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    まどろみ

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    まどろみ

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    七灰。察しの悪いシリーズが完結した。ハッピーエンド

    #七灰

    察しの悪い灰原3呪術界の忘年会、灰原は高専教師として、七海は呪術師としてそれぞれ参加していた。会場も温まり代わる代わる人が動き出した頃、灰原の隣に神妙な面持ちの七海が座った。

    「灰原、飲んでるか?」
    「飲んでるよ〜。七海はどう〜?」
    「人並みには」
    七海は人より酒が強いためちょっとやそっとじゃ酔わない。対して灰原は量は飲めるのだが普通に酔いはするタイプだった。現に顔は紅いし口調もいつもより間延びしている。だが長年の付き合いで七海は知っている。どれだけ酔っても彼が意識を飛ばしたり記憶を無くしたりしないことを。
    だからこそ、今日という日に仕掛けることにしたのだ。七海はある覚悟を決めていた。

    「灰原は結婚する予定があるのか?」
    「え?ないよ〜?突然なんで?」
    「いい人がいるのか、気になって」
    「ないよ〜!それを言うなら七海でしょー?」
    「それこそ誤解だとこの間言っただろう」
    職場で友人代表のスピーチ原稿を書きだした時はやめさせるのに苦労した。ちなみにその時の原稿はこっそり保管している。灰原からの言葉は紙一枚でも逃したくないからだ。
    「なんで『ない』って言い切れるんだ?」
    「んー?七海より好きな人はいないからねー?」
    そこまで想ってくれているのになんで恋とか愛とかに辿り着かないんだ!
    「…灰原」
    「なーに?」
    「病める時も健やかなる時も、私たちは一緒にいたな?」
    「うん。僕の大怪我の時に七海は側にいてくれたし、七海が会社員の時は僕が差し入れしてたよねー」
    灰原に怪我を負わせた罪悪感から七海は一度呪術師を辞めた。そんな七海を気にかけた灰原が家の前で差し入れの料理を持って待つことが多発し、それ以降復帰してからも彼には合鍵を渡している。
    「私と一緒の家で暮らすことはできるか?」
    「できるんじゃない?寮の時と大して変わんないでしょ」
    「まあ、確かに」
    衣食住を共にすることに対するハードルは低いようで安心した。確認することは終わったから、あとは言質をとるだけだ。

    「結婚しよう」
    「できないよ」
    堂々巡り。と誰もが思ったが今日の七海は違った。気がついたのだ。『嫌だ』とは言っていないということに。
    「確かに今は同性だと結婚はできない。だが伴侶と同等の扱いをするとお互いが誓って周知を済ませれば結婚と同義だろ?」
    「そうなの?」
    「もし形にこだわりたいなら海外に行ってもいい。だけど米が好きなら日本にいたほうがいいだろう?」
    「うん」
    「結婚と大仰に言っているが要は契約だ。私は死してなお君を愛すると誓う。灰原、君は?私に何なら誓えるか?」
    「…」
    黙り込んだ灰原を固唾を飲んで見守る。ここまできて逃げるのは無しだ。

    ***

    どう答えようか、と灰原は頭を巡らす。彼は人が好きだ。だけど、人の気持ちを察するのは昔から苦手だった。…自分の気持ちさえも。
    (僕は…)
    七海の側にいられるならなんだってしてきた。リハビリして動けるまで回復したし、呪術師を辞めた彼の顔を見にこまめに家に通ったりもした。好きな人の話を聞いた時も、自分にできる事は何か頭をフル回転させて行動した。
    (まあ、空回りだったわけだけど)
    ただの早とちりだったようで、結婚の予定なんかないと言われて安心したのはつい先日の話だ。
    (…?安心…?)
    そう、安心したのだ。七海に結婚を考えるような人がいないことを知って。
    なんでだろう?悔し…くはない。ならなんだろう、寂しい、悲しい。なんで?喜ぶべきことなのに。仮にこれが夏油や五条の話だったら?相手は聞くまでもなくわかってるから、おめでとうございますと祝いの言葉を伝えて、式には呼んでくださいねなんて軽口を言ったりして。そんな光景が簡単に想像できるのに、七海に置き換えた途端わからなくなった。
    (僕は、七海の結婚を祝えない)
    彼の隣にいるのはいつだって自分一人でありたい。
    (ああ、そうか)
    好きなんだ、七海のことを。誰にも渡したくないくらいに。
    (なら、誓う事は一つしかない)
    深呼吸をして翡翠色の目を見据える。すっかり酔いは覚めてしまった。七海もきっと同じだろう。覚悟を決めて彼の手を両手で包み込んだ。
    「僕は、灰原雄は、七海と死してなお共にいることを誓います。好きだよ、七海。ずっとずっと。…僕と、結婚してくれる?」
    「もちろん」

    抱きつかれると同時に、周囲から拍手喝采を浴びた。
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