
「味方ですよもちろん」
なんせ七海の同期ですからね!と胸を張る。見知らぬ相手に勝手に個人情報を流出させている同期は果たして味方なのだろうか。というかそもそも。
「…七海と灰原って付き合ってるんじゃないのか?」
「ないです!」
ないのか?じゃあ俺が七海から聞いてきた惚けはなんだったんだ?
「え?でもお前ら、やることヤってんだろ」
「セックスですか?はい!それが?」
「それが?じゃなくて…お前どんな心境で抱かれてんの?」
「七海かっこいいなって思ってます!」
おい、それはただの両思いじゃないか。
「そこまでしておいてなんで付き合ってないんだよ…」
というかなんでそこまでしておいて女をあてがおうとしてんの?
「七海にとっては性欲発散なだけだと思うんで、五条さんが考えてるような関係じゃないですよ」
これを少しでも寂しそうだったり悲しそうだったり、負の感情で言ってるならまだ片想いなのかな…本当は両思いなんだけど…と思う余裕もある。しかし灰原のそれは「七海は米よりパンのほうが好きですよ」と言う時と同じテンションだった。
「これどうすりゃいいんだよ…」
「?」
頭を抱える五条の心境がわからない灰原は、いつかのように軽く頭をかしげるだけだった。
***
灰原
人が好きだが人の気持ちを察するのは苦手。なので自分の気持ちにも気がついていない。情報提供は100%善意。
七海
言葉も行動も伴っているのにわかってもらえなくて頭を抱えている。
五条
夏油が離反していないので一人称は『俺』