紙の中の恋灰原雄は人がいい。人望も厚く、頼み事は余程のことがない限り断らない。
「デッサンのモデルになってほしいの」
普段接点のないクラスメイトからの提案にも灰原は即時に快諾した。
「いつやるのかな?」
「今日の放課後はどう?」
「OK」
***
「というわけだから、今日は一緒に帰れないんだ」
「私も見学したいのですが」
「集中力切れるから二人きりでしたいの」
「!?」
「別に灰原くん狙ってるわけじゃないからね!?安心してね!?」
「………」
「七海」
「…わかりました」
***
放課後。なんとか七海を説き伏せて教室で二人になった。
「それじゃあ、今から始めるから、楽なポーズになって、動かないで」
「うん」
椅子に座り足を開き股の間に両手を置く。動かないで、と言われて安定できるイメージがこれだった。クラスメイトはあでやかな動きで鉛筆を走らせる。書き上げては破り、書き上げては破りを繰り返し、画用紙が教室の中を舞っていた。
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