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    tennin5sui

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    ゆるゆる果物版ドロライ:お題「ハロウィン」

    今日あたりでモブが出張るのもおしまい、のはず!

    #ハロウィン
    halloween
    #マリビ
    malibi
    #ゆるゆる果物版ドロライ
    looseFruitVersionOfDololai

    第六話 校庭に城ができたんだってよ。
     どこからか伝え聞いてきたように語る口調で、詰まらない冗談を友人の佐藤が言うのは珍しいことではないので、何ができたって?と一応聞き返した。
    「だから、城がだよ」「シロってなんだよ」「城は城だよ。キャッスルだよ」
     不毛なやりとりになりかけたのを察したのか、佐藤は焦ったそうに、いいから来いっての、と乱暴に俺の手を引っ張った。
    「どうせまた公園行くんだから、今出かけたって一緒だろ」
    「一緒じゃない。宿題終わってからじゃないと大変なんだよ」
    頭いいんだから、帰ってすぐやれば終わるだろ、という理屈で押し切られるのは目に見えていたが、常に佐藤の行動に素直に付き従っていたら身を滅ぼす。なので、度を越した要求をされる場合は、行動の責任の一端はお前にあるんだぞ、という釘を刺すようにしている。なお今回、佐藤は「宿題なんて、昼休みまでに職員室のノートの束に紛れ込ませておけばバレねーんだよ」と、想像していたよりも邪悪な考えを披露したが、なんとか寝る前までに取り組んで宿題を終わらせたことを名誉にかけて述べておく。

     引っ張ってこられたのは校庭の隅の、一度授業で使ったきり万人から忘れ去られている百葉箱のそばだ。百葉箱を城に見立てて遊んだことは確かにあったが、まさかこれのことではないだろうな、と不審な視線を投げかけたところ、ここだ、と指差されたのは百葉箱の足元だった。
     小さい頃に自由工作で小さな木を組み上げて、卓上ランプを作ったことがあったが、それよりはるかに精緻であることが一見してすぐ分かった。よくよく目を凝らすと、その辺に落ちているような小枝が、綺麗に枝を払われて組み上げられているのに気づく。小枝の皮は遠目に見ると、レンガが組まれているように錯視の技法が使われ、秋草の色鮮やかな花が飾られている。建築様式など全く詳しくはないが、RPGのゲームなんかでも一度は見たことがあるような城だった。
     かなりのクオリティで、これなら職人にもなれるんじゃないか、と驚き、感心した。佐藤の自慢げな顔を見つめる。誇らしげだ。
    「なんだこれ。すげえな。お前が作ったのか」
    佐藤は誇らしげな顔をさらに綻ばせて、
    「そんなわけないだろ。俺が作れるわけないだろ。作ってたんなら、とっくに自慢してるに決まってんだろ」
    と、リズムよく言う。
    「自慢げだったから」
    「お前が見たことないものを先に見つけたんだから、俺の方がすごいってことだよな」
    そして、小さな城をぺたぺたと触る。ほら、扉も開閉するんだぜ、と開け閉めして見せる。
    「これ、昨日まではなかったんだよ。だから、誰かが一晩でこれ作ったんだぜ」
    「なんで昨日まではなかった、って断言できるんだ。それに、一晩で作らなくても、どこかで作ったのを持ってきたって可能性もあるだろ」
    俺の論理的な反論を、鼻で笑い飛ばされる。
    「昨日まではなかった。だって俺、昨日この辺の掃除させられてたからな」
    恐らくまた面倒を起こして、罰として掃除を命じられていたのだろう。
    「その時に俺が山にしておいた枯れ枝だとかが、綺麗になくなっている。そして、その辺に咲いてた花が摘まれてる。状況証拠から見て、俺が山盛りにしといた枯れ枝の山から作ったって考えるのが自然だろ。お前の指摘は非論理的なんだよ」
    そうだろうか、と疑問に思わずにはいられなかった。
     その時、下級生の、というか、今年入学したばかりの一年生達が三人連れ立って、俺たちを、と言うよりは小さな城を取り囲んだ。
    「本当にできてる!」「言ったとおりだねえ」「かわいい」
    感動したように褒めそやすと、俺たちに向かって、先ほどの佐藤がしたのとそっくりな顔で「すごいでしょう?」と自慢げに胸を張る。
    「何がだ。これ、みんなが作ったのかよ」
    佐藤には一応、下級生に優しくすべしという常識が備わっていたのか、普段よりは幾分か穏やかな口調で、しかし、自分が見つけたのだという喜びを横取りされた不機嫌さを隠しきれずに聞く。
    「違うよお」「でも詩織たちのために作ってもらったんだから」「いいでしょ」
    「そうなんだ。すごいね。お父さんとかお母さんとかが作ってくれたの?」
    佐藤が余計なことを言う前に、俺が大人な対応をする。
    「違うよね」「そうだよね」「お隣さんだもんね。一日で作ってくれるって言ったんだもん」
    「やっぱり一日じゃねえか。ほらみろ」
    なぜか佐藤も一年生の隣に並んで俺のことを指差して笑う。
    「一日って。昔、似たようなのを作ったことあったけど、一日はかかったぞ。くっつける時間もあるし」
    「いや、一日だな」「そうだな。そういう駆け引きが好きな連中だ」
    思いもよらぬ方角から、声が掛かり、驚いて振り向いた。小学校のフェンスの向こうに、両親よりも若い、お兄さん、と言えなくもない年頃の大人の男の人達が立っていた。目つきが悪く、その上眼帯までしていて、漫画のキャラクターのようにも見えた。不審者だ、とポケットの中の携帯電話に手で触れる。携帯電話には防犯用のベルが付属していて、それを引き抜いた瞬間に大音量でベルの音が鳴る。到底乗り越えられないフェンス越しとはいえ、用心に越したことはない。
     男の人は俺たちには興味なさげに、しゃがみ込んで一年生達に向かって話しかける。
    「おい、そのお隣さんだがな。どこにいるんだ」
    「会いたいの?お話聞きたいの?」
    「そうだ。俺たちはそいつとお話がしたいんだよ」
    男の人のうち片方は犯罪者のような顔をしていたが、もう片方は男から見てもカッコよくて、小さくてもミーハーなのか、一年生達は少し照れたように三人でこそこそと相談をする。そして、フェンス越しにこそこそと耳打ちをすると、きゃあ、と楽しそうな悲鳴を上げて走り去っていった。
     男の人たち同士も何事かボソボソと話し合うと、どこかへ立ち去っていった。
     俺は一体今の人たちはなんだったのか、もし数日の間に事件があれば、絶対にあいつらの仕業だろうな、と確信する。せめて一年生達を送っていこう、と佐藤を振り向けばそこに姿はなく、百葉箱の向こうにある校庭の方から三人を連れてこちらへ戻ってくる。
    「緒方、この子たち送っていくぞ」
    正義感など、この男にあったのか、と感心したのも束の間、
    「これ作ったやつ、聞き出すぞ。これが作れればきっと大儲けできるぜ」
    とくだらないことを耳打ちしてきた。

     結局、誰がやったのかはよく分からなかった。どうやらそれを作ったのは可愛い女の子で、どう聞いても人家などない、雑木林のなかにいつもいるのだ、という、信じがたい話だった。小さい子たちの言うことだし、何かの間違いかもしれないし、そういう童話じみた遊びなのかもしれない。名前を聞いたら知ってるかもしれない、と思って幾度か尋ねたが、あの不審者たちには教えたくせに、俺たちには絶対に教えてくれなかった。
     大人が一枚噛んだ、ごっこ遊びの一種だったのかもしれない。
     佐藤はその場所まで足を運んだらしいのだが、案の定何もなかったとのことだ。
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