ちょっとしたパーティうららかな春のある日。男嫁三人は五条邸の中庭でお茶をたしなんでいた。
「灰原に頼まれて『ちょっとした宴会』を開いてはみたものの、これでいいのかな?」
「多分…?」
テーブルには色とりどりの洋菓子が並び、紅茶は後ろに控えている女給が注いでくれる。服装も夏油や灰原はもちろん、虎杖にも灰原の手持ちの中でも格が上の物を着せたから問題はないはずだ。
「五条さんに『悠仁たちの年代ならちょっとしたパーティに誘われることもあるかもね!』と言われたので慌てて夏油さんに主催をお願いしたんですが…僕は呼ばれたことがないので正解が分かりません」
「私も、得意先に頼まれてちょっとした宴会用の着物を仕立てたことはあるけど、現場に行ったことはないね。…それにしても」
夏油は灰原から虎杖へと視線を移す。
「君の特訓のための会だってこと、わかってる?」
「ふへ!?」
大口で菓子を頬張っていた虎杖は話を振られたことに驚きむせる。灰原が背中を撫で紅茶を飲むことで持ち直した。
「こんなでかい家にお呼ばれしたのはじめてで頭真っ白っす!あとこのお菓子めっちゃ美味しい!」
「ショートケーキだね。というかしっかりしなよ。禪院家の嫁の呼ばれる宴会なんてこんな小規模じゃすまないんだから」
はあ、とため息をつくが虎杖はあまりピンと来ていないらしい。その原因は灰原にもあるだろうから、虎杖だけを責めることはできない。
灰原は旧家とは言え没落貴族。上流階級との交流はまずない。というか七海の性格からしてしがらみのある家同士の交流などは極力しないだろう。あの家では礼儀作法は勉強できても実戦経験ができるとはとても思わなかった。
「私も人の多い所は好きではないし、悟は破天荒で全然参考にならないからねえ」
どうしたものか、と夏油は頭を悩ませるが、当の本人も教育係も気にしていない。しばらく考えた末、開き直ることにした。
「紅茶は口にあいそう?」
「はい!美味しいです!」
「良かった、ミルクティーにもできるけど、どうする?」
「いただきます!」
顔見知りしかいないちょっとした宴会の時間は和やかに過ぎていった。
(これは宴会ではなく茶会ですね…)
付き添いで来ていた伊地知は虎杖の教育計画を見直すよう七海に進言しようと決意した。
***
「今日傑が『ちょっとしたパーティ』を開いているらしいんだけど」
「はい」
「呼ばれたことある?ちょっとしたパーティ。俺はないけど」
「五条さんは家柄が上すぎて呼ぶなら『ちゃんとしたパーティ』にしなきゃいけないんでしょう。私の家は母が色々やらかしたおかげでパーティの招待状は届きません」
「パーティってなんですか?」
花婿たちもこの様子なので、正解がわかる者は誰もいなかった。