「…………」
王になってからのライオスは時々ぼんやりと外を眺める癖がついた。
「何を探しているのか知りませんが、魔物はここには現れませんよ」
うっと詰まって、彼は気恥ずかしそうに頭を掻いた。どうやら図星だったらしい。
「たまにはあの味を恋しく思ってもいいじゃないか」
「全くあなたって人は」
これでは午後から公務に支障が出そうだ。恨めしそうに見上げる視線の前に腰をかける。俺を側に置いていながら、さっきの言葉は見過ごせない。それに、仮にも恋人がいるというのにそっちのけで魔物の話とは面白くはなかった。
「あんたは俺だけ食べておけばいいんです」
ぽかんとした瞳が俺を見つめる。こういう時に言葉はわりと無力だということを、俺は最近の経験で学んだところだ。
「食べられてるのはどっちかって言うと俺の方じゃないか?」
空気の読めない言葉は唇で蓋をする。見開いた目を視線で撫でるように笑んでやると、たちまち俺に身体ごと預けてくるのがわかった。
「腹ならいつでも満たしてやりますよ」
上気した頬に触れれば、柔らかな熱が指先から伝わる。同じ温度だった。ひどく熱くて危なっかしい温度。ぎゅっと締め付けられる感覚を無視して、もう一度だけ唇を食む。恋人に満たされているのは、心を食われているのは、己の方かもしれないと俺は薄く笑って息を吐いた。