灰に『お兄様』って言わせたかったとある朝のこと。
任務のため最強二人は朝帰りで後輩二人は日付を跨いでの帰還。皆睡眠不足の状態だというのに朝イチで合同授業のため校庭に集合していた。
「襟が曲がっているよ」
「ありがとうございます、お兄様」
夏油が学ランの襟を整えて灰原がお礼を言う。なんてことはない光景だが側にいた二人は聞き逃さなかった。
「「お兄様??」」
「ああ、中学の時の癖で」
「懐かしいですね」
眠気のせいか、普段より夏油の雰囲気が柔らかい。それにつられたのか灰原もいつもよりぽやぽやしている。
「二人は同じ中学だったんですか?」
「そうだよ!」
「いや中学が一緒だからって兄弟にはならんだろ」
五条のまっとうなツッコミに夏油はやれやれと当たり前のことを教えるように答える。
「兄弟(フレール)制度っていうのがあってね、端的に言えば兄にあたる先輩が弟にあたる後輩を指導することなんだけど」
「夏油さんが僕のお兄様だったんです!」
「校内で呪霊を祓ってる灰原を見かけて私から声をかけたんだ」
「黄百合様に声をかけられてびっくりしました!」
「黄百合様?」
次から次へと聞きなれない単語が耳に飛び込んでくる。高専に来るまで孤高の存在だった五条にとって未知の世界だった。
「生徒会役員は百合の名を関した役名が与えられるんです。夏油さんは黄色の百合だから『黄百合様』って呼ばれてました」
「私の弟になったことで灰原も『黄百合の弟』になったけどね」
和気藹々とした空気の中、何の前触れもなく七海が夏油に頭を下げた。
「お義兄さん、弟さんを私にください」
「誰がお義兄さんだ」
突然始まった結婚の挨拶に五条はあることを思いつく。
「つまり、俺が傑を娶ればみんなで兄弟になれる…ってコト!?」
「悟も落ち着こうね」
数分後、徹夜明けの家入によって全員眠らされた。