やんのかステップご都合呪霊により七海が猫になった。
耳や尻尾だけなんて生半可なものではない。顔つきも毛並みも全て完璧な猫である。人であった頃の名残といえば大きさくらいだ。
ここに184センチの猫が爆誕した。
「おっきい猫さんだねえ」
「ニャー」
人間の言葉が話せないのか、人間の頃の記憶がないのか、その両方か。灰原に寄り添う姿は184センチの巨体であることを除けば完全に猫だった。
「軽く検診したけど特に異常はないな。時間が経てば戻るだろ」
「よかった、ありがとうございます!」
猫を医務室に入れるわけにはいかないとわざわざ校庭に出てきてくれた家入は「戻ったらタバコ、カートンでな」と言い残し颯爽と去っていった。
「…これからどうしようか?」
「ニャー」
首元を撫でると心地良さそうに目を細める。動物の知識がない灰原は猫の恋人をどう扱えばいいのか考えあぐねていた。
「この大きさじゃ家に帰れないしね。…うちペット禁止だっけ?」
「ニャッ!」
尋ねると目がキリッとなり声音も固くなる。覚えていないのか、という呆れとペットは禁止ですよ、という忠告だと灰原は判断した。
「じゃあ今日は一緒に高専に居ようか」
「ミャア!」
一緒にと言う言葉に反応した七海はゴロゴロと喉を鳴らしながら灰原に頬擦りをした。
「硝子から聞いたけど本当に猫になってるー!」
木陰でのんびりしていた一人と一匹の所に五条と彼の担当する生徒たちがやってきた。
「この猫ナナミン?すげー!でけー!」
「品種はなんだろうな」
「もふりたい!」
「シャッ」
五条が両手を広げ触ろうとすると七海は毛を逆立てた。それでも引かない五条に七海は尻尾で灰原を確保した上でステップを踏みながら後ろに下がる。
「やんのかステップ!生ではじめて見た!」
「180センチ超えた猫のやんのかステップはもう怪異でしょ」
生徒たちは危険を察知して巻き込まれない所に移動する。それを確認した五条は七海(猫)と改めて向き合った。
「そこまで嫌がられると逆に引けないよね」
「シャー」
「あの、七海、下ろして!!」
猫と最強の攻防は七海が人間に戻るまで続き、報告書を書くことになった伊地知は「やんのかステップで校舎の一部が崩壊しました」の文言を入れるかどうかで頭を抱えることになる。