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    心臓が動いていない鶴丸の話

    ##くりつる
    ##本丸軸なふたりの話

    以心伝心「もしかしたら俺の心臓、動いていないのかもしれない」

     そんなことを鶴丸が言い出したのは彼が顕現してからひと月は経とうというときである。
     気づくのが遅すぎるのではないかと思ったが、案外、自分の鼓動というのは気にしないものなのかもしれないと自分の胸に手を当てて大倶利伽羅は考えた。
     この本丸の鶴丸は感情が希薄である。心臓が動いていないことに起因するというのであれば納得できるところがあった。心臓が動いていなくとも行動できるのは、刀剣男士ゆえのことだろう。
     俺はこのままでもいいんじゃないかと思ったんだが、主がなにかあるといけないというのでな。そこで、きみ、きみの心臓の音を真似させてくれないか。
     なぜ俺なんだ。
     主には断られたんだ。
     大倶利伽羅は主に同情した。
     大倶利伽羅の胸に、ぺったりと鶴丸が耳を当てる。
     ――これが心臓の音か。
     鶴丸は目を細めた。
     なんだか、眠くなるなあ。
     眠るなと耳を引っ張ったが、抵抗虚しく鶴丸はそのまま目を閉じ眠り始めてしまった。引き剥がそうにもうまくいかない。
     結局その日だけではうまくいかず、次の日も、また次の日も鶴丸は部屋にやってきて大倶利伽羅の心臓の音を聞きたがった。そのまま眠ってしまうので、鶴丸がやってくるのは決まって夜のことだ。大倶利伽羅の心臓の音を聞きながら安心した顔で眠っているので、呆れつつも起こす気にはなれなかった。

    「聴いてみてくれないか」

     鶴丸の心臓が動き出したのはそうやって夜を共にするようになってしばらく経ってからのことだ。
    「うまく動いているといいが」
     ほら、と手を伸ばされて誘われるがまま胸に耳を当てる。
     どくん、どくん、どくん、どくん。
     聞こえる音は大きく、速い。
    「当たり前だろう」と鶴丸は笑った。
    「きみの音を真似したんだから」
     顔を上げると、わずかに頬と耳が赤くなっている。心臓が動くことで血の巡りが良くなったからか。
    「ずるいなあ。ずるい。俺の方が先に気づいてしまったぞ」
     鶴丸は呆れたようであった。拗ねているようでもある。
    「責任をとってくれないか」
    「……わかった」
     頬を膨らませながら鶴丸が言うものだから、大倶利伽羅は頷く。鶴丸が大倶利伽羅の心臓の音を真似たのは鶴丸の勝手ではあるが、最初に断らなかった大倶利伽羅にも非がある。それで不具が出てしまったのなら、責任を取るべきだろう。
     大倶利伽羅は自分の胸に手を当てる。
     自分ではその大きさも早さもわからなかったが、そのかわり、鶴丸の心臓が答えてくれた。
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    DOODLEドッペルゲンガーだった鶴丸と一振り目の大倶利伽羅の話
    ドッペルゲンガー、恋を知る。第四話 窓辺に吊したてるてる坊主がこちらを見ている。
     鶴丸が顕現した春から季節は過ぎ、本丸には梅雨が訪れた。遠征先で雨は体験していたものの、毎日続く雨には驚きもなくうんざりとさせられる。じめじめとした湿気は気分を憂鬱にさせられるし、気晴らしに外へ出ることもできない。なにより、いつもの習慣であった大倶利伽羅との手合わせができないのは辛かった。道場は手合わせの相手を求める刀剣男士たちでいつもより溢れかえっていて、彼らと一汗流すのもよかったが、やはり大倶利伽羅との手合わせが鶴丸にとって格別なのだというのを再認識してしまうのだった。
    「ええと、これは、美術の棚か」
     書庫の中、鶴丸はワゴンを押す。
     青江の勧めに従って、鶴丸は書庫の管理人となった。司書と呼ぶには知識は足りないので、本当にただの管理人に近い。それでも返却された本を棚に戻したり、今まではなかった貸し出し管理簿を作ったり、やることはそれなりにある。特に、書庫の書籍をリスト化する仕事はなかなかやりがいがあった。鶴丸が顕現するまで本は適当に管理されていたらしいというのは青江から話には聞いていたが、終わるまでにどれくらいの時間がかかるものか。
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