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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「動物園」 男の暴れっぷりはそれは大変なもので、起き抜けに、よくこんなにも元気に動けるもんだと感心した。
「俺たちもよ、痛めつけたいってわけじゃねえのによ。あんなに抵抗されると、参っちまうよな」
檸檬は男から奪った、また嵌めていた指が付属したままの指輪を宙に放り投げてはキャッチして遊んでいる。夜空に上げられた指と指輪は、宙に舞うと黒っぽい影になって、また元の通り檸檬の手元に戻ってくる。
「おい、依頼された品物で遊ぶな。指輪がどこかへ飛んで行ったらどうする気だ」
檸檬の乱暴な扱いに不安を覚え、釘を刺す。檸檬は叱られたのが気に食わないのか、不満げな様子を隠さずに
「面倒がないように、わざわざ寝込みを狙って行ってやったってのによ。指輪が外れないなんて思うか?」
1803「俺たちもよ、痛めつけたいってわけじゃねえのによ。あんなに抵抗されると、参っちまうよな」
檸檬は男から奪った、また嵌めていた指が付属したままの指輪を宙に放り投げてはキャッチして遊んでいる。夜空に上げられた指と指輪は、宙に舞うと黒っぽい影になって、また元の通り檸檬の手元に戻ってくる。
「おい、依頼された品物で遊ぶな。指輪がどこかへ飛んで行ったらどうする気だ」
檸檬の乱暴な扱いに不安を覚え、釘を刺す。檸檬は叱られたのが気に食わないのか、不満げな様子を隠さずに
「面倒がないように、わざわざ寝込みを狙って行ってやったってのによ。指輪が外れないなんて思うか?」
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「ハロウィン」ほとんど前回でおしまいだったから蛇足かもしれない
第八話 人気がなくなったはずの廃墟は、最初に訪れた時と変わらない雰囲気を保っていた。
庭に飛んでいた虫が一匹居なくなったからといって、人間の目には何も変わらないように見えるのと同じで、すぐ目の前にいた少女が消えたというのに、この庭は淡白な静かさに覆われている。
二人は唾を吐きかけられた目を擦りながら周囲を見回した。改めて見れば、廃墟は和風と洋風の過渡期に建てられたかのような様相をしていた。当時から見れば最先端、今眺めてみると中途半端の古臭い家で、その上誰も住みたがらないであろう田舎にあるのならば、打ち捨てらるのも頷ける。
「ハロウィンが何だか知らねえけど、随分好き勝手遊んでいきやがったな、あいつ」
檸檬が先ほどまで少女が座っていた辺りをスニーカーの爪先で突きながら言う。
1077庭に飛んでいた虫が一匹居なくなったからといって、人間の目には何も変わらないように見えるのと同じで、すぐ目の前にいた少女が消えたというのに、この庭は淡白な静かさに覆われている。
二人は唾を吐きかけられた目を擦りながら周囲を見回した。改めて見れば、廃墟は和風と洋風の過渡期に建てられたかのような様相をしていた。当時から見れば最先端、今眺めてみると中途半端の古臭い家で、その上誰も住みたがらないであろう田舎にあるのならば、打ち捨てらるのも頷ける。
「ハロウィンが何だか知らねえけど、随分好き勝手遊んでいきやがったな、あいつ」
檸檬が先ほどまで少女が座っていた辺りをスニーカーの爪先で突きながら言う。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「ハロウィン」またぼんやりした話になっちゃった
第七話 まだ六歳くらいの子どもに耳打ちされたのは、
「あの子はねえ、お城のとこにいてねえ、色んなお話をしてくれるの。すごく綺麗なの」
という要領の得ない説明で、詳しく聞こうと顔を上げたところで、きゃあきゃあと悲鳴のような、楽しげな声を上げて駆けて逃げてしまった。校内へ回って捕まえて、案内しろと言っても良かったが、もう少し年上の少年がいかにも不審げな目線を向けてきていたので、檸檬に「仕方ない。それらしい場所を探すぞ」と耳打ちをしてその場は立ち去ることにした。
仕事に疲れて屋外で夜を明かして以来、二人の目玉は不調をきたしていた。
目が覚めて、見回した草原には、朝露のような光が散っており、眩暈かと幾度もまばたきをしてみたがおさまらない。檸檬も同じ症状を発していたようで、手持ちの目薬を打ってみたが治らず、応急措置としてガーゼの眼帯を装着したところで、この症状の問題点が浮き彫りになった。
1667「あの子はねえ、お城のとこにいてねえ、色んなお話をしてくれるの。すごく綺麗なの」
という要領の得ない説明で、詳しく聞こうと顔を上げたところで、きゃあきゃあと悲鳴のような、楽しげな声を上げて駆けて逃げてしまった。校内へ回って捕まえて、案内しろと言っても良かったが、もう少し年上の少年がいかにも不審げな目線を向けてきていたので、檸檬に「仕方ない。それらしい場所を探すぞ」と耳打ちをしてその場は立ち去ることにした。
仕事に疲れて屋外で夜を明かして以来、二人の目玉は不調をきたしていた。
目が覚めて、見回した草原には、朝露のような光が散っており、眩暈かと幾度もまばたきをしてみたがおさまらない。檸檬も同じ症状を発していたようで、手持ちの目薬を打ってみたが治らず、応急措置としてガーゼの眼帯を装着したところで、この症状の問題点が浮き彫りになった。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「ハロウィン」今日あたりでモブが出張るのもおしまい、のはず!
第六話 校庭に城ができたんだってよ。
どこからか伝え聞いてきたように語る口調で、詰まらない冗談を友人の佐藤が言うのは珍しいことではないので、何ができたって?と一応聞き返した。
「だから、城がだよ」「シロってなんだよ」「城は城だよ。キャッスルだよ」
不毛なやりとりになりかけたのを察したのか、佐藤は焦ったそうに、いいから来いっての、と乱暴に俺の手を引っ張った。
「どうせまた公園行くんだから、今出かけたって一緒だろ」
「一緒じゃない。宿題終わってからじゃないと大変なんだよ」
頭いいんだから、帰ってすぐやれば終わるだろ、という理屈で押し切られるのは目に見えていたが、常に佐藤の行動に素直に付き従っていたら身を滅ぼす。なので、度を越した要求をされる場合は、行動の責任の一端はお前にあるんだぞ、という釘を刺すようにしている。なお今回、佐藤は「宿題なんて、昼休みまでに職員室のノートの束に紛れ込ませておけばバレねーんだよ」と、想像していたよりも邪悪な考えを披露したが、なんとか寝る前までに取り組んで宿題を終わらせたことを名誉にかけて述べておく。
2890どこからか伝え聞いてきたように語る口調で、詰まらない冗談を友人の佐藤が言うのは珍しいことではないので、何ができたって?と一応聞き返した。
「だから、城がだよ」「シロってなんだよ」「城は城だよ。キャッスルだよ」
不毛なやりとりになりかけたのを察したのか、佐藤は焦ったそうに、いいから来いっての、と乱暴に俺の手を引っ張った。
「どうせまた公園行くんだから、今出かけたって一緒だろ」
「一緒じゃない。宿題終わってからじゃないと大変なんだよ」
頭いいんだから、帰ってすぐやれば終わるだろ、という理屈で押し切られるのは目に見えていたが、常に佐藤の行動に素直に付き従っていたら身を滅ぼす。なので、度を越した要求をされる場合は、行動の責任の一端はお前にあるんだぞ、という釘を刺すようにしている。なお今回、佐藤は「宿題なんて、昼休みまでに職員室のノートの束に紛れ込ませておけばバレねーんだよ」と、想像していたよりも邪悪な考えを披露したが、なんとか寝る前までに取り組んで宿題を終わらせたことを名誉にかけて述べておく。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「ハロウィン」ちょっと和風っぽくなっちゃった
第五話 山の方から笛の音がする。
友人にそう言ったら笑われた。
「鐘の音じゃないの」
興味なさげに返事をされる。確かに山寺の鐘の音が聞こえてくることは、たびたびある。定刻ごとに鳴る鐘の音が、夕方などにはよく響く。けれど、その聞き慣れた音とは全く違うのだ。
音楽に詳しいわけではないので、どういう名前の楽器かも分からないが、誰かが練習をしているのかもしれない。もしかしたら、お坊さんに音楽趣味があるのかもしれない。
愛理は山に目を向ける。
「そういえば、愛理、駅にお迎えに行かなきゃいけなかったんじゃないの。誰だっけほら、伯父さん?」
私も正確にはよく知らない。お世話になったおじさん、という言い方をされたから、もしかしたら親戚ですらないのかもしれない。そのおじさんが来るから、駅までお迎えに上がれ、ということらしい。バスも少ない田舎で、目的の家に辿り着くのは難易度が高いだろう。
1713友人にそう言ったら笑われた。
「鐘の音じゃないの」
興味なさげに返事をされる。確かに山寺の鐘の音が聞こえてくることは、たびたびある。定刻ごとに鳴る鐘の音が、夕方などにはよく響く。けれど、その聞き慣れた音とは全く違うのだ。
音楽に詳しいわけではないので、どういう名前の楽器かも分からないが、誰かが練習をしているのかもしれない。もしかしたら、お坊さんに音楽趣味があるのかもしれない。
愛理は山に目を向ける。
「そういえば、愛理、駅にお迎えに行かなきゃいけなかったんじゃないの。誰だっけほら、伯父さん?」
私も正確にはよく知らない。お世話になったおじさん、という言い方をされたから、もしかしたら親戚ですらないのかもしれない。そのおじさんが来るから、駅までお迎えに上がれ、ということらしい。バスも少ない田舎で、目的の家に辿り着くのは難易度が高いだろう。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「ハロウィン」微ホラー?かも?
第四話 潔癖というほどではないが、部屋の掃除は毎日しないと、何となく落ち着かない。かといって、平日に帰宅し、夕飯や洗濯などを全て済ませた後となると、それなりに遅い時間帯になる。掃除機などはもってのほかだ。使い捨て式の掃除用ワイパーなどを使用していたのだが、それでは取りきれないゴミが気になるようになり、シュロ箒購入した。
そもそもが綺麗好きというよりは、なんとなく座りが悪い、という心理的な問題で掃除をしていたために、箒を使っての掃除はいかにも綺麗にしました、という達成感があって、意外に気に入った。音も出ない。周囲に迷惑をかけることもない。
ただ、気になることがあった。
夜半、さて箒をかけるかと手に取り床を掃いていると、物音がするのだ。初めは隣人が騒いでいるのかと思った。これまでに隣人との騒音問題とは無縁だったので、意外に思っていたのだが、よくよく気にしてみると音は壁を隔てた向こう側ではなく、どうも室内から聞こえてくる気がする。
1954そもそもが綺麗好きというよりは、なんとなく座りが悪い、という心理的な問題で掃除をしていたために、箒を使っての掃除はいかにも綺麗にしました、という達成感があって、意外に気に入った。音も出ない。周囲に迷惑をかけることもない。
ただ、気になることがあった。
夜半、さて箒をかけるかと手に取り床を掃いていると、物音がするのだ。初めは隣人が騒いでいるのかと思った。これまでに隣人との騒音問題とは無縁だったので、意外に思っていたのだが、よくよく気にしてみると音は壁を隔てた向こう側ではなく、どうも室内から聞こえてくる気がする。
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DOODLE果物版ワンドロワンライ:お題「ハロウィン」ラブストーリーっぽい話になっちゃったけどラブストーリー書くのすごく苦手だということに気づいた
第三話 よく通っている喫茶店の店員のことが、最近気になっている。気になる人がいるのだ、友人に言ってみたところ、ドラマかよ、と笑われ、突然真顔になったかと思えば「ショートカットだろ?」と問いただされた。
「たしかにショートカットだ」
と、頭にその子の姿を思い浮かべながら答える。根本が黒くなっている脱色した明るい短髪は刈り上げに近く、いつも似たような白いトレーナー身につけ、その上に喫茶店のエプロンを掛けていて、細身のパンツがよく似合っていた。
だろうな、と分かったような顔で笑われたので、つい言い返したくなる。
「あのな、初恋否定論者の俺がこんなこと言ってるんだぞ。もっと驚くべきじゃないのか」
「初恋否定論者はえてして初恋にころっといかれるもんだろ。それにな、飯塚。おまえは初恋否定派という以上に短髪が好きだ。自覚してなかったのか」
2024「たしかにショートカットだ」
と、頭にその子の姿を思い浮かべながら答える。根本が黒くなっている脱色した明るい短髪は刈り上げに近く、いつも似たような白いトレーナー身につけ、その上に喫茶店のエプロンを掛けていて、細身のパンツがよく似合っていた。
だろうな、と分かったような顔で笑われたので、つい言い返したくなる。
「あのな、初恋否定論者の俺がこんなこと言ってるんだぞ。もっと驚くべきじゃないのか」
「初恋否定論者はえてして初恋にころっといかれるもんだろ。それにな、飯塚。おまえは初恋否定派という以上に短髪が好きだ。自覚してなかったのか」
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DOODLE果物版ワンドロワンライ:お題「ハロウィン」怪奇探偵果物!的な
第二話 信号が青になり、一歩踏み出そうとした瞬間に右足が取られ、転びそうになるのを踏ん張って堪えた。一緒に信号待ちをしていた二、三人がちらり、とこちらを見つめてくる。クスクスという笑い声が聞こえるような気がして恥ずかしくなり、何でもないような顔で大学への通学路を足早に進む。
相田歩が何もない場所で躓くようになったのはここ数日のことだ。
元々そそっかしい性格ではあった。けれど、朝布団から出た瞬間に転びそうになったり、玄関のドアでつまづいたり、日に何度も転ぶようなことはなかった。些細な事故ではあるが、これほど連続して続くと不安になるものだ。
そのうち、瑣末な事故が徐々に大きくなり、交通事故にでも巻き込まれるのではないか、と考えてみたりもする。
1117相田歩が何もない場所で躓くようになったのはここ数日のことだ。
元々そそっかしい性格ではあった。けれど、朝布団から出た瞬間に転びそうになったり、玄関のドアでつまづいたり、日に何度も転ぶようなことはなかった。些細な事故ではあるが、これほど連続して続くと不安になるものだ。
そのうち、瑣末な事故が徐々に大きくなり、交通事故にでも巻き込まれるのではないか、と考えてみたりもする。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「ハロウィン」次回に続くので今回べつに何のお話もないし楽しくはない
ハロウィン第一話 秋の夜の冷え切った空気は足先からじわじわと体温を奪っていく。
耐えきれずに目を開けた。枯れ草の増えた河原は寝心地が悪かった。枯れ果てているくせに、チクチクと尖った葉先が薄いシャツや、靴下とスラックスの隙間を狙っているかのように刺さってくる。よく見れば、小さな人影が皮膚を狙って、枯れ草を槍のように構えて突き刺してきているのだ。軽く手で払うと、笑いながら草むらに消える。
風が強く吹くと、どこに隠れていたのか、大量の虫が飛び出てきた。キリギリスの長い触覚が風に吹かれ、そしてキリギリスの背の上にも人影が見えた。こんなに小さなものが人間である訳がないのだから、人影というのも的外れなのだろうが、他の呼称が分からない。小さな生き物は触覚を手綱のように引き、器用に昆虫たちを操る。
1409耐えきれずに目を開けた。枯れ草の増えた河原は寝心地が悪かった。枯れ果てているくせに、チクチクと尖った葉先が薄いシャツや、靴下とスラックスの隙間を狙っているかのように刺さってくる。よく見れば、小さな人影が皮膚を狙って、枯れ草を槍のように構えて突き刺してきているのだ。軽く手で払うと、笑いながら草むらに消える。
風が強く吹くと、どこに隠れていたのか、大量の虫が飛び出てきた。キリギリスの長い触覚が風に吹かれ、そしてキリギリスの背の上にも人影が見えた。こんなに小さなものが人間である訳がないのだから、人影というのも的外れなのだろうが、他の呼称が分からない。小さな生き物は触覚を手綱のように引き、器用に昆虫たちを操る。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「浴衣」 流れるように人が詰めかけてくる。
その人数は、道を歩く人々が片端からこの小さな部屋に雪崩れ込んできているんじゃないか、と真剣に考えてしまうほどだ。やってくる女性たちは、わざわざ着替える必要はないのではないか、というくらい華やかな色合いの外行きの服を身につけている。それでも、彼女たちは嬉々として見た目に涼しげな、薄手の布地を緩く纏わせて、観光地へ繰り出して行く。
もっとも、蜜柑も檸檬も着替えの手伝いをするわけにもいかず、裏方で、二人には用途の分からない大量の布やら紐やらの入った段ボール箱の運搬をして、表の華やかさとは真反対の汗臭いTシャツで顔を拭っていた。
古刹が道なりに並ぶ、風光明媚な観光地は夏休みに合わせたかき入れ時で、この着物店の着付けの予約はスケジュール帳一杯に詰まっていた。来る客、来る客に手際良く浴衣を当てがい、帯を締め、会計を済ませる様は夏祭りの屋台を思わせる。今日の二人は、その戦場に物資を届ける補給係という役回りだった。すなわち、単純な力仕事である。
1337その人数は、道を歩く人々が片端からこの小さな部屋に雪崩れ込んできているんじゃないか、と真剣に考えてしまうほどだ。やってくる女性たちは、わざわざ着替える必要はないのではないか、というくらい華やかな色合いの外行きの服を身につけている。それでも、彼女たちは嬉々として見た目に涼しげな、薄手の布地を緩く纏わせて、観光地へ繰り出して行く。
もっとも、蜜柑も檸檬も着替えの手伝いをするわけにもいかず、裏方で、二人には用途の分からない大量の布やら紐やらの入った段ボール箱の運搬をして、表の華やかさとは真反対の汗臭いTシャツで顔を拭っていた。
古刹が道なりに並ぶ、風光明媚な観光地は夏休みに合わせたかき入れ時で、この着物店の着付けの予約はスケジュール帳一杯に詰まっていた。来る客、来る客に手際良く浴衣を当てがい、帯を締め、会計を済ませる様は夏祭りの屋台を思わせる。今日の二人は、その戦場に物資を届ける補給係という役回りだった。すなわち、単純な力仕事である。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「バイキング」ガラガラ籤の一等 檸檬がスーパーマーケットの籤で一等を当ててきた。意外に籤運が良いらしい。
面倒だから車で行けばいいだろうが、と思うのだが、こういうのは旅情が出るから電車の方がいいんだ、という主張も、一理あるように感じられ、電車に揺られている。荷物はトランクに入れるほどの量もなく、ボストンバックに全て収まった。網棚を見上げると、慎ましやかに二人分のカバンが鎮座している。
二人の暮らす都心からは少し離れた、そして少し寂れた温泉地は、電車を一度乗り換えた先の海沿いにある。退屈な車窓には深い緑の葉が茂り、農作物なのだろうが、一見しただけでは手入れのされていない雑木林が広がっているようにも見える。両者を判別できたのは、この辺りでは果物が栽培されているのだと、何かで読んだからだ。
1377面倒だから車で行けばいいだろうが、と思うのだが、こういうのは旅情が出るから電車の方がいいんだ、という主張も、一理あるように感じられ、電車に揺られている。荷物はトランクに入れるほどの量もなく、ボストンバックに全て収まった。網棚を見上げると、慎ましやかに二人分のカバンが鎮座している。
二人の暮らす都心からは少し離れた、そして少し寂れた温泉地は、電車を一度乗り換えた先の海沿いにある。退屈な車窓には深い緑の葉が茂り、農作物なのだろうが、一見しただけでは手入れのされていない雑木林が広がっているようにも見える。両者を判別できたのは、この辺りでは果物が栽培されているのだと、何かで読んだからだ。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「シール」企業努力 湯気のせいでめくれ上がったフタに持ち上げられた箸が転げ落ちる。置く角度を調整して、フタに乗せ直し、折り返しにキッチリと爪で跡をつける。
「カップ麺のフタはよ、昔はシールがついてたよな」
熱湯の上昇気流にイライラして、このフタの折り返しを考えたやつは、きちんと自分で使ってみたのかよ、と憤る。
「シールの方が良かった」
「あれは、包装の薄いビニールから取り外すのが面倒だった」
蜜柑はフタを押さえやすい、四角形の焼きそばをタイマーにかけている余裕から、シールの悪口を言う。
「大体シールで貼ったって、それ以外の部分が浮いてきて、結局箸で押さえてただろ」
「シール以外を押さえるだけなんだから、その方が効率的に決まってる」
1299「カップ麺のフタはよ、昔はシールがついてたよな」
熱湯の上昇気流にイライラして、このフタの折り返しを考えたやつは、きちんと自分で使ってみたのかよ、と憤る。
「シールの方が良かった」
「あれは、包装の薄いビニールから取り外すのが面倒だった」
蜜柑はフタを押さえやすい、四角形の焼きそばをタイマーにかけている余裕から、シールの悪口を言う。
「大体シールで貼ったって、それ以外の部分が浮いてきて、結局箸で押さえてただろ」
「シール以外を押さえるだけなんだから、その方が効率的に決まってる」
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「変装」(女装の気持ちで書いてます)女装 これはアンコウの毒ですね、という医師の診断結果が出たため、白い肉厚な身がゴロゴロと入った湯気をたてる鍋を思い浮かべた後に、そのほのぼのとした空想を打ち消し、なんだか聞いたことがあるようなないような、と少し頭を捻る。考えている様子を察したのか、医師が助け舟を出すように、ほら毒の、と付け加えたお陰で、ああ、と記憶の扉が開いた。
鮟鱇、毒を使う殺し屋。業界ではお世辞にも名が知られているとは言えず、同じ毒使いとして圧倒的知名度を誇るスズメバチの名声に霞んでいる。二番煎じ、という口さがない評判も聞くが、地道に活動を続けているらしい。そんな健気な鮟鱇を応援していたわけではないが、頑張っているんだな、という程度の気持ちを持った事もある。
1563鮟鱇、毒を使う殺し屋。業界ではお世辞にも名が知られているとは言えず、同じ毒使いとして圧倒的知名度を誇るスズメバチの名声に霞んでいる。二番煎じ、という口さがない評判も聞くが、地道に活動を続けているらしい。そんな健気な鮟鱇を応援していたわけではないが、頑張っているんだな、という程度の気持ちを持った事もある。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「右手」どっちだ 一人暮らし用の電気ケトルの容量は意外に少ない。カップラーメン二個くらいだったらなんとかなるが、焼きそば二つともなると量が足りなくなる。こういう時は蜜柑がポケットから取り出した硬貨で順番を決める。
「どっちにする」「表だな」「じゃあ俺が裏だ」
蜜柑が右手をのけると、裏面の装飾的な植物の意匠が目に入る。俺の勝ちだな、と蜜柑が自分のカップにお湯を注ぎ、檸檬はもう一度ケトルのスイッチを入れる。
「こういう時、毎回蜜柑が勝つよな。コツでもあんのかよ」
「あるわけないだろう。おまえの観察眼が鈍いんだ。よく見てりゃ、分かる」
そんなもんだろうか、とよくよく目を凝らしてみるが、一瞬のうちに翻る硬貨の裏表を見極めるほどの視力は、どんな人間であっても持っているわけがない。悠々と出来上がった焼きそばを食っている蜜柑に、待っててくれてもいいだろうがと文句つけながらタイマーを睨みつける。
657「どっちにする」「表だな」「じゃあ俺が裏だ」
蜜柑が右手をのけると、裏面の装飾的な植物の意匠が目に入る。俺の勝ちだな、と蜜柑が自分のカップにお湯を注ぎ、檸檬はもう一度ケトルのスイッチを入れる。
「こういう時、毎回蜜柑が勝つよな。コツでもあんのかよ」
「あるわけないだろう。おまえの観察眼が鈍いんだ。よく見てりゃ、分かる」
そんなもんだろうか、とよくよく目を凝らしてみるが、一瞬のうちに翻る硬貨の裏表を見極めるほどの視力は、どんな人間であっても持っているわけがない。悠々と出来上がった焼きそばを食っている蜜柑に、待っててくれてもいいだろうがと文句つけながらタイマーを睨みつける。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「石鹸」ライフハック 蜜柑は家に帰ってから手を洗うのも、風呂場で体を洗うのにも、石鹸を使う。ソープディッシュに置くのではなく、細かくスライスした石鹸を容器にいっぱいに入れて、都度、一枚ずつ水に溶かしている。買ってきたばかりの石鹸は、ピーラーで一枚ずつ削って、新たに容器に追加する。
削り心地が好きなのか、と問うたこともあるが、別にそういうわけでないらしい。だったらこんな単調な作業を続ける動機は一体どこからやってくるのか、とも思うのだが、まるで写経でもするかのように、淡々と削っている。緩く握られたピーラーは蜜柑の指先によく馴染む。薄く剥かれた石鹸は、鉛筆削りのカスのように丸まって、一枚ずつ落ちていく。伏した瞳も、重力に従って垂れた前髪も、削られる石鹸が立てるわずかな音に追従して、内面にあるはずの様々な余分を捨てて、蜜柑の周囲と内面とに余白を作ろうとしているかのようだった。
1915削り心地が好きなのか、と問うたこともあるが、別にそういうわけでないらしい。だったらこんな単調な作業を続ける動機は一体どこからやってくるのか、とも思うのだが、まるで写経でもするかのように、淡々と削っている。緩く握られたピーラーは蜜柑の指先によく馴染む。薄く剥かれた石鹸は、鉛筆削りのカスのように丸まって、一枚ずつ落ちていく。伏した瞳も、重力に従って垂れた前髪も、削られる石鹸が立てるわずかな音に追従して、内面にあるはずの様々な余分を捨てて、蜜柑の周囲と内面とに余白を作ろうとしているかのようだった。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「ポケット」たくさん入るポケット ぽつりと頭に当たった雫が、一つ、二つ、そして徐々に強まる気配を見せ始めたので、急いでコンビニに駆け込む。目敏い店舗で、雨は降り始めたばかりだというのに、既にビニール傘が数本、レジ近くの目立つ位置に陳列されている。
手に取ろうとして、自身の部屋の玄関先の、数本のビニール傘のことを思い出す。以前、必要になって買ったり、同様の状況に陥った檸檬が置いていった傘たちだ。これ以上人口密度を増やすのもなんだか避けたい気がして、ビニール傘はやめて折り畳み傘を購入することにした。
早速、雨空に黒い傘を広げる。新品の張りのある小間に、小気味良く水滴が跳ねる音がする。しかし、それらの水滴が豪雨の音を爪弾く前に不意に鳴り止み、不審に思って傘を少しもたげて見上げると、先ほどまでの真っ黒な雲はどこへ消えたのか、不気味なほど薄青く晴れ渡った空が広がっている。無駄な買い物だったか、と舌打ちが出てしまう。
1765手に取ろうとして、自身の部屋の玄関先の、数本のビニール傘のことを思い出す。以前、必要になって買ったり、同様の状況に陥った檸檬が置いていった傘たちだ。これ以上人口密度を増やすのもなんだか避けたい気がして、ビニール傘はやめて折り畳み傘を購入することにした。
早速、雨空に黒い傘を広げる。新品の張りのある小間に、小気味良く水滴が跳ねる音がする。しかし、それらの水滴が豪雨の音を爪弾く前に不意に鳴り止み、不審に思って傘を少しもたげて見上げると、先ほどまでの真っ黒な雲はどこへ消えたのか、不気味なほど薄青く晴れ渡った空が広がっている。無駄な買い物だったか、と舌打ちが出てしまう。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「寄り道」おでんを食べに行こう! 檸檬が待ち合わせ場所の公園にたどり着くと、すでに蜜柑はずっとこうしていました、というような様子でベンチに腰掛けていた。背もたれにわずかに掛かった上体が、時間の経過を思わせる。よお、と声を掛けると、蜜柑は腕時計に目をやり、公園の薄ぼんやりとした明かりの中で文字盤など読めなかったのだろう、ポケットから取り出した携帯端末で時刻を確認する。時間丁度だ。
「俺が遅刻なんてするわけないだろうが。常にぴったり時間だろ」
「少し早く着いておかないと、何かあった時に間に合わない、という可能性について考えたことはないのか」
「事故が起こった時に求められるのは、丁度よく現れることじゃなくて落ち込まないことだぞ」
と、そう教えてやる。今、間に合ったんなら良かった、と返事とも嘆息ともつかない言葉を漏らし「じゃあおでん屋さんまで行くぞ」とベンチから立ち上がる。
1939「俺が遅刻なんてするわけないだろうが。常にぴったり時間だろ」
「少し早く着いておかないと、何かあった時に間に合わない、という可能性について考えたことはないのか」
「事故が起こった時に求められるのは、丁度よく現れることじゃなくて落ち込まないことだぞ」
と、そう教えてやる。今、間に合ったんなら良かった、と返事とも嘆息ともつかない言葉を漏らし「じゃあおでん屋さんまで行くぞ」とベンチから立ち上がる。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「甘いもの」プロ野球選手になるってのはそんなに甘いもんじゃねえな おあにいさん、おあねえさん、ねえ。さあ。ここに取り出だしたりますはこの、木製のバット。これはとっても珍しいもんで、一説には幽霊が持っていたなんて噂もある。単なるバットじゃあない。私が小耳に挟んだところによると、化け物がこれを使って野球をしていたなんて話もある。与太だって?いやいや、実際にこのバットを使ってみたらそんなことは言えますまい。
なんとこのバット、狙った球は百発百中、ズドンとホームラン、球場のど真ん中に向かうときてる。実際に持ってみせましょうか。ヨッ、ほら。このバランスの良さ。均整の取れたボディは。指一本、真っ直ぐに乗るときてる。プロポーションと言うんでしょうなあ、コマのようでしょう。
2554なんとこのバット、狙った球は百発百中、ズドンとホームラン、球場のど真ん中に向かうときてる。実際に持ってみせましょうか。ヨッ、ほら。このバランスの良さ。均整の取れたボディは。指一本、真っ直ぐに乗るときてる。プロポーションと言うんでしょうなあ、コマのようでしょう。
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DOODLEゆるゆる果物版ドロライ:お題「詳細」伝説の地 階段の上から太平洋を臨む景観は、季節の花々と文化に彩られて休日ともなれば多くの観光客の訪問を受けるK県の陸続きの小島の隣に、人知れず漂う離島があるのを多くの人は知らないだろう。
先の観光島とは異なり、この離島は完全に本土とは隔てられているため、海路をボートで向かう以外に道はない。それではちょっとしたプライベートビーチとして使用されているのだろうかと想像してみるが、この離島には文化も風情も全くなく、この世の春とばかりに咲き誇る雑草たちが栄華を極めているばかりである。
他の誰にも知られていない秘密は往々にしてヒエラルキーの欲望を満たすものであるが、この離島がひっそりと存在している事実が公になっていないのは、そんなことを口にしたが最後、捨てそびれた燃えるゴミの袋を部屋の隅に隠すがごとき恥辱を味わうからだ。「まあ、そんな貧相な島があるの?なぜそれを知っているの?まさかよく行くということ?そうなの」という言葉と共につまらなそうな視線を投げかけられ、逆に相手の欲望を満たす結果に終わる。
1610先の観光島とは異なり、この離島は完全に本土とは隔てられているため、海路をボートで向かう以外に道はない。それではちょっとしたプライベートビーチとして使用されているのだろうかと想像してみるが、この離島には文化も風情も全くなく、この世の春とばかりに咲き誇る雑草たちが栄華を極めているばかりである。
他の誰にも知られていない秘密は往々にしてヒエラルキーの欲望を満たすものであるが、この離島がひっそりと存在している事実が公になっていないのは、そんなことを口にしたが最後、捨てそびれた燃えるゴミの袋を部屋の隅に隠すがごとき恥辱を味わうからだ。「まあ、そんな貧相な島があるの?なぜそれを知っているの?まさかよく行くということ?そうなの」という言葉と共につまらなそうな視線を投げかけられ、逆に相手の欲望を満たす結果に終わる。