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    まどろみ

    @mdrmnmr00

    皆様の七灰作品が見たいので書いてます

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    まどろみ

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    七灰。大i正パロ。自i己認i識の齟i齬

    #七灰

    自分が可愛い系だとは欠片も考えていない灰灰原の旦那様は多忙だ。業務内容によっては職場に泊まり込むこともよくあり、連泊の際は灰原が着替えや差し入れの弁当を持って行くようにしている。そんな仲睦まじい夫婦に対して面白くないと考える上官たちの中にはわざわざ本人に嫌味を言ってくる輩もいた。
    「鬼の高官殿は所謂可愛らしい殿方が好みのようですな」
    要は男なのに嫁なんてという見下しなのだがそこは爵位持ちの家の出。すました顔でやり過ごし家路へ着いた。…ように周囲からは見えただろう。だが実際は逆だった。
    (僕は全然七海好みの男じゃないってこと!?)
    先方の言葉の意図を盛大に誤解した灰原は帰りの馬車の申し出を断り大通りを駆け出した。

    ***

    灰原がまっすぐ向かったのは銀座にある夏油の所だ。店の主である彼は突然の訪問であるにも関わらず一番奥の部屋に案内し茶を出してもてなしてきた。一息ついたところで灰原は本題を切り出す。
    「僕、どうやったら七海好みの可愛いお嫁さんになれますかね!?」
    「…色々言いたいことはあるけど、なぜそれを私に聞くんだい?」
    自他ともに認める塩顔美男子に聞く話ではないだろうと言外に伝えると予想外の答えが返ってきた。
    「夏油さんが僕の知ってる男性の中で一番可愛いからです!」
    「おっと?」
    どういうことかと夏油は居住まいを正す。こうした突拍子のない事を言う所が面白く妾にしてもいいなと考えた理由の一つではあるが、今の話は聞き流せそうになかった。
    「一応私は灰原の元婚約者で、旦那様最有力候補だった男だよ?」
    「僕だって嫁とはいえ男です!事前に選べるなら旦那様は可愛い方がいいじゃないですか!」
    「それは…まあ…そうかな…?」
    脳裏に自分の旦那の顔を浮かべてみる。…確かに可愛いから許せている部分も多々あるな、と妙に納得してしまった。
    「ええ!ですから夏油さんに可愛いの秘訣を伝授してもらいに来ました!」
    目を輝かせてこちらを見つめてくるが自分に教えられることは何もない。あと気になったのだが…。
    「灰原、まさかとは思うけど、自分の事を美人系だと思ってる?」
    「可愛いか美人かの二択なら美人一択だと思ってます!伊達に『灰原家の妖狐』と呼ばれてないですから!」
    「その話詳しく」
    これは面白い話が聞けそうだと机上の鈴を鳴らし女中に追加の茶と菓子を頼んだ。

    ***

    「夏油さんは、灰原家がどんな成り立ちの家かご存じですよね?」
    「もちろん、婚約者の身元調査は基本中の基本だよ」
    灰原家はとある舞の流派の家元であり、それが動乱の時代を経ても家が存続している理由だ。女と子供しか舞うことを許されていないそれは過去には大奥の女性たちの教養と娯楽として繁栄していた。
    「城に通いで教えに行くからという理由であんな一等地に土地家屋もらってしまって、そんな経緯だから下手に手放せない。全く困ったもので…すみません、話を戻しますね。そんな流派だから僕も子供の時に一通り習得したんです。で、僕の舞を見た人たちからはよく『艶がある』『色っぽい』って褒めてもらえて、傾国の表現は母より上手いと絶賛されてたんですよ!」
    「へえ」
    「昔取った杵柄というやつですけどね」
    あははと笑いとばす灰原に夏油はものは試しにと聞いてみる。
    「私の前で舞うことはできる?」
    「ダメですよ!あれは女性と子供が自身の幸せと家の繁栄を願う舞なんですから!男の僕じゃダメです!」
    規定として女性と子供しか踊れないという。だが、明確に『男だから踊ってはいけない』とは言っていない。とすると…
    「じゃあ『嫁』という家庭で女性的役割を果たす灰原が、七海の上司をもてなすという『家』のために踊るというのは?」
    「え…?」

    ***

    「七海、お前、今日は定時退勤してから俺ん家集合な」
    「お断りします」
    「さっき電報で傑と灰原が俺ん家で晩飯作ってるって言…」
    「行きます」
    「…お前、いい性格してるよな」
    「恐縮です」
    「褒めてねえからな?」

    ***

    「…で、何を企んでいるんですか?」
    「バレた?」
    「バレバレです」
    定時で上がり上司の家に来たものの、上司夫婦は四六時中ニヤニヤしているし自分の嫁に至っては食事を早めに済ませて席を立つ始末。何事かと考えていると庭へと連れてこられた。
    「舞台…?」
    「そ」
    現七海家より大きな庭には大きな松の描かれた舞台が鎮座していた。
    「流石御三家、と言ったところでしょうか」
    「早く座れよ、始まるぞ」
    縁側に置いてある座布団に座ると黒子が楽器を奏でだす。しばらくして現れた舞手が誰か、面をしていてもすぐにわかった。
    「灰原…!」
    「しっ」
    立ちあがろうとするのを素早く五条に制される。神聖な舞台を妨害してはいけないと座り直して視線を灰原へと定めた。軽やかな足取りで舞台の中を舞い踊り袖や扇で感情を表現する様は普段家で見る姿からは想像できない、傾国の美人がそこにはいた。

    ***

    演目が終わり黒子集団が撤収していく。灰原も着替え終えて合流したが、俯き黙り込む七海はそのことに気づいていないようだった。
    「あの、旦那様…?」
    「おい七海?大丈夫か?」
    五条に肩を揺さぶられて顔を上げる。心ここにあらずな様子に灰原は不安になった。
    「ダメでした?僕の踊り?」
    「いえ、素晴らしかったです。家の庭に舞台を建てるためにどの業者に依頼するか考えるくらいには」
    「そんな事考えてたの!?」
    突拍子のない発言に驚く。
    「っていうか庭を潰すのはダメだよ!僕の畑があるんだからね!」
    折角築いた趣味の空間を壊されてはたまらない。
    「では離れを解体しましょうか」
    「寝るとこ無くなっちゃうよ!」
    「本館に寝室があるでしょう」
    「ベッドの部屋だよね!?落ちそうで怖いから嫌なんだけど。っていうか本当は僕が踊るのは規則違反だからダメだよ!」
    「そこをなんとか…」
    「ダメだよ!」
    ゲラゲラ笑う上司たちに見守られながら夜は更けていった。


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