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    まどろみ

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    まどろみ

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    七灰。タイムカプセルを開ける話。メリバ

    #七灰

    タイムカプセル≒恋文珍しくもない五条の呼び出しに応答し二つの箱を持って帰宅した。片手で持てるくらいのサイズのそれはタイムカプセルだ。手渡されるまですっかり存在を忘れていた。十年前の今日、先輩の思い付きがきっかけで作ったものだった。一つは自分のもの、もう一つは…同級生の灰原のもの。「本人がいないから仕方ないだろ」という彼の手には、取りに来れない人間の分を含めて二つの箱があった。差し出されたものを固辞しようとしたが「それはお前が開けるべきだ」と家入にまで言われては持ち帰るしかなかった。
    手始めに自分の名前が書かれた箱を開ける。中には手紙と当時好きだった作家の文庫本が一冊。手紙には当たり障りのない文章が羅列されており、すぐに読み終わってしまった。当時は自分でこれを読むとは思ってなかったのだ。呪術界という万年人手不足のこの業界、後ろ盾のない身では早々に切り捨てられるだろうと。だから誰に見られてもよいものにしたのだったと当時を振り返る。後ろ向きな気持ちで作ったものに哀愁や懐かしさなんてかけらもない。というより、手渡された時からもう一つの箱にしか意識は向かなかった。唯一の同級生、灰原雄のタイムカプセル。これを作った数か月後には儚くなってしまった彼だが、未来の彼自身に一体何を残したのか。勝手に見てしまうことへの謝罪をしつつ彼の分の箱を開ける。中に入っていたのは手紙と旧式の携帯電話と充電器。これを作る少し前に新しい機種にしたんだーと言っていたな、と当時を振り返る。随分昔の話なのに、彼のことならすぐ思い出せてしまうことに苦笑する。携帯を充電し電源を入れると暗証番号四桁を求められた。彼にプライバシーやセキュリティなんて概念があったのかと驚きつつ誕生日や身長など知りうる情報を入れるがどれも違うようではねられてしまった。仕方なく見るのが怖くて後回しにしていた手紙を開封する。一枚の紙には、懐かしい彼の筆跡で僕の好きな食べ物を英語で!とだけ書かれていた。彼の好きな食べ物、米だ。それが何だ…と考えているところに携帯が目に入る。暗証番号は数字だとばかり考えていたがどうやら違ったようだ。無事ホーム画面に移り、操作しているとメール欄の中に一件の未送信の下書きを見つけた。


    ***


    すぐにとけたかな?こんなと
    きに面倒なことを
    なんて思わないでください。この間の依頼
    人が教えてくれたんだ。これ
    が無事に読まれるといいな。そうそう、無理だけはしないよ
    うに!こ
    まったことがあったら一人で悩まず周りに頼
    ればいいからね!今度感想聞かせて。ま
    た会える
    ひを楽しみにしています。 灰原雄


    ***


    文章に妙な違和感があるが十代の手紙なんてこんなものか。いや、灰原は発言はともかく報告書などの文章は定型通りに書けたはず。一体何が…と考え始めたところで違和感の正体に気が付いた。タイムカプセルをもらう前の雑談で家入の発言だったか『こういうの流行ったよな』と彼女にしては珍しい話題。慌てて灰原の携帯を掴み震えた手で自分の誕生日を入力する。ロックが解除された後に先ほどとは違うホーム画面が現れた。メールや履歴などを確認したが何もなく、見れるものといえば壁紙に設定された画像内の文字列だけ。最初の一行が目に入ってから意識的に見ないようにしていたそれを覚悟を決めて読むことにした。


    ***


    七海へ
    これを読んでくれているということは、僕はもうこの世にはいないのでしょう。こんな性格だから七海より早死にするだろうなって覚悟はしています。死人に口なしだと思うでしょうが、死んでからしか言えないことなので許してください。

    好きです。友人としてはもちろんだけど、僕は七海に恋をしています。

    驚いたよね、ごめん。気持ち悪いなって思ったら携帯ごと捨ててしまってかまいません。ただ、死んだ後ならこの気持ちを伝えてもいいかなって思っただけです。返事は万が一僕が生きていたとしてもいりません。
    十年後の七海はきっと、たくさんの人に囲まれて文句を言いながらも楽しくやっていると思います。僕のことは忘れてどうかお元気で。 灰原雄

    P.S.
    もしかしたら生きてる僕へ。この携帯は早く処分してください。


    ***


    縦や斜めに読んでも別の意味などない文章に唇を噛み締める。彼は将来これを七海が読むと確信していたのだ、万人向けに用意した自分と違って。しかもその内容が告白とは何の冗談か。伝えることは叶わなかったが、自分も恋をしていた。いや、いまでも愛している。
    「君のいない世界で楽しくなんかやれるわけないのに…」

    最初で最後の彼からの恋文を壊さないように握りしめた。


    ***


    一枚目も七海宛

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