平穏かつ公然の状態での占有「よう、邪魔するぜ」
鶴丸が大倶利伽羅の部屋に寝袋を持って乗り込んできたのは、もうすっかり夜も深まりそろそろ寝ようかと考えたときである。
鶴丸は寝袋を広げ、中に入ってぐうすかと眠り始めた。
呆気に取られた大倶利伽羅がようやく我に返り鶴丸を揺さぶるも全く起きない。無理矢理引きずって部屋から追い出そうにもいつもは軽そうなくせに石でも詰まっているのではないかと思うくらいには動かない。
諦めて大倶利伽羅は鶴丸を放置したまま自分は布団に入って眠ったのだった。
「部屋に帰って布団で休め」
その次の日もさらに次の日も鶴丸が同じようにしたものだから、大倶利伽羅も困ってしまう。
刀剣男士は野宿することもあるから多少の無理が効くも、布団で休めるならそちらの方がいい。
しかし鶴丸は、嫌だねと舌を出した。
「しばらくは、続けるつもりだ」
「しばらく」
「二十年程度」
しばらくというような期間ではない。平安刀は時間の感覚がおかしいのではないか。
「これは占拠なんだ」
「見ればわかる」
「この、俺が寝ている部分を占有している。この状態が二十年続くと、俺のものになるらしいぞ。平穏かつ公然の状態での占有、だったかな」
全然平穏ではないのだが。
大倶利伽羅の言葉は鶴丸に黙殺された。
「きみの、その領域を占拠して俺のものにしたいのさ」
眠そうな声で鶴丸はそう告げ、そして本当に眠ってしまった。
大倶利伽羅は溜め息を吐く。
大体この土地は大倶利伽羅のものというより審神者か政府のものだろう。こいつは馬鹿ではないだろうか。
こんな回りくどい真似をしなくとも、この白い存在は大倶利伽羅と心とやらに勝手に住み込んでかなりの時が経つ。時効などもうとっくに迎えているのだ。占有している本人がそのことを知らないので、呆れるしかないのである。