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    まどろみ

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    まどろみ

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    七灰。転生if。灰は記憶あり、五、夜は記憶なし、七は…?
    七のイマジナリーフレンド灰の話。

    #七灰

    非実在少年(実在)七海建人二十五歳、モデルから子役を経て今はピン芸人という異色の経歴を持つ。五条の事務所の後輩でもある彼は業界では常識人として知られているが、一方で業界一の変人と呼ばれることもある。その理由は彼の芸風。
    「灰原も笑ってないでなんとか言ったらどうですか…まったく」
    とある番組の雛壇。七海はいつものように何もない隣の空間に話しかける。その場にいるのであろう『灰原』に向かって。
    お笑い好きか七海のファンなら知らないものはいない七海の相方『灰原雄』は、七海の想像上の存在…いわゆるイマジナリーフレンドだった。

    七海の芸能界入りは三歳、子供モデルが始まりだった。既に同業で活躍していた五条から見た彼は、見た目は派手だが気難しい、つまらない奴という印象だった。あの日までは。
    きっかけは数年後、特別番組内の二時間ドラマ。その年は子役が多く必要だということで、小学生になったばかりの五条たちもオーディションに駆り出された。現場で監督が人が亡くなって悲しい演技をしろという無茶振りをしたのだが(こっちは演技のイロハも知らんガキだぞ)即興で七海は答えてみせた。「はいばら」と叫びながら。
    結果採用されたはいいものの、泣きの演技は灰原と叫ばないとできなかったらしい。案の定ドラマの裏側に迫る番組で「ハイバラって誰?」と指摘されることになる。

    「はいばらは僕の同級生です。今もここにいますよ」

    これが地上波での灰原デビューの瞬間だった。当然だが、七海が指し示す方向には誰もいない。
    これには老若男女皆驚いた。実際五条も驚いた。関係者や視聴者の間で考証がされ、皆一つの結論に達する。『先日のドラマで七海建人はイマジナリーフレンドが亡くなることを想像して泣いた』のだと。
    最初は腫れ物に触るような話題も、七海のトーク力のおかげで笑いへと変化した。面白かったのだ。七海と灰原の掛け合いは。真面目な七海に対して天真爛漫(らしい)灰原は場をひっくり返すような言動を取る。それに振り回される七海という構図を、彼は一人で見事に表現した。

    七海が十代半ばになる頃には彼の掛け合いは漫才として認知されるようになった。七海の表現力のおかげもあるが、七海から伝え聞く灰原像が嫌にリアルだったのだ。
    灰原雄。十七歳。癖のないツーブロックの黒髪に短ラン姿。大きな瞳が印象的な好青年。
    真面目な人間が語る空想に、やれ怨霊だから祓えだの守護霊だから崇めろだの周囲が好き勝手言った時期もあったが、七海は実力で黙らせ今も灰原と共にいる。永遠の十七歳の灰原雄と一緒に。

    ***

    だが流石にやりすぎではないか。イマジナリーフレンドとは皆幼少期に別れを迎えるものである。彼の心の健康のためにもなんとかすべきだ、という声が事務所で上がることが増えた。今日だって、そのための会議に昔馴染みの五条も駆り出されている。本人がいいならいいじゃねえか、帰りてえ。話を半分も聞いてない五条の前で賛成派と反対派で激論が交わされていたその時だった。

    「社長!」

    夜蛾社長を呼ぶ声は七海のものだ。今日から一週間の休暇で海外ということでこの会議も行われているのに、なんでここにいるのか。答えはすぐにわかった。

    「七海か、どうした」
    「紹介したい人がいるんです!」
    いつもより興奮した様子の七海の後ろから、一人の少年が現れた。
    「こんにちは、灰原雄です。よろしくお願いします!」

    ***

    七海のイマジナリーフレンドが実体化した。
    事務所は大騒ぎになり、会議室には社長と五条、七海と少年だけが残された。
    「え?マジ?」
    七海の隣に立つ少年を頭のてっぺんから足のつま先まで凝視する。十代半ば、ツーブロックの黒髪、いつも七海が視線を向ける位置にある大きな瞳、短ランではなくパーカーにジーンズというシンプルな格好だが、間違いなく七海が常に口にしていた灰原雄その人だった。
    「解釈一致じゃん…」
    「あまり見ないでください。灰原が減る」
    「うわあ…」
    昔から灰原に親愛と信頼を寄せていることは知っていたが、実体化したことによりそれが顕著になったようだ。成人男性が少年をテディベアのように抱き抱える姿は下手すれば事案だ。だが抱き込まれた灰原も「減らないよ」と七海を嗜めるだけで嫌がる様子はない。その掛け合いは、いつも七海がやっているコントが具現化している状態だった。

    「七海、海外での休暇はどうしたんだ?」
    「中止にしました」
    社長の質問に即答する。なんでも、休暇のために向かった空港で来日したばかりの彼を見つけたらしい。というのも灰原は両親共に日本人だが生まれてからずっと海外におり、今日はじめて日本の地に降り立ったのだという。
    「ん?待て、灰原…くん?いま何歳だ?」
    見た目通りと言えばそれまでだが、念の為と夜蛾が確認する。
    「呼び捨てで構いません!今年十六になります!」
    「ということは七海と十歳差か…あれ?」
    すぐ違和感に気づいてしまった。
    「七海がドラマに出た時まだ生まれてないじゃん」
    七海のイマジナリーフレンドの存在が世に出始めたのが六歳の時、七海の脳内にいたのは多分それよりも前から。その頃十歳年下の目の前の彼は…この世にいない、いたらおかしい。となるとこの子は、七海のイメージに合わせて産まれてきたのか、産まれてくるのを七海が待っていたのか。
    「で、ご家族はいま何処に?」
    「日本に帰ってきたのは僕だけです。高校進学のために帰国したので」
    なるほど。だからこそ七海に捕まってここにいるわけだ。
    「お迎えとか大丈夫?七海誘拐犯にならない?」
    「問題ないです!親戚も特にいないのでしばらくホテル暮らしなんで」
    「それは大丈夫なのか…?」
    未成年一人で思い切ったことをさせるものだ。
    「寮が開くまでの数日だけですし」
    「一緒に暮らそう」
    七海が抱えていた手を離し灰原の肩に置く。
    「え?」
    「手続きなら問題ない。私がなんとかする」
    「いやだめだろ」
    相手は未成年だ。数日はなんとかなってもその先…学生生活に赤の他人が介入するのは難しい。それをわかっていないのは七海だけのようで、夜蛾も、灰原さえも渋い顔をしていた。
    「灰原?」
    「断る!…って言ったら?」
    七海の顔が般若になった。
    「…うん、お願いしようかな」
    それがいいと思う。灰原が空気が読める子でよかった。申し訳ないが、業界の平和は君にかかっている。
    「親御さんには俺から連絡しよう。灰原くん、いいかな」
    「はい!…七海、これからよろしくね」
    「これからも、だ」
    「…うん」
    周りの心配など知らず七海は表情筋を緩ませている。周りに花の幻覚が見えはじめた。夜蛾と五条はアイコンタクトをとり、事務所の後輩を犯罪者にしないために権力をフル活用することを決意する。正直、それが良いことなのかはわからないけれど。
    「七海、今までのことゆっくり聞かせてね」
    「ああ。灰原のことも教えてくれ」
    「もちろん!」
    本人たちが幸せそうなので、きっと正解なのだろう。

    七海がピン芸人から漫才コンビとして世間に認知されるようになるのは、そう遠くない未来の話。


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