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    薔薇を贈り合う

    ##本丸軸なふたりの話
    ##くりつる

    私はあなたに相応しい/I love you. 出陣ですれ違うのなんて、もう慣れた。お互い既に修行に行った身で、ありがたいことに再び戦場に立つ機会も増え忙しい日々を送っている。もちろん審神者たち人間にとっては、いつ終わるかもわからない戦いなど苦しいだけなのかもしれないが。
     鶴丸には、恋仲の刀がいる。同室ではあるものの、布団を並べたことはこの一月の間ほとんどない。二振りの向いている戦場に向き不向きがあるから、共に出陣したのは、もうずっと昔のころだ。鶴丸は恋仲である大倶利伽羅がどんな風に夜を駆け、戦っているかを知らないままだった。同じ部隊になりたいとわがままを言うつもりはないが、少しばかり残念な気持ちもある。きっと、その姿は言葉にできないほど美しいのだろうと確信があった。
     明日、鶴丸は長期遠征へと出る。おそらく、十日ばかりは戻れないだろう。状況によってはそれよりも長引くかもしれないという話だ。明後日帰還する大倶利伽羅とは、完全にすれ違ってしまう形になってしまう。明後日の早朝戻ってくる予定だそうだから、部屋を片付け、布団を干してやろうと決めた。長期遠征の前日は、丸一日非番であるから、幸いにも時間はある。
     それから、と。机の上の一輪挿しに目をやった。
     それは、鶴丸と大倶利伽羅がいつの間にか習慣としていたものだ。

     最初は、鶴丸からだった。
     そのときもやはり大倶利伽羅が長期任務のために不在にしており、鶴丸の方は短い出陣と非番を繰り返していた頃だった。本格的なすれ違いの生活が始まった頃でもある。
     隣の布団に、大倶利伽羅がいないことにもまだ慣れていなかった。寂しいなどとお互いに口に出すほど素直ではないし、かといって胸の中の隙間を無視できるほどには鈍感ではいられない。恋とは非常に厄介なものだなあ、と笑ってしまうこともできない。ふたり部屋なはずなのに、ひとり部屋であったときよりも、朝が悲しい。待ち望んだ大倶利伽羅がようやく帰ってくる日には、今度は鶴丸が任務に出ることになってしまい、肩を落とした。ああ、駄目だなあ、と。全然、らしくない。部屋に溜め息ばかり籠もっていても、帰ってくる大倶利伽羅に良くない。だから気分転換に、ちょっとした驚きを部屋に残して鶴丸は任務へ向かうことにしたのだ。

    「――鶴丸さん、もう大丈夫?」
    「ああ、うん」
     買い物を終えたばかりの乱に声を掛けられ、鶴丸は顔を上げた。乱も鶴丸と同じ部隊だから、今日は非番だ。彼の買い物に付き合うのに合わせて、鶴丸も万屋へとやってきた。少し悩んで、これにしようと目に留めた一輪の赤い薔薇に決め、店員を呼ぶ。
    「相変わらず、情熱的なんだね」
     鶴丸と大倶利伽羅がどういう関係性なのか、公言こそしていないものの、本丸の刀たちは大体察している。鶴丸が買った薔薇を誰に贈るのかも、乱にはわかっているのだろう。
    「赤い薔薇は俺から、白い薔薇はあいつからってね」
     あの日もこんな風に、薔薇を一輪買ったのだ。そしてそれを、文机の上の一輪挿しに挿しておいた。任務から帰還したあとは報告書を書くために大倶利伽羅は文机に向かうことを知っていたし、そうでなくとも、殺風景な部屋に鮮やかな赤は目立つ。鶴丸が帰還するころにはまたしても大倶利伽羅は任務へと出かけてしまったあとだったが、薔薇を生けていた一輪挿しには、今度は白い薔薇が咲いていたのには驚かされた。鶴丸も、大倶利伽羅も、このことについて敢えて口に出して触れようとはしない。しかしそれから、長期任務によってすれ違うことがわかっていた場合、こうしてお互いに薔薇を贈り合うようになったのだ。品種はその時々で変わったが、色はいつも同じだった。
     鶴丸から大倶利伽羅には赤い薔薇を。大倶利伽羅から鶴丸へは白い薔薇を。
     正面切って贈り合ったことこそはないものの、ふたりの間には習慣となっている。
    「でも、なんか薔薇って意外。あんまり、ふたりのイメージじゃないからかな」
    「派手な花だしな。光坊とか貞坊とかなら、様になるんだろうけど」
     好きな花は、ほかにもある。竜胆や紫陽花。それなのに薔薇を選んだのは、単純に店頭で目立っていたからというのはあるだろう。薔薇だったら、通年店先に置いてある。日本最古の洋薔薇をヨーロッパから持ち帰ったのはあの政宗公の家臣である、という話をなんとなく思い出したのもあった。あとは、赤い薔薇の色合いがどことなく大倶利伽羅を思わせたのだ。なかなか逢うことのできない、愛しい恋人。
    「俺の行動にそのまま返しただけだとわかっていても、嬉しくはなる」
     白い薔薇の花言葉は、「私はあなたにふさわしい」。大倶利伽羅としては花言葉など気にせず、鶴丸のイメージで白い薔薇を選んだだけなのかもしれなかったが、普段は言葉少なな大倶利伽羅の気持ちが詰まっているような気がして嬉しくなるのだ。
    「大好きなんだ」
     乱の言葉に、ああ、と頷く。胸のうちが、暖かくなってくる。誰かにそうだと言われると、自分でも思っていた以上に、彼のことが好きなのだなという実感が持てた。
     彼はいったいどんな顔をしていつも白い薔薇を選んでいるのか、鶴丸は知らない。知りたい気もするし、知らない方がいい気もする。いつもの仏頂面に、少しくらい、感情の欠片は浮かんでいるかもしれないと想像するだけで楽しくなるから。
    「……逢いたいなあ」
     本人には決して告げることができない言葉を漏らす。溜め息の代わりに息を吸えば、薔薇の香りがした。この薔薇を見て、彼も鶴丸のことを恋しく思ってくれればいいな、と思っている。
     ――俺にふさわしい、俺の恋人。
    ――きみのことを、愛している。
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